PandoraPartyProject

SS詳細

10月23日

登場人物一覧

サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー


 びゅうるりと強い風がひとつ吹いたので、思わず首を窄め、マフラーの内側に口元を隠した。
 薄地のそれとは言え、少し季節柄としても尚早だろうかと悩んだものだが、巻いてきて正解だ。どうやら今日の秋風は路行く人々に厳しいらしい。
 まだ準備中のビア・バーの壁に背を預け、ほぉと息を吐いてみても、それは期待通りに白くはならなかった。
 時刻は十三時を過ぎた頃だ。昼食は互いで取り、十四時に待ち合わせだと約束をしていたのだが、思いの外早く来てしまった。
(気が早った? 浮かれている、のか?)
 自分のことを紐解いてみようと思うものの、少しでも感情を言葉の枠に収めようとすれば、忽ち否定がそれを霧散させる。八月からこちら、そのようなことばかりだ。
 ひとを待っている。相手は女性である。ふたりきりである。買い物をする。たぶん、食事もする。つまりこれは、
(デートだ。いや、中の良い友人の場合は果たしてそう言うのだろうか?)
 行き着かない問答に頭を悩ませていると、黄色くなり始めたイチョウが並ぶ歩道の向かい側に待ち合わせ相手の顔が見えた。
 ショウ・ウインドウのガラスに顔が触れるほど近づき、それをじっと睨んでいる。
 何か欲しい物があるのだろうかと首を傾げたが、どうやらガラスを鏡代わりにしていただけであったらしい。彼女、ハッピー・クラッカーは前髪を何度かいじると、満足そうにひとり頷いていた。
 その真剣な表情に声をかけるのは躊躇われたが、待ち合わせた相手を見つけておいてそのままにしておくというのも薄情な話だ。
 窓ガラスが鏡代わりだと言うのなら、近づけば向こうも気づくだろう。そのような気持ちで背後から、努めて気安く、彼女の名前を呼んだ。
「うひゃあ!?」
 自分の浅慮を後悔した。彼女を驚かせてしまったようだ。やはり気が早っているらしい。いや、普段の自分でも果たして彼女が自分の前髪にそこまで夢中だと気づいただろうか。
「え、ええ!? 早い!!! すっごく早い!!!!! まだ気持ちの整理が!!!!!! じゃなくて!!!!!! あー、えー、こほん……ま、待った?」
「いや、あー、その……い、いま来たところ」
 変な空気が流れた。
 頭を抱えたくなったが、彼女を見ると本当に頭を抱えていたので、自分も遠慮なくそうすることにした。おかしな緊張をして、ベタと言うにはあまりにベタ過ぎる回答を返してしまったことが、なんだかとても恥ずかしい。
「頭真っ白になると定型句しかでないもんなんだね……」
 ハッピーが何かを言っているが、あまり耳に入ってこない。だがやわくちゃになった思考回路は彼女の咳払いによって現実へと引き戻される。
「あのー……ど、どうかな?」
 スカートの端を小さく持ち上げてみせる彼女。いつものお嬢様然としたものではなく、秋らしく落ち着いた装いをしている。どこか期待を込めた眼差しをする彼女に、何か気の利いた言葉を返さなければと意気込むものの、
「に、似合っていると思う、ぞ?」
 としか返せない自分の頭をまた抱えたくなった。
「そっかぁ……えへへ」
 口下手な自分に少し嫌気が差してくる。今日この日に誘ってくれたのは彼女だが、所謂『エスコート』は自分の役目だと思っていたのに。
 ネガティブな思考に引きずられそうになるものの、自分の腕をハッピーが引いたので自然とそれらは掻き消されてしまった。
「ね、行こっ! GO! GO!! GO!!!ミ☆」
「お、おい……!?」
 篭められた力は思いの外強く、たたらを踏みそうになりながら早足で駆けていく。
 いつもの彼女。いつも通りの彼女。元気で、パワフルな、ハッピー・クラッカー。
 だけどその表情がどこか嬉しげで、声も上ずっていたように感じたのは、自分の気のせいだろうか。


