PandoraPartyProject

SS詳細

Sweet Eter

登場人物一覧

九十九里 孝臥(p3p010342)
弦月の恋人
九十九里 孝臥の関係者
→ イラスト
九十九里 孝臥の関係者
→ イラスト
空鏡 弦月(p3p010343)
孝臥の恋人

●世界の真理とは
 結論から言えば『可愛いは正義』である。対義語は『美しさは罪』。ここ、ローレットの昇格試験テストに出ます……というのは嘘だが、前半は本当。可愛いければ何でも許してしまうし、何より可愛さに人は抗えない。特にそこに惚れた弱みが加わると『可愛さ』は『愛らしさ』に変化し、最終的に声を失ってしまうのだと異世界では童話で語り継がれているくらい。
 本日はいつも可愛い彼と彼女のやりとりを見守る、可愛さの暴力により声を失ってしまったしまった男二人の物語。多分、屹度。

●料理は愛情!
「んしょ……えいっえいっ、むー……全然泡立たないよ……」
「紅巴、これは力を入れるのも大事だが早さが重要だ。空気を混ぜ込むように大きくかき混ぜて」
「それを素早く?」
「そう」
「難しい……」
 ボウルの中に入ったどろりとした液体を一生懸命泡立てる紅巴を、背後からあれこれ助言アドバイスをしながら応援する孝臥。ホイップクリームなる甘くてふわふわのものが出来るはずなのだが、今のところ何も起きない。少しとろみが強い牛乳くらいで、最初からこう。かれこれ数分格闘しているが、一向に泡立つ気配はない。
「慣れているなら孝臥が作ったらいいと思うの」
 むぅと膨れる紅巴は背後からの視線と声援に上目遣いで睨みつける。全く怖くないが孝臥は困ったように笑って首を振る。
「これは紅巴が言い出したことだろう? 満月に美味しい料理を作ってあげムグッ」
「い、言わないで……! 聞こえちゃうよ」
「失敬」
 足を踏み小声で抵抗する紅巴はなんとも微笑ましい。その心意気も気に入ったからこそ、孝臥も料理を教える流れとなっている。孝臥はお人よしの世話焼きだけれど、立ち振る舞いか風格か、或いは無意識の壁を作っているのか、交流自体はやや苦手。
 そんな彼が何故弦月唯一の身内以外にここまで面倒を見るかと問われたら、答えは簡単。『満月が弦月になんとなく似ているから気になってよく世話を焼いてたら、その満月から紅巴を紹介されて、紅巴から料理を教えてほしいとお願いされた』から。知り合いの知り合いは友達だなんてそんな友達百人陽キャの世界で生きてこなかった割に、あっさりと紅巴を受け入れられたのは孝臥自身少し驚いている。それでも見過ごせないのは、どこか彼女に思うところがあるから。
「……紅巴は素直だな」
「え?」
「いや、何でもない。独り言だ」

 ばっちり聞こえました。とは台所キッチンに立つ二人の更に背後、部屋の奥で前のめりになりながら後ろ姿を見守ガン見する弦月と満月。どちらも耳はいい。に対して特に。今にも抱きしめてやりたいが素直になれないあたり、お互い似たもの同士か。
「紅巴……健気すぎだろ……ハァ」
「孝、お前……良いんだぞ俺にも素直になってくれて……」
「「可愛いすぎる……」」
 弦月も満月も可愛さ浴びて語彙が溶けかけている。この調子で大丈夫か? 大丈夫ではない、まだまだ料理は始まったばかりで、可愛さの応酬も序の口。キャッキャと騒いでいる(※嫁可愛いフィルター)孝臥と紅巴はそんな事なにも分かっていないけれど。
 ちら、と横目で溜息を吐いたりぽーっと惚けたり天を仰いだりと忙しい満月を見る弦月。最初は――今もか――孝臥に気に入られている満月に嫉妬を抱きつつも、放っておけない。多分、孝臥が構ってなかったら弦月が気にかけていた可能性もある。孝臥の事は愛しいし独占だってしてやりたいけど、その孝臥が悲しむことは本意ではないし、何より自己犠牲を厭わない性格がいいのかもと自己分析しても理由はよく分からない。彼らはタイプの違う自己犠牲である故に。でも孝臥が良いと言うなら良いのだ。基準が孝臥。仕方ないじゃあないか、惚れた欲目で。
 自己犠牲という観点で見るなら紅巴の方が孝臥と似ている。自己を表現することが苦手で、真面目で、控えめだけど芯は強い。大人しくて鍛錬などで共に過ごしていても五月蠅くないところも嫌いじゃない。ひょっとして満月もこういう奴が好きなのか? なら孝が危ないのでは!? 等と妄想猛々しい弦月。その心配はまっっっっったくないのだが。満月は紅巴しか見えていないので。こちらは此方で『好きな人に一途くびったけ』な点が共通している。本人達は否定しそうだが、客観的に見て。

