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武器商人とカルウェットの話~銀色横丁~

登場人物一覧

武器商人(p3p001107)
闇之雲
カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾

 たぷたぷ道が揺れたなら、銀の魚を追っていこう。走れ走れゆっくり走れ、全速力だと止まっちゃう。猛スピードは厳禁、現金、しこたま、がまぐち持ってきた。ちゃりちゃり鳴る鳴る銀色コイン、金ほど価値はないけれど、宝石よりもだいじなの。今日という日を陽に変えて、食べたい、買いたい、思いがはじける。無垢なる君へは無垢なる物を。陽なる君へは良う鳴る笛を。胸いっぱい空気吸い込んだなら、手を取ってあげよう、かわいい子。笛吹き鳴らしてパレード開始。さすれば、ようこそサヨナキドリへ。

 銀色の光が斜めに差し込んでくる広場で、カルウェットはベンチからぴょこんと飛び降りた。そして元気に両手を振る。ここはギルド・サヨナキドリの一角。涼し気なこもれびの下にキッチンカーが並んでいる。
「サンタさーん!」
 待ち合わせ相手の武器商人はゆるりと手を振った。
「ヒヒ、夏のサンタとはこそばゆいね。水着を着てバイクに乗ってシロタイガービーチへ乗り付ければいいのかい?」
「はうう、そんな、つもりじゃ!」
「からかっただけだよ、ゆりかごの娘。それでは、さんぽと洒落込もうかね。さあどこへ行きたい? なにが見たい? どうしたい? なんでもあるし、なんにもないよ。選ぶも選ばれないもキミしだいだ」
「ひっひー、すっごい、するな! あれもこれも、楽しそう、するぞ!」
「意気込みはよぅくわかったとも」
 武器商人はカルウェットの背中を叩き、先を促した。どちらへいこうか。カルウェットはおもいっきし考えた。背後の大通りは来る途中もう見たから、とりあえずあとまわしでいい。正面にある太い道がいちばん活気があってすてきだ。でも右隣の細い道もふしぎさとあやしさがスパイスになっているし、左隣の道なんかいい匂いが漂ってくる。だがしかし、財布は、財布は、無限ではないのだ。
(くぅ~! この日のために、がんばった! お小遣い、貯めた、した!)
 目覚めてまだしばしの娘には、借金という概念がない。よいことである。依頼の傍らウェイトレスをやり、庭の草むしりを手伝い、お届け物を配達し、仲間のコアを磨いてあげたりして、ようやく目標額まで達したのだ。これまでなんとなく楽しく暮らしていただけで、それはそれでよかったけれど、目標があると張り合いができる。そんな新しい暮らしに気づいたカルウェットだった。その結果はおおきながまぐち財布となってカルウェットの胸にぶらさがっている。
 が、何を買うかまでは決めてないってのがまたカルウェットらしかった。サヨナキドリに行くのなら、たぶんこのくらいはいるんじゃないかな? と、てきとうに見積もった。その額が結構大きかったという次第だ。武器商人はことの顛末を聞くとけらけら笑い、アッシュグレイに桃色の差し色が入った今日の角飾りを撫でてやる。
「そうだねえ、キミの選択の綴りを我(アタシ)も見たい。だいじょうぶ、時間はたっぷりあるさ。ちょっと捻じ曲げておくから、存分に悩むがいいよ」
「ありがと! する! むむむむむ……。むー!」
 カルウェットは悩んで、悩んで悩んで悩んで、わーっとなって、とつぜん街路樹の下へ走っていった。
「これで、行き先、決める、する!」
 振り向いたカルウェットの手には小枝が握られていた。
「なるほどなるほど、時には運命を魔術へ委ねてみるのも手だね」
「これ、魔術?」
「いにしえより伝わりし立派な魔術だとも。ヒヒヒ、それではお手並み拝見」
「むん!」
 カルウェットが小枝を垂直に立て、しずかに手を離す。小枝は乾いた音を立てて右の小道を指し示した。
「ふっふー……」
 なんかちょっと残念そうなカルウェットが武器商人を見上げる。
「いいんだよ、そうやって最後に残った意思がなにより強い力になる。心のままに、ゆりかごの娘」
「?」
「結果に関係なく行きたい方に行っていい、という意味」
「いい、する? やったぁ!」
 カルウェットが武器商人のすそをつかんでぴょんと飛び跳ねる。そしてそのままぐいとひっぱった。おいしそうな匂いのする方へ歩きだす。うーん、正直。
 細道へ入ると、そこはぎっしりと上から下まで食べ物の天国。コモド支店と書かれた看板の下では長耳のハーモニアらしき女が売り子をしている。
「もっちりとした生地の上でホワイトソースの海を黄金の宝石が泳ぐ、たっぷりコーンピザはいかがかしら、コーラもあるわよ」
 売り子の声にさっそく引っ張られたカルウェット。
「ここもおいしいけれど、ひととおり見て回ってからのほうがいい。でないと、おなかが破裂するよ」
 なにせこの道の最奥にはフルーツパラダイスことジュエリー・スイーツが待っているのだから。そういうとカルウェットは瞳をきらめかせた。
「うん、がまん、する!」
 ぴょいんぴょいん跳ねるカルウェットを見て、売り子のお姉さんが微笑んだ。
「なぁんだあ、商人さまのお連れさまでしたか。お嬢ちゃん、一切れ持っていくかい?」
「え? おかね……」