 自分が鼻歌を口ずさんでいることに気づいたのは、それがサビも終わろうかというあたりに差し掛かってからのことだった。
 浮かれている。どうしようもなく浮かれている。だが仕方がないだろう。好きな人とふたりきりで出掛けているのだ。
 アクセサリ・ショップのショウ・ケース・ガラスに映るサイズを見る。今あの人は屋台で購入したドリンクを片手に、ベンチに腰掛けて一息ついている。
 休日のマーケットはひとがとても多く、その中で引っ張り回せばあの人を疲れさせてしまうことはわかっていた。それは嫌だ。自分のテンポではないが、それがあの人のペースに沿っていないと言うのなら、振り回してしまう結果になると言うのなら、それは避けたいものだった。
 だから意識的に休憩を挟んでいる。こうしてガラスに薄く映るあの人の様子から、疲れ過ぎてはいないか、マーケットの賑わいに嫌気が差してやしないか、そんなことを心配しながら、それでも一緒にいられるこの時間を楽しんでいる。
 ガラスに映るサイズがこちらを向いた。自分が何を見ているのかは気づかれて居ないはずだが、何だか目があったような気がして、恥ずかしくなって軽く俯いた。
 いや、俯いてどうする。自分の行動に叱咤をする。これはデートだ。紛れもなくデートだ。だったら目を合わせたって問題はない。お互いを意識することで進展することもあるだろう。こんな鏡越しのこっそりではなく、正面切って見つめ合い、いつしかお互いの顔が近づいていって、自然と――
「それ、気に入ったのか?」
「うひゃあ!?」
 不覚。サイズがいつの間にか近づいてきていたことに気づかなかった。本日二度目の「うひゃあ」である。
「え、な、なに!?」
「いや、ずっと真剣に見ているからな、それが気に入ったのかと思って」
「えと、あ……う、うん、そうそう! これ、いいなって……あ、かわいい」
 全く見ていなかったアクセサリ。店の人に悪いと思いつつも、ついついサイズのことばかり見てしまっていた。慌て、改めてショウ・ケースの中に視線を落としたのだが、その指輪に目を奪われた。
 鳥の羽がついた蓮の花。その輪郭を表すフレームのひとつひとつに異なった小さい着色ガラスが嵌め込まれており、カラフルなものに仕上げられている。
 サイズを見ていたことを悟らせないための誤魔化しであったのだが、それを忘れて思わず見とれていた。しかし、
「うーん、でもちょっとお高いね。まだ買うものもあるから、今はいいかな」
「そうなのか? 気に入ったのなら――」
「いいのいいの! それよりサイズさん、私休憩したらばっちり元気になっちまったぜ!!! 今日はマーケットの端っから端まで全部見て回るから、心して着いてこいよヨーソロー!!」
 力いっぱいを全身で表現する。だが彼の視線が、先程の指輪に注がれているのが気になった。
「――サイズさん?」
「あ、ああいや、行こうか。端から端までだったか? だったら急がないと時間がなさそうだ」


「あれ、なんだろう?」
「――ん?」
 マーケットにある噴水広場。そこで行われていたストリート・パフォーマンスを見終えたところだった。
 散り行く人混みの中に、ハッピーが違和感を覚えたらしい。視線を辿ってみると、年端も行かない女の子がひとり、右を見て、左を見ては俯いてしまっている。
 スカートの裾を掴み、肩を震わせ、また右を見て、左を見て。
 迷子だろうか。大道芸の出来はよく、先程までは息苦しい程の人だかりであった。芸事に夢中になっていれば、逸れていることに気づかなくてもおかしくはない。
「泣かないんだね、偉いぜ!ミ☆」
 声でもかけようか。そんなことを考えている内に、ハッピーが先に行動していた。子供の目線になるよう身をかがめ、屈託のない笑顔で話しかけている。
 こういう時、彼女の行動力には本当に感心する。俯いている少女にいち早く気づき、誰よりも早く手を差し伸べるのだ。それが何だか自分のことのように誇らしかった。
「おねえちゃん、だぁれ? おばけさん?」
「おうよ! 私はハッピー・クラッカー!! 笑顔のおばけだぜい!!!」
 その場でくるくると周り、先程のパフォーマンスを真似てみせる彼女。どこからか取り出したお手玉を使ってのジャグリングはまるで上手くいっていなかったが、その滑稽さに俯いていた少女も思わず笑いだしていた。
 そう、彼女はハッピー・クラッカー。何時だってひとを幸せにするのだ。
「ありがとう! ご覧いただき、どうもありがとう!! さて、どうしたんだいガール? 私達に話してみなよ」
 パフォーマーのような身振りをしておどけてみせるハッピーに思わず手を叩いて笑っていた少女。それですっかり打ち解けてくれたのだろう。少女は自分の状況を思い出し、少し暗い顔を見せながらも、ぽつぽつと話し始めた。
「あのね、お母さんが、いなくなっちゃったの……」
 思わず顔を見合わせる自分とハッピー。噴水広場の人だかりは散っているが、相変わらずマーケットの混みようは激しい。小さな女の子ひとりでは母親を探し出すことは難しいだろう。
 今きっと、母親の方もこの少女を探していることだろう。どこで逸れたのかわからず、マーケットのあちこちを回っているはずだ。探し出すような声は聞こえない。人混みは雑多だ。掻き消されているのかもしれなかった。
「君、名前は?」
「えっ、あ……リコリス!」
「お母さんの名前は?」
「アニス!」
「お母さんの特徴……フンイキは言える?」
「えと、優しい! 髪が長い! あと……緑の服!!」
「おっけー、任せろよ!!」
 リコリスに親指を立てて笑顔を見せ、こちらを振り向いてくるハッピー。交わされる視線。言葉はいらない。その意図は容易く理解できていた。
「お母さんを見つけよう。必ずだ」
 だが急がなければならない。秋も深まり、陽が沈むのも早くなってきた。悠長なことをしていて夜になってしまえば、如何に視点を確保できても発見は難しくなる。
「でも、どうやって?」
 不安げな少女。こういう時、どうすればいいのだろう。思考は疑問を投げかけたが、その答えを知っているひとを、自分はわかっている。
 彼女のように咲き誇るような笑顔を返すことはできない。彼女のように元気いっぱいのエネルギーを見せつけることはできない。しかし口の端を持ち上げ、安心させるだけの自信を持って頷くことは自分にも可能だった。
「勿論、空を飛んでだ」
 浮かび上がり、宙を舞う。驚いて目を見開く少女の前で、それこそ妖精のようにくるりと回ってみせた。
「それじゃあお任せした!!」
「任された」
 額に手を当て、敬礼のようなポーズを取るハッピー。それ以上の言葉はいらず、少女の感嘆の声を聞きながら、サイズはその高度を上げていった。