 漸く泡立ってきたホイップクリーム。しかし本や料理屋で売られているようなふわふわ感はまだ見えない。本当にあんなにモコモコになるのか心配になってくる紅巴だが、信じてかき混ぜ続けるしかない。ぐるぐるぐるぐる、腕が痛くなってきた。
「段々泡立ってきたな。その調子だ」
「これを……あとどのくらい? いつまでに?」
「冷えていないと上手く泡立たないんだ、ぬるくなりそうになったら冷水でボウルを冷やして」
「腕力が鍛えられそうだよ……」
 シュンと肩を落としながらもまだ冗談を言う元気があるなら大丈夫だと背を叩き乍ら、そろそろ本当にぷるぷるしだした紅巴に孝臥が少しだけ手を貸してやる。
「ほら、こう。持ち手を縦にして、掬うように……紅巴?」
「……これ、私が作ったって言えるかな……」
「何故?」
「だって頑張っているのはあなただよ、孝臥。私全然役に立ってないもの……」
 手際の良い孝臥の手腕で、ホイップクリームはどんどん泡立っていく。それを見て紅巴は悲しくなった。前線で頑張る満月、背を預けて戦うに足る孝臥と弦月の二人。それに比べて私はと、いじいじ。せめて料理でお腹くらい満たしてあげたいし、癒せたらいいのになと思っても、それも満月繋がりで出会った孝臥に任せてしまって。私に何が出来るのか、考えだすとキリがない。
「紅巴」
「ん……」
「これは君が言い出したことだ。最後まで責任を取らないといけない」
「……そうだよね、腕が捥げるまで頑張る……」
「そうではない。料理には工程がある、人には向き不向き・適材適所がある。この料理だって、この泡を作ったら終わりではないだろう?」
「あ……」
 何かに気付いた紅巴に、そういうことだと満足気に頷く孝臥。それからある程度泡立ったホイップクリームのボウルを再び紅巴に渡し、せっせと混ぜ続ける。その間に後ろから「これとこれは?」と聞く孝臥に手を休めず紅巴は答える。「これ、満月と似てるね」「それならこちらを混ぜよう」「わ、わ、色が……」「うむ、いい具合になってきたな」「もういい?」「丁度良い」「良かった、流石に疲れたよ」「偉いえらい」

 キィーッ!! 再び背後の二人。途中からぶつぶつと謎の言語を発していたが遂に人の言葉を失ったようだ。崩れないバベルとは……。弦月と満月は食いしばって耐える。今くちを開いたら奇声を発しかねない。やんちゃな満月ならともかく、好きな子の前では恰好つけたい手前ギリギリで持ち堪え。弦月も日頃から孝臥の料理は食べ慣れているのだから素直に褒めればよいものを年少が隣にいるのでそんな姿は見せらせないと考えて。
 はよ素直になれ、と誰が言ったか言わないか。その間にも料理はどんどん出来上がっているようだ。証拠に台所キッチンテーブルにあった様々な食材が、どんどん動いて消費されていく。二人の後ろ姿に隠れ何がどうなっているのかはよく見えないが、二人が仲睦まじくしているのを見ると心がぽかぽかする。お互い自分の(未来の)嫁しか見ていないがそれはそれ。好きな子が! 可愛らしく動いて!! 可愛いことをしていたら!!! 可愛くないわけないだろうが!!!! という心の叫び。隣の奴には届いているだろうなと心なしか気付き始めた弦月と満月。ここまできたらある種の戦友かもわからない。
「可愛いな……」
「ああ、可愛いな……」
「別に好きじゃねぇけど……可愛いとこ、あるな……」
「えっ好きじゃないのか満月」
「は!? は!? あっ、あっ、あんたこそ! 好きなのかよ!!?」
「俺のは……そういうんじゃねぇ……」
「じゃあなんだよ」
 ジィーっと半目で疑いの眼差しを向ける満月に、弦月はひっそりと。
「愛、かな……」
「…………」
 大人の男の大胆で漢らしい言葉に、これ以上何も言えなくなる満月だった。少年はまだまだわかい。

