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夢幻の悪夢
登場人物一覧
果実に溢れ、色鮮やかなキノコが生えた深く豊かな森。
まるで夢の中でどこまでいっても続く森のようだ。幼い時、住んでいた森にも似ている気がする。
だが、俺は物思いに耽るために、ここにいる訳じゃねぇ。依頼で子供を一人探しているのだが、どうにも見つからない。
深い茂みを抜けると、そこには探していた子供と幻が手を繋いでいた。
——幻こと、夜乃幻は俺の大事な恋人で、仕事の相棒でもある。
「ジェイク様、依頼の話を聞いて僕も追いかけてきてしまいました。僕の方が先に見つけたようですね」
愛しい声が、こんなところで聞けるなんて思ってもなかった。しかも、俺を追いかけてきてくれるなんて、やはり幻は優しい女だ。
「先に探してたのに負けちまうなんてな。結構頑張って探してたんだが」
「うふふ、奇術師にできないことなんて御座いません」
そう、俺の幻は奇術師でもある。何をどうやってるのか俺にはさっぱりだが、不思議なことを平然とやってのける。
「ところで、先ほどあちらに素敵な場所を見つけたのです。ジェイク様、一緒に参りましょう」
子供も元気そうだし、寄り道ぐらいいいか。俺は短く、おう、と答えて、幻と子供についていく。
幻とたわいない話をしながら、その場所へ向かっていく。
あぁ、やはり幻は可愛い。子供がいなけりゃ抱きしめるとこなのにな。
——ん……なんだ、この気配……。
「幻! 止まれ、そっちは危険だ!」
幻の手首を引っ張って、こっちへ連れてこようとするも、幻は不思議なモノをみるような目で俺を見る。
「ジェイク様、どうなさったというのです? こちらには何もないじゃないですか」
確かに何もない。だが俺の経験が、獣としての勘が、危険だといってる。
「俺の嗅覚がヤバいっていっているんだ。いいから、こっちに来るんだ!」
「変なジェイク様。こっちに行けば素敵な場所が広がっているって言っているのに」
——変なのは幻。お前だ。
そう言って、大きく退く。幻の顔がほんの少し歪んだ。子供が幻と俺を交互に見ている。
「本物の幻なら、俺の嗅覚を信じてくれるはずだ。お前はよくできた偽物だな。……クソがっ!」
「何を言っているのか、分かりませんね。ジェイク様の鼻がおかしくなってしまっただけでしょう
? 大丈夫ですよ。あの方は少しおかしくなってしまっただけですからね」
玉を転がすような甘く優しい声。子供を騙せても俺を騙せるとでも思ってるのか。
銃のセーフティを素早く外し、臨戦体制をとる。
「偽幻、テメェの魂胆は分かってるんだ。子供を解放しろ!」
偽幻の肩を狙う。だが、照準の中で悲しい顔をする偽幻に動揺して撃ち漏らす。
「何故、分かってくれないんですか? 分かってくれるまで戦うしかないのですか……」
いけしゃあしゃあと悲しそうな顔で言いながら、ナイフを的確に投げてくる。
偽幻の顔に本物の幻の顔がダブって動揺してしまい、肩と足にナイフが刺さる。
何発も銃を撃つが、痛みと偽幻の姿でどうしても照準が定まらない。口に咥えたマガジンを何度もリロードする。だが、カスリもしねぇ。
身体を切り刻んでいくナイフ。血が出過ぎて、頭がぼーっとしてきやがった。
このままだと死ぬだけだ。本物の幻に生きて会いたい。
——死んでたまるか!
しっかりと偽幻の心臓を狙って銃を撃つ。弾は少しずれて偽幻の腹に当たる。血がダクダクと流れていく。その姿を見るのは辛かったが、偽物になんか、かまけてる暇なんざねぇ。
「……ジェイク様、酷いです。……僕が何をしたっていうんですか」
そう言いながら、子供をナイフで脅しながら盾にする。
「ガキと俺への殺害未遂。十分だろ。その上、ガキを脅しやがって!」
子供好きなジェイクは心が痛む。だが、前に進むしかない。幻のことを想いながら、いつもより集中して照準を覗く。弾丸は残り僅か。身体はとうに悲鳴を上げている。だがよ、俺はこんな所で、くたばるわけにはいかねぇんだ。
一発の銃弾を放つ。偽幻の心臓にぴたりと命中する。
——噴き出る血。
——どうっと倒れる偽幻の姿。
——消えていく、まぼろし。
俺と子供は崖のすぐ側にある森の中で銃に撃たれた老婆を一人見つけるのだった。
泣く子供を保護し、親に返す。それから、足を引き摺りながら、一番に向かったのは幻の家だった。
窓から俺が見えたのだろう。家から飛び出してきた幻は、開口一番「大丈夫ですか?」と聞いてくる。
「大丈夫。大丈夫だからさ。笑ってくれないか」
「こんな無茶して本当にバカです!」
泪を零しながら、無理して綺麗な微笑を見せてくれる。
——嗚呼、本物だ。本物の幻だ。
「なぁ、愛してるって言ってくれ」
「……もう……本当に……! ……愛してます! ……これでいいですか?」
顔を真っ赤にして、綺麗で尚且つ可愛い。
「やっぱり俺の女が一番だ」
意識がぷっつり途切れる。柔らかな感触に包まれて、俺は眠るのだった。