SS詳細
スチル名『海の傍で、君は笑う』
登場人物一覧
タイトル:ぱんどら★ロマンス
対応機種:Pandora Party Project
ジャンル:可能性蒐集ラブコメADV
――の、夢小説サイトがあった。注意書きのしたのエンターを押して名前変換を行う。
ギャラリーの ■□□ というのをクリックすれば小説が読めるという訳だ。ちなみに、黒については『R指定』と※印で記載されている。
ちなみにこのサイトの主はマグダレーナである。割とノンジャンルで夢小説を書いているのでそちらにも期待したい。
貴女の名前を教えて♪
姓 月原 名 亮子
●
海洋での脅威を退けた事で特異運命座標達の評価はうなぎ登りであった。国家を挙げての国賓として持て成される事となった特異運命座標の中で、亮子だけでは一枚の招待状を手にしていたのだ。
ソルベ・ジェラート・コンテュール卿。
海洋王国の貴族派筆頭でありながら、かねてより特異運命座標達とは距離の近い位置で様々な対応に当たっていてくれた青年だ。その家柄はさることながら、貴族を束ねる才能とどこかお茶目な雰囲気が特徴的な事で親しみやすい貴族であると名を上げられる事もよく見られる。
そんなコンテュール卿からのお誘いだとなれば、亮子は普段通りの『私が暇だからご一緒にお茶でも尾根が強いたいのです』という内容だろうと理解していた。
親しみやすい人柄から、彼からの茶会の誘いというのは良くあることだ。自身の別荘に特異運命座標を呼び出しては雨の日を共に過ごしたいというのだから、今回もそう言う事だろうと亮子はソルベの指定通りに海洋の彼の屋敷を目指した。
指定日時に近づき、使用人の案内を受けて進めばオープンテラスにはいつもの通りソルベが着席している。
「コンテュール卿、本日はお招きいただいて……」
「ああ。こんにちは、亮子さん。来ていただいてありがとうございます」
何時も通りの笑みを浮かべたソルベに亮子は緩く頷いた。ふと、周囲を見回せばそこに居るのはソルベ一人だけ。亮子はきょとんとしたように椅子に腰かけながら「コンテュール卿」と彼を呼んだ。
「はい? どうかしましたか」
「あ、いえ……その、今日は他の特異運命座標は?」
イレギュラーズ達が来ている筈だろうと考えていた亮子にとってこの状況は違和感があった。
彼の私用のサロンはそうそう人数が入る所でもないだろうし、準備されている茶器や菓子類も二人分にしか見えない。
きょとんとしたのはソルベも同じだっただろうか。亮子の事をまじまじと見遣る。
「……今日は、おめかししてきてくれたんですね?」
「えっ」
「普段とは装いが違うようだ」
確かに、今日はサロンでの茶会と訊いて普段の冒険者らしい恰好ではなく、一応でもお茶会モードを心がけて来た。
長い髪は纏め上げ、化粧と、品の良いワンピースに身を包んできたのだ。そのことだろうかと亮子は髪を弄り「一応です」と小さく呟く。そう言われてからまじまじと見られるとどこか恥ずかしくなって頬に熱が昇ってくる。
「……コンテュール卿のお招きですし」
「それは嬉しい。私の為、なのですね」
そうやって『確かめる様』に言う彼に亮子はどぎまぎとして、ふいと視線を逸らした。
「他の方は?」ともう一度、照れを押さえる様にしていった彼女にソルベは「分かりませんか」と立ち上がった。
サロンの椅子に深く腰掛けていた亮子の傍へと寄ったソルベがその顔を覗き込む。
「貴女しか呼んでいませんよ」
そう囁かれた声にじわじわと熱が広がる気がして亮子は息を飲んだ。
「私、だけ?」
「そうです。この茶会は個人的に――貴女とお茶をしたかったから開いたのですよ」
「ど、どうして」
「どうしてって、聞く必要がありますか?」
ソルベの瞳が、覗き込んでくるそれに亮子は息を飲んだ。
良き友人、時には相談役としての存在であったソルベがこんなに近い距離にあるのだ。口から出るのは「えと」「あの」という取り留めもない言葉だけだった。
「……ふふ、困らせてしまいましたか。
貴女と二人でお茶を楽しみたかったというのは本当ですよ。貴女を困らせてしまうかもしれない――そう思いましたが、どうしても二人きりで過ごしたくて」
「今まで、そんなことなかったでしょう」
「性急な男は嫌いですか?」
