SS詳細
スウィンバーン。或いは、悲哀の果ての終わりなき旅路…。
登場人物一覧
- セレマ オード クロウリーの関係者
→ イラスト
名前:"悲哀の子"スウィンバーン/スウィンバーン
種族:アンデッド・ゴースト
性別:男性
年齢:不明
容姿:https://rev1.reversion.jp/illust/illust/30637
流儀:正義とは愛と信仰を示し、不義とは不貞と悪徳である
愛と信仰、即ち正義の御旗のもとに、あまねく不義に鉄鎚を。
スウィンバーンの生涯はきっと幸福なものだった。愛と信仰を芯として、誇りを胸に生きたのだから。しかし彼の最後はきっと、ひどく不幸なものだった。彼の胸にある愛と信仰は、まるで虫けらのように踏みにじられたのだから。
スウィンバーンの名は、天義の聖騎士として伝わっている。生前の彼は、誇り高く信仰に篤い騎士であったが、ある日、突如として教会と家名を捨て去った。1人の女と共に生きるべく、すべてを捨てて天義を去った。しかし、女が愛していたのはスウィンバーンではなく、彼の持つ地位と財であった。
スウィンバーンは愛した女に裏切られ、失意のうちに命を落とした。
そして、信仰を捨てた哀れな騎士の魂が、天に迎えられることはなかった。
その体はアンデッド、その魂はゴーストとして、未だに現世を彷徨い続けている。
スウィンバーンは意思と自我を持つアンデッドだ。しかし、彼の自我は既に醜く歪んでいる。例えば彼は、愛した女に裏切られたことを理解していない。未だに彼女がこの世のどこかで、彼の帰りを待っているものと思い込んでいるのである。
そんな彼は、この世のどこかで今も“正義”を成している。不貞を、悪事を、不義を、悪徳を、愛と信仰に背くあまねく全ての事象を粛清するため“夢馬”に跨り、疾風のごとく戦場を駆ける。
誇り高きスウィンバーンは、愛と正義の側に立つ。悪人であれば、一言さえも口を聞かずに槍で貫き、剣で首を刎ねるだろう。そうして遺体を汚泥に変えて、腐敗した肉体の一部として取り込むのである。
しかし、善人であればスウィンバーンと言葉を交わすことも可能だ。けれど、会話の中でほんの一寸でもスウィンバーンの“正義”に背く言動があれば、即座に首を落とされる。結局のところ、彼の本質は死後に大きく歪んでしまったということだ。
スウィンバーンは武術、神聖・死霊魔術、騎芸を修めた名うての騎士だ。
セレマ オード クロウリーは心臓を含む肉体の一部を引き換えに、スウィンバーンの力の一端……自らの影を“武器”として扱う能力を手に入れた。
- スウィンバーン。或いは、悲哀の果ての終わりなき旅路…。完了
- GM名病み月
- 種別設定委託
- 納品日2022年08月17日
- ・セレマ オード クロウリー(p3p007790)
・セレマ オード クロウリーの関係者
※ おまけSS『スウィンバーンとの契約。或いは、この世に存在しないもの…。』付き
おまけSS『スウィンバーンとの契約。或いは、この世に存在しないもの…。』
ある寒い夜のことだ。
天義の外れ、古い戦場の跡地にてセレマ オード クロウリーは1人の騎士と相対した。
騎士の名はスウィンバーン。“夢馬”と呼ばれる騎馬に跨り、影と鎧を纏った騎士だ。鎧の内には、腐敗した肉体があるのだろう。
アンデッドと化した自身の体を、ゴーストと化した魂が憑き動かしているという存在だ。それゆえ、通常のアンデッドと異なり意味のある会話を交わすことが出来ていた。
「問おう。貴様は“正義”か、それとも“悪”か。悪であれば、その首を差し出すがいい。愛と信仰の御旗のもとに、我が神の下へと送り届けてくれよう」
地の底から響くような不快な声音で、スウィンバーンは問いかけた。数瞬の沈黙の末、セレマは地面に膝を突き、首を垂れて答えを返す。
「ボクはきっと“悪”だろう。けれど、騎士よ。誇り高き愛と信仰の騎士よ。貴殿の定める“悪”なる心は、“正義”へ成り得ることは決してないのだろうか」
カチャリ、と。
金属の音がした。
セレマの眼前に槍を突き出し、スウィンバーンは動きを止める。
「愛と信仰により“正義”の心を得ることは可能やもしれぬ。しかし、我はそのようなものを見たことがない。貴様……否、汝はそれを可とする者なりや?」
「この世に蔓延る“悪”とは弱さによるものだとボクは考える。弱いからこそ、悪心の囁きに人は身を委ねるのだろう」
己が弱いと知っているから、人はより弱い者を虐げる。
戦う力が無いからこそ、人は弱者から金や食料、命さえも奪うのだ。
「つまり汝は抗うための力を求めるというのだな? 我の力を求めてこの地を訪れたというのだな?」
「あぁ、その通りだ。ボクに力を与えてほしい」
「よかろう。しかし、代価は必要だ」
ゆっくりと、スウェインバーンが槍を前へと突き出した。
影のように槍が解けて、セレマの胸を貫いた。
痛みは無い。
代わりに、セレマの心臓が鼓動を止めた。
「……何をした?」
セレマは問う。
騎士はきっと笑ったのだろう。
鎧に覆われた自身の胸を拳を叩き、スウィンバーンはこう告げた。
「汝の心臓と体の一部をもらい受けた。代わりに我の影をその身にくれてやったぞ」
「……随分と、あっさりしたものだ」
「今はきっとそうだろう。しかし、汝よ……今後、汝の為すことはすべて我の知るものとなる。汝が“悪”であるのなら、いずれその首をもらい受けに現れよう」
思うさま、汝の正義を成すがいい。
そう言って、騎士は馬の腹を蹴る。
立ち去っていくスウィンバーンの背を見やり、セレマはくっくと肩を揺らした。
戦う力と引き換えに、心臓を含む身体の一部を失った。決して安くは無い代償だが、スウィンバーンの“影”はきっと役に立つ。
「……まったく、これだから騎士って奴は扱いやすい」
絶対的な正義など、この世の何処にもありはしないというのに。
愛と信仰など捨て去ってしまえば楽だというのに。
存在しない正義を探して、捨てられない愛と信仰に縛られて……この世を彷徨う哀れな死人をセレマは嘲笑うのだった。