「見つかって、よかったね!!!」
「ああ、そうだな」
 買い物を終えて、夕食も終えて、ついでにデザートをいつもより多めに食べてみたりして、その帰り道。
 この話題も、もう何度目だろう。飽きもせずよかった、よかったと繰り返せば、サイズはそれに頷いてくれる。
 あの後、リコリスの母、アニスは程なくして見つかった。視線は通らないが、噴水広場に近いところで娘を探しているところを発見し、少女と引き合わせたのだ。
 ふたりには何度も感謝をされたが、買い物の続きがあるからとその場を離れることにした。既に夕焼けが見えており、寒くなる前に、危なくなる前に母親も家に帰りたかっただろうから。
 その後は少しだけ買い物をして、空腹を感じたので適当な店に入った。休日はどこも満席で、腹の虫が限界を訴える程には待つ羽目になったが、サイズとの話題は尽きなかったので時間を忘れることは容易だった。中でもやはり、あの母娘のことには何度も触れたものだ。
 日も沈みきりマーケットも閉店を迎える時間になると、あれだけあった人混みは嘘のように消え去り、街は静けさの中に埋まっている。
 一日が終わったのだ。このデートも終わりを迎えるのだ。そう思うと、楽しかったという記憶の隅っこに、終わってしまうのだという寂しさがこびりついていく。
 慌てて距離を縮めようとは思わない。それでも、次の約束くらいはしてもいいのだろうか。この人は今日一日が自分と同じように楽しかったろうか。気疲れはしていないか。後悔はしていないか。少しでも自分を、見てくれているだろうか。
 らしくはないと思いつつも、不安を感じれば言葉が出せなくなってしまう。また会おうではなく、次はどこに行こうと言いたい。いつまでも思い出を語り合っていたい。新しい思い出を作っていきたい。
 好きだと素直に口にしたい。
 また、あの母娘の話ばかり振っている自分がいる。そうではない、そうではないのだ。次の約束をしたいのだ。今日限りで終わらぬよう、明日のことを話したいのだ。それでも言い出せず、また同じ話題に触れそうになった時、手に柔らかい感触があった。
「え……?」
 見れば、サイズが自分と手を繋いでいる。
 その顔はこちらを向いていない。街灯の明かり程度ではよくわからなかったが、その頬がうっすらと赤くなっている気がした。
 目の奥が熱い。心臓がバクバクと煩い。不安は一気に消し飛んでいた。
 ぎゅっと、その手を握り返す。すると、手のひらにもうひとつの感触があった。何か硬いものだ。サイズが何かを持ったまま自分と手を繋ぎ、それを渡してきたのだ。
 何だろう。手の感触を名残惜しくは思いつつも、それを受け取り、顔の前に掲げてみる。
「――――え、これは」
 指輪だった。鳥の羽がついた蓮の花。色の異なる複数の着色ガラスが、街灯の光を反射して夜でも色取り取りに輝いている。
「ずっと、それを見ていただろう? だから、その――プレゼントだ」
 言葉に詰まる。自分はこれを見ていたわけではない。だが目を奪われたことは確かだ。そして何よりも、自分の行動をこの人が見てくれていたという事実が嬉しかった。
 指に通してみる。流石に薬指は恥ずかしくて、中指に嵌めた。大きさはちょうどぴったりだ。
「次は――どこに行こうか?」
 指輪に見とれていると、サイズがそんな事を言いだした。
 ぽかんとしてしまう。どうやってそれを切り出そうか、ずっと考えていたというのに。
「今日は、なんだ、楽しかった。だから、次もどこかに行きたい。一緒に……ふたりでだ」
 目の奥の熱さはきっと、既に瞳を潤ませている。それに気づかれぬよう、自分が思う最高の笑顔を見せた。自分はハッピー・クラッカー。何時だって幸せの申し子であると言うように。
「じゃあ次はね、次はね――――!!!!!!」


  • 10月23日完了
  • GM名yakigote
  • 種別SS
  • 納品日2019年10月20日
  • ・サイズ(p3p000319
    ・ハッピー・クラッカー(p3p006706

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