ソルベの手袋を外した褐色の指先がそっと亮子の手の甲をなぞった。まるで返事を乞う様な、小鳥が啄むかのような柔らかな触れ合いに亮子はソルベの整ったその顔をじいと眺める。
勝気な碧の瞳は今は楽し気に細められ、極彩色の翼が視界に入る。視線を逸らしたままの亮子に「今は未だ、そこまで性急に事を勧めませんよ」とソルベは囁いた。
「あの、どうして――私なんですか……?」
「ああ。最初は勿論、特異運命座標の――世界を救う勇者の――一人だと認識していました。
けれど、貴女と関わるうちにその明るさや前向きさが気になって。最初は只の阿呆かとも思って居ましたが。
何事にもくじけず、時には危機をも越えてなお、立ち上がらんとする……何処までも真直ぐである貴女に心を強く惹かれたのです。それでは、いけませんか?」
危機を乗り越えたからこそ、自覚できたのだとソルベはにこりと笑う。
そこまで言われてしまっては亮子も彼からの想いが本物であることを否定はできなかった。置き去りにされたティーカップを見下ろして、どうしようかと視線を彷徨わせる。
「私は……私はコンテュール卿の事」
「ソルベ」
「え……?」
「どうか、ソルベとお呼びください。私も亮子、とお呼びしても?」
亮子さんと呼んでいたそれが呼び捨てになっただけでかあと頬に熱が上がった。
コンテュール卿と呼んでいたのは彼が貴族であり、有力な存在であるからだ。その彼から直々に呼び捨てを命じられたとなれば。
「いえ、でも」
「――貴族からの命令、といっても?」
狡い人だ、と亮子は思った。命令だと言われれば地位の高い彼の意に反するなんてできやしない。ましてや彼は貴族派筆頭。緩いお国柄だと言えど海洋でもトップクラスの存在なのだ。
「……ソルベ、様」
「いいえ。ソルベ」
「ソル、ベ」
「よくできましたね」
くしゃり、と前髪を乱すように手袋を外した掌が頭を撫でる。どきりと心臓が跳ね上がれば、その様子を見て楽しむ様に彼はくすくすと笑った。
こうして二人きりで過ごすのが心臓に悪い。どうにも言葉を紡げなくなっていく亮子に対してソルベは「こうして二人で話す事が夢でしたから」と隣に腰かけて笑う。
普段、共に会話をするにしても特異運命座標達が一緒なのだ。自身とて二人きりというこの空間に慣れる事も無ければ緊張していると亮子は震えながら漏らした。
「亮子も緊張していますか」
「……そりゃあ、そうでしょう。だって、ソル、ベと二人きりなんですから。
それで、こんな、こんなこと言われて、意識しないなんてありえます? 無理でしょう?」
「ふふ、それは嬉しい事を言ってくれる」
そっと、掌を取られ彼の胸元へとその手が誘われる。質のいい衣服越しにとくん、とくんと音を立てる心臓の鼓動が聞こえる。少しずつ、それは確かな速度で早まって行き――
「こんなにも私も緊張しているのです」
――狡い。そうやって思いを伝えてくるのだから亮子はソルベに「狡い」と小さく返した。
その言葉にようやく解放された掌でスカートをキュッと握りしめて。亮子は小さく息を吐く。赤らんだ頬を押さえる様に目をぎゅっと伏せた亮子の様子にソルベは「此れも少し性急過ぎましたか」と愉快そうに笑って見せた。
「か、からかってます!?」
「多少は。どうにも普段は強気な貴女が困っているとなると、悪戯したくなってしまう。
これはいけない事ですね? ……貴女を困らせて、泣かせたいわけではありませんから」
そっと横から覗き込む様なソルベが名前を呼んだ。伺う様なその声音に顔を上げ、彼を見遣れば、美しい緑色が笑っている。
「亮子」と名前を呼ばれ、目の前に差し出されたのは彼の身に或るものと同じ赤い羽根だ。
よくコンテュール卿は幼いころより、気に入った相手に自分の羽根を渡すと言われているがその一環だろうか。
差し出された赤い羽根。それは彼のお気に入りのものだという。
「受け取っていただけますか? 私は、好ましい相手にしかこの赤を渡さないのです」
そんなの。そんなのずるい。
そう飲み込んで目を伏せた亮子は頷いた。
「さ、お茶にしましょう。せっかくのお茶が冷めてしまいますからね」
これから容赦してくださいと言われているようだろ亮子はそっと紅茶を飲み干したのだった。