 背後で悶えたりしている野郎二人を残し、料理はどんどん進んでいく。無事出来上がったホイップクリームは青と白が綺麗なマーブル模様になったもこもこ。ピンと先が立って弾力もある。
 でっぷりと底が広くまぁるいグラスを用意して、まずはシリアルを底が見えなくなるまで入れる。次に薄切りの苺を今度はシリアルが見えなくなるまで敷き詰めて。ここで出番のホイップクリーム、絞り袋からムチューっと絞り出す加減に失敗して、出ないな? 次は握りすぎたらドバァッと出てしまったり。次はゼリーとジャムを入れるらしい。これは孝臥の案だ。食感の差を味わうのがこの料理のキモだそうで。均一な小さな立方体クランベリーゼリーを入れて、隙間を埋めるように苺のジャムを流し込む。手についたジャムを舐め取ると少しすっぱい。
「あなたのと私のでは随分と形が違うと思うの……」
「そんな事はない。材料も工程も同じだ」
「そ、そうなのかなぁ?」
 見間違いなら良いのだけどと料理作りを再開する紅巴。孝臥は決して否定はしなかったが、経験の差が見た目に如実に影響しているのは言うまでもない。
 今度は柔らかく濃厚な乾酪クリームチーズをジャムの上にたっぷり流し、再びマーブル柄のホイップクリームの出番。ここで役目は終わりなのでありったけ使った紅巴の作品は随分と背が高くなった。先に仕込んでおいた孝臥はあらゆる面で均一的なので、対比がすごい。グラスのふちに沿って、先ほどとは違う半分に切った苺を沢山とウエハースをひとつホイップクリームに差し込めば、ついに完成『ベリーパフェ』!!
「できたわ。喜んでくれるといいな」
「自信を持て。君が作ったんだぞ」
「うん」
「さぁ、お披露目といこう。腹ペコどもが待っている」

●愛情の味
「なんかすげぇの来たな……」
「う、味は孝臥さんのお墨付きだよ?」
「そりゃ信頼できるけど、見た目ムギャッ」
「すまない手が滑ってしまった」
「えー……」
 余計な一言を言いそうな満月に、拳を寸止めする孝臥。ヒュっと風圧が去って満月は黙った。そのやり取りを見ている弦月はじーっと『ベリージャム』の味を想像している。孝臥が俺の為(※満月のおまけ)に……一から考えて……。じーんと一人感動していた。半分以上妄想なのは誰も知らないのでツッコミ不在の恐怖ここに有り。
「で、これは? パフェってやつだろ、知ってる。味は苺……? の割にこの青は何だよ?」
「それはブルーベリーソースだ。ベリーといえば赤、という想像を打ち破る色だろう」
「俺たちの世界くににはよく有ったが、こっちにもあってよかったな」
「勿論赤もあったが、紅巴が満月の色みたギャッ」
「あーあーっ! 孝臥さん!!」
 ぽかぽかと顔をほんのり赤くして、必死に孝臥を叩く姿の愛らしいこと。ダメージは1が連打されているようだ。もう大体聞こえたので満月もしらんぷりを装っているが耳がぴこぴこ動いている。若いな……と思いつつ孝臥と弦月は優しく見守る。
「おーい、お預けはもういいか? 早く食いたい。孝の味付けに間違いはないだろうからな」
「光栄だ。期待に添えていると祈ろう」
「じゃあ」
「「「「いただきます」」」」

