SS詳細
蒼に染まる華
登場人物一覧
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――What are little girls made of?
Sugar and spice.
And everything nice.
That's what little girls are made of.
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『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は意気揚々と雲一つ無い空を滑るように翼を広げていた。
足元を小鳥たちが着いてきて、歌っている。なんて清々しい朝だろうか。
やがて――街角について、誰がいるかをチェック。
ふんふん、今は『あの人』はいないようだ。
夜も来た痕跡は無さそう……たぶん。
なら、早めに寝て正解だった!!
きっと、もし彼と夜長会話をするチャンスがあったのなら、それはちょっと小さな胸がしゅんとしてしまうかもしれないもの。
「はいおはよう!」
日課の挨拶を終えてから、華蓮は頬を両手で叩く。
夜更かしをしなかったから、お肌の調子はいいし、何より目の下にクマも無い。むくんでいる場所も無ければ、なんとなく普段より可愛い自分のような気もする。
噴水に映った自分のボディチェックを終わらせ、そして華蓮は今日の予定を確かめる。
スケジュール帳にはでかでかと太い文字で、『今日はお洋服を買いに行く日!!!!!』と書かれていた。連なるエクスクラメーションマークが気合を彷彿とさせている。
つまり本日はその日。
風が夏の湿り気のあるそれから、渇いた冷たい風に変わっている。丁度、時節が別のものへと廻り変わる今日こそ、絶好の買い物日和と言えるのだろう。
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とは言え、何を買えばいいのだろうか?
「うーん」
頭から湯気でも出るのでは無いか―――くらいに、お店の店頭に置いてあるマネキンを凝視していた。
「確かにこの洋服とってもかわいいけれど、マネキンが着ているものを買ったらオリジナリティ無いのだわ!」
今日この日の為、何も調べずに来た訳ではない。
幻想で出回っている雑誌や、時代の最先端を歩む練達の電子書籍、はたまた傭兵出版の雑誌などなど。今何がトレンドなのか、どういったものが秋風ファッションなのか下調べはしてきた。
しかしだ、華蓮は有翼人種の中でも特殊と言えるくらいに翼が大きい有翼人種。
その羽がすんなり入るような洋服があればいいのだが――見れば見るほど、カオスシードだけが着れそうなものばかり。
畜生、羽さえなければ。そんな愚痴を脳内に零しながら、でもでも! もしかしたら探せば、羽もフィットして、かつ納得できるファッションが見つかるかもしれない!
というわけで、華蓮は根気よくファッション一色の華やかなお店を渡り歩く事にした。
そこで見つけたのが、このお店。
「なんて読むんだろうっ? ええと、ポムニット? かわいい名前!」
丁度良く種族ごとにブースが分かれていて、何より選びやすそう。
それに何より、店員さんも有翼人種。ここがでかい。華蓮のような大きな羽ではないけれど、同じ種族だと悩みも解ってくれそうだと、無意識に華蓮は安心感を覚えたのだ。
そして、論点は元に戻る。
問題は服だ。
まず大前提に、華蓮は今回『あの人』に気に入って貰える服を買いに来たのだ。
自分が着たい服では無く、彼から見て「いいんじゃない?」と言わせる服を考えるのは大変な事。
すると、華蓮の鼓動がどんどんと早くなっていった。
ここまでお店探しに必死になっていたからか、やっとスタート地点に立って、いざ彼の顔を思い浮かべると、不可思議に心が穏やかでは無くなる。
一度深呼吸して、華蓮は売られている服がかかっている所まで歩き、一枚一枚品定めしていく。
どうだろうか、最近は肩など一部分がカットされて肌が出ているものが多い。セクシーといえばセクシーなのだが、果たして『可愛い』方面である自分の顔と似合うかは別問題だ。
「そういえば……」
彼はセクシーだとか、露出が高いものが好きなのだろうか。
一歩幻想の街を歩けば、やたらがっつりスリットが入った服を着ている人や、そもそも水着のような服を着ている人だっている。そりゃあ合衆国みたいな世界だ、色々な人が居てもいいのだが――思考は一般的な華蓮の心には、いまいちああいうものはフィットしないようだ。いや、人生で一回くらいは着てみたいかもしれないケドッ!
「あのー」
「はははひゃいい!!」
すると先程の紫髪の有翼人種の店員さんが話かけてきた。
「あ、いえ、ずっと下を向いていたのでご体調が優れないのでしょうか……?」
「いいいえ! そういう訳じゃなくて、色々と考えすぎてしまったのだわです」
緊張して意味不明な敬語らしきもので喋った華蓮に、店員さんは可愛いですねとくすくす笑っていた。
結果、店員さんの助言もあり、百聞は一見に如かずのように、気になるもの全て試着する事になった。
試着室は華蓮の羽でも無理なく入れるほど、ゆとりある空間だ。
まず、清楚な秋色ワンピースに花柄が着いたものを着てみた。
「むーん、なんかちょっと思ってたのと違う?」
華蓮は顔を傾けて自分の姿をまじまじと見てみる。なんだか大きな帽子をかぶって、お花畑の中央でお茶会しそうな服装だ。対面の席には彼がいて、にこやかに笑いながら(注:華蓮のイメージです)大きな手が頬にかかり――。
「違う違うっ! そもそもあの人はそういうさわやかじゃないのだわ!! 次!」
ちょっとボーイッシュにズボンだが、ロングのカーディガンを羽織る事で上品かつ大人をイメージ。トップはフリルのあるものでフェミニンさを――、ふと彼が思い浮かんだ。「おっ、いつもと雰囲気違うな」と気づいてくれたらそれはそれで嬉し――。
「いや!! 元気系はちょっと方向が違うのだわ! 次!」
今度は先ほど考えた露出の高い系。レースがあるので完全に肌が見えている訳ではないが、背中ががっつりレースで背中丸見え。スカートはミニスカートの上にレースの長いロングレーススカートで足が見えてすけすけ。
着てみたら案外あっているような気はした。大人びていて、まるで自分ではないような。
でも少し狙い過ぎ?
「違うのだわっ、強調し過ぎてもかえって逆効果な気がするのだわ、狙ってますと言わんばかりだわ!! ていうかずっとレオンくんの顔が浮かぶのが悔しいのだわーっ!」
惜しいがちょっと違うので、キープではあるが次!
そして、最後の選んだのがノースリーブのニットに、ロングのスカート。スカートの裾には軽いフリルが入り、上品だが愛らしく。愛するより愛されるような女性のデザイン。
「……ぁ」
着てみて、根拠は無いが「良い」と思った。
いや、むしろその時に彼の顔が思い浮かんだのだ。この服を見たら、どういってくれるのだろうか――と。
「ん……」
苦しいけれど嫌じゃない切なさが華蓮の胸を締め付けた。今すぐ逢いたいような、そんな気持ちに。
彼の事を考えてする買い物って、こんなに楽しいものだったんだ。
だから、きっと、これが正解。
「これください!」
花の咲く笑顔で、華蓮は決めた洋服をレジまで運んだ。
綺麗に包まれてショッパーに入った服を受け取る。会計を済ませて、一歩お店の外へ出たら、なんだか世界が一層煌びやかに見えた。
抱きしめたショッパーには、たくさんの楽しみが包まれている。
この服を着て、早く街角へ行きたい――いつも私の心を、七色に変えてくれるあの人のところへ。