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私の安心できる場所
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――それでは、また来るでござる。
そう言って家を出た恋人を見送った清は、片付けをしようと家の中に戻った。
まだ昼間とは言え、ここ最近風が吹くと肌寒くなってきた。特に清の薄着では外は冷える。
腕をさすって温めながらリビングに入ると、椅子に掛けられた青と黒のマントが目についた。
「あれ? これ……わ、忘れ物……でしょうか……?」
彼の愛用する手裏剣の刺繍が入ったマント。触れるとほんのり温かいのは、先ほどまで彼がマントをかけた椅子に座っていたからだろうか。
(いつも……レン様が身に着けているマント……)
手に取って広げてみれば予想より長くて、小柄な清は足首まですっぽり包まれてしまう。
彼が羽織っている時はマントにしては少し短めに思えるのに、清が羽織ると今度は大きい。
「わぁ……。やっぱり私には、レン様のマントは大きい、です……っ」
くるりとその場で回ってみれば、遅れてマントもくるりと回る。
彼が羽織っている時と全然違って、それだけで彼がどれだけ大きいのが分かる。
大きくて、温かくて、ふわりと香る彼の香り。
裾を持ち上げて香りを嗅ぐと、無意識のうちにふさふさの耳と尻尾が動く。
(レン様に、抱きしめられてる……みたいです……)
明るくて、優しくて、ぽかぽかあったかい清のお日様。
窓から差し込む日差しがあったかくて、包み込むマントが幸せで、清はその状態のままぽすっとソファーに座り込んだ。
ぽかぽかぬくぬく、しあわせいっぱい。
彼の香りに包まれているのが幸せで、もう少しだけこのままで。なんて考えるけど、すぐにこれじゃ変態さんだと一人で慌てふためいて。
「レン様……」
あったかくて心地良くて安心出来て。
「レン様の匂いは……私にとって一番……」
小さな呟きは、すぅすぅと安心しきった寝息に変わった。
あたたかな日溜まり。
大好きな彼の腕の中。
包み込むマントと彼の温もりが嬉しくて、清はそっと身を寄せる。
名前を呼ばれて顔を上げたら、楽しそうな彼の笑顔。
一緒にどこかに出掛けようか。なんて二人で笑い合うだけで心が温かくなる。
嬉しくて幸せで、思わず頬が緩む。
「レン様……」
彼への愛おしさで胸がいっぱいになって、溢れて彼の名を呟く。それが聞こえたのか、少しかさついた、あたたかな物が清の頬を撫でる。
くすぐったさに頬を緩めると、今度は緩く摘ままれる。
「ふぃ……?」
痛くはないけどくすぐったくて目を開けると、そこには微笑む彼の姿。
「レン様……?」
寝ぼけたまま体を起こすと、ぱさりと音を立ててマントが膝の上に滑り落ちる。
まだぼんやりしていた清だったが、すぐに目の前の彼に気づいてぶわりと尻尾が逆立った。尻尾がマントに隠されていたのが幸いだろうか。
「ひゃわ!? レ、レ、レン……さま……!? ぃ、いらっしゃって!?!?」
マントを取りに戻ったのだと言う彼に、清は彼のマントを自分が羽織って眠っていたことに慌てふためいた。
「こ、これは! その、あのっ! か、勝手にご、ごめんなさいっ!!」
慌ててマントを差し出すが、そうすると今度は寒くてぶるりと震える。
それを見て、彼は受け取ったマントを羽織ると、清を抱きしめマントの中に包み込んだ。
「きゃわ!」
びっくりして彼を見上げれば、彼は楽しそうに笑いながら清の小さな体を抱きしめる。
どきどきして、あったかくて幸せで、夢によく似た状態に頬が熱くなる。
どうかしたのかと問う彼に、清は一人でテンパってしまう。
「うぅ……レン様のマントに、包まってると……レン様に抱きしめられてるような気がして……安心して……眠ってしまってました……。お、お恥ずかしい……!」
赤くなった顔を伏せると、彼はきょとんとした後笑いながら清を撫で始めた。
聞けば、幸せそうに微笑みながら、彼の名前を呼んでいたのだと。
(ゆ、夢だけど……夢じゃなかった……!)
嬉しくて、幸せで、思い出すだけでも心がぽかぽか温かくなる夢。だけど。
「あ、あの……夢で、こんな風に……レン様にギュって抱きしめられて、ですね……。きっと……レン様のマントに、包まってたから、です……。でも、です、ね? ゆ、夢より……マントだけより……レン様と、その……こうやって、直接ギューッ! てしてる方が……えと、安心、出来、ます……です……はい……」
抱きしめてくれる彼の体に、そっと腕をまわす。
自分で言っていて恥ずかしくて顔が熱くなる。
自分では見れないけど、きっと真っ赤になっているに違いない。
でも、夢よりも現実のほうがドキドキして、あったかくて、幸せいっぱい。
マントだけより、彼に抱きしめられて、抱きしめている方が嬉しくて心がぽかぽか。
「だ、だから……こ、これからもレン様といっぱいギューッてしたいですし……大好き、です……!」
恥ずかしくて彼の顔は見れないけど、あったかくて幸せな、ここが私の安心できる場所。