「いいって、いいって。その代わりコモドを贔屓にしてくれるようお友達へ伝えてくれないかい。深緑に行ったらピザ屋コモド、コモドをよろしくね!」
「わかった、した! コモド!」
 なんだかその勢いでお姉さんとカルウェットがハイタッチ。武器商人は珍しく柔らかな表情。
(今日は頭目がごきげんだこと)
 お姉さんは内心すこし驚きながら、薄紙で包んだピザを一切れずつ、武器商人とカルウェットへ渡した。
「ふむ、たまにはこういうジャンクなものもいいね」
 軒下を借りて、ふたりして行儀悪くもぐもぐ。熱々のピザは謳い文句に負けず美味しい。焦げ目の付いたチーズはカリカリで、そこにとろけたホワイトソース、これでもかと山盛りのコーンが乗せられている。クリスピーな生地とあわせてざくっと頬張れば、口の中にラサの太陽のような熱気がなだれこんでくるから、はふはふと空気を飲みながらカルウェットはホワイトソースのコクとコーンの甘さと旨味をたっぷり楽しむ。途中で次へ行こうかという話になって歩き始めたのはいいけれど……。
 ところがどっこい、食べていると歩けない、歩いていると食べれない、カルウェットは一つのことに夢中になるとほかのことができないっぽい。しかたがないねと、どっこいしょ。武器商人はカルウェットを肩車してやった。
「わあ、広い! 遠く、見える! する!」
 このはしゃぎようの半分でも息子がしてくれるようになったなら、などと武器商人は小さく笑んだ。武器商人の肩の上からあっちこっち見て回っている内に、カルウェットは妙なものに気がついた。四角いプールみたいなものに、銀色の魚がいっぱい泳いでいる。そこに集まったお客は丸くて白い道具で水の中の魚を掬おうとしている。
「ほえ、あー、なに、するもの、あれ?」
「ああ、グミすくいだよ。新鮮なグミがすくえるよ、やってごらん。楽しいとも」
 カルウェットがすとんと降ろしてもらうと、グミすくいのお店へ近寄った。店主らしい日に焼けた男が満面の笑みを浮かべる。
「へい、商人様、よくいらっしゃいました。お連れの方も、どうぞ楽しんでいってくだせぇ!」
「えと、おかね……」
「気にすんな嬢ちゃん、そのかわり一回だけだ。もう一回したかったらおあしをもらうぜ」
「うん!」
「我(アタシ)もやっていいのかい?」
「商人様はご勘弁を、開店休業になりまさあ!」
 カルウェットは腕まくり、よく見るとたしかに泳いでいるのは魚ではなく、グミだ。だけどホンモノみたいにキラキラしていて、カルウェットの胸をときめかせる。カルウェットは受け取った道具(ポイというんだと後で武器商人から教わった)をかざし、狙いを定めてえいやっ! ざんぶと水が飛び散った。ポイには大穴。
「え、これで、おしまい、する?」
「そのまさかだ嬢ちゃん!」
 ぽかんとしたカルウェットの前に、二匹の魚グミが入った袋がさしだされた。
「これは残念賞。とっときな、嬢ちゃん。商人様、どうぞうちの店を今後とも宜しくお願い致します、へえ」
 威勢のいいおじさんが武器商人の前でだけは、ぺこぺこするのがおかしくて、カルウェットは笑っちゃいそうになった。残念賞のお魚ちゃんは、さてどうやって食べるんだろう。カルウェットが袋片手にじっとしていると、武器商人が顔を近づけた。
「食べ方がわからないのかい?」
「ん」
「こうするんだよ」
 武器商人が袋の紐を解く。銀色にぎやかお魚ちゃんがゆらゆらと出てきてカルウェットの周りを回った。そのうちの一匹がカルウェットの唇をキスするみたいにつつく。思わず口を開けたカルウェットの口内へお魚ちゃんが飛び込んできた。甘い! 上質なお砂糖とまったりしたゼラチンの味。それが口の中でぴちぱた暴れてよけいに甘さを煽る。カルウェットは夢中になってむぐむぐした。したあとでちょっぴり複雑そうな顔をした。
「なんだか、お魚を、踊り食い? した、気分」
「ああ、それは間違っちゃいないね、ヒヒヒ」
 食べるのがもったいなくなって、残ったお魚はしばらく放っておくことにした。お魚ちゃんはついついと、好きな方へと宙を泳いでいく。カルウェットはそれを追いかけ、いつしか裏路地へと入り込みそうになり……。
「いけない」
 武器商人がカルウェットの腕を取った。
「どして?」
「そこの路地はね、月に二回、黄泉へ繋がるんだ。運がいいのか悪いのか今日がその日でね。どうしてもというなら止めはしないけれど、おすすめはしないよ、ゆりかごの娘。まだまだこの世で揺られておいで」
 その路地はひどく蠱惑的で、見ているだけで胸が高鳴るから、カルウェットは武器商人へぎゅっと抱きついた。
「ひっひー、こうしてると、怖いもの、なんにもない、する!」
「そうかね」
 そう言われるのは、久しぶりだ。武器商人はカルウェットを抱き上げた。ジュエリー・サマー・シェイクでも買ってやろうと思いながら。

  • 武器商人とカルウェットの話~銀色横丁~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別SS
  • 納品日2022年07月20日
  • ・武器商人(p3p001107
    ・カルウェット コーラス(p3p008549

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