 スプーンで掬ったベリーと言われた青と白のホイップクリーム。本当か? と半信半疑で口に入れると、あら不思議。これは確かにベリー特有の酸味と甘み、独特の苦みもあって確かにベリー味だ! ゴリゴリと削り掘り進め、柔らかく濃厚な乾酪クリームチーズを挟んだジャムは馴染み深い苺の味で、ぷるぷるのゼリーは何のベリーだろう? 甘味より酸味もクセも強い。どちらにしろ美味しいのでヨシ! 底が見えてくるともうこれだけか、と寂しくなる。こんなに美味しいのが悪い。食べる満月が不意に顔を上げると、紅巴と目が合った。彼女はずっとこちらを見ていたようだ。
「美味しかった?」
「ぐ、まぁまぁだな」
「そっか」
「また食ってやってもいい」
「ううん、大変だからもう作らないよ」
「は!? なんでだよ」
「大変だからって今言ったよね!?」

 わいのわいのと騒ぐ若者とは対極にいる大人たちは、ガツガツ食いつく事無くしみじみと味わっている。当たり前だが食べたらなくなってしまうと知っているからこそ、端から底まで味わい尽くす。一口の咀嚼と嚥下が長い。
「どうだ、此方に来てから甘味は多く食べてきたが今回のは」
「美味い」
「それは重畳」
「孝の料理が不味かった試しがないだろう?」
「舌の肥えた弦がそう言うなら、そうなんだろうな」
「それだけじゃない」
 表情のかたい孝臥の片頬を引っ張り、弦月はニィと人懐こいような悪戯っ子のような顔で笑う。
「おまえの、孝の料理だから、美味いんだ」
「……材料は紅巴と集めたが……」
「…………そうだったな……」
 はぁ、とため息と共に再びパフェを食べ始める弦月。嗚呼良かった、孝臥は勝手に熱が集まる耳を長い髪で覆い隠した。この機会をくれた紅巴に感謝しつつ、自分も作って良かったと本心から想う。

●後片付け
「泡が中々落ちないの。油っぽさもずっとヌーって残ってるよ」
「そういう時はお湯につけると良い」
「つける」
「暫く桶に浸しておけば、すぐに洗い流せる。その間に簡単なものを洗うんだ。計量匙なんかは水だけでいい」
「はぁい」
 後片付けの後ろ姿まで可愛い。エッ可愛い、何その会話。エプロンで時々手を拭く仕草も、洗ったものを手渡しして乾拭きしたり、食器棚に仕舞ったり。動いてるだけで可愛い。なんだこの生き物……。
「おい」
「なんだ」
「可愛いな……」
「ああ……」
 二人の間に最早言葉はいらなかった。結論――『度を越した可愛いを浴びると、人は「可愛い」以外言えなくなる』。

【Q.E.D.】

おまけSS『Fear』

●Dear
 どういうところに可愛さや愛しさを見出すかは人それぞれ。
 ある人は可憐な少女や華奢な娘、放漫な肉体を持つ美女に誰かを導く先導者リーダー気質と言う。
 ある人は元気が良くやんちゃな少年、屈強な肉体を持つ男か、女にも負けぬ美しさを持つ者だと言う。
 ある人は小悪魔のように気まぐれで、こちらを振り回し、その身体は珍しい色が良いと言う。

 しかししかし、はどちらにも、どれにも当てはまらない。当てはめる必要もない。
 彼は唯一であり、何者でも彼の代わりになることは出来ない。
 彼の可愛さはなにものにも代えがたく、またなにかと比べるまでもなく。彼が彼である限り『可愛い』に当てはまるのだ。

 ――この世界に来たのが、一人だけなら耐えられた。
 ――でも、お前がいる。俺はお前を失う事を恐れる。恐怖してしまう。
 ――それが強さで、弱さで、愛しさで……多分、『■■■■■』って事なんだろう。

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