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Busy Lizzie
登場人物一覧
●両手いっぱいの「すてきなこと」
「ねえ、おしえて。
すてきなことの、なにもかもを教えて?」
翼を慎ましくたたんだ”眠り姫”は、編み物の手を止めた。フルール プリュニエ (p3p002501)は机に両肘をついて無邪気に問いかける。さらさらとした髪の毛がふわりと頬の輪郭にすこしだけはりついている。
金色の中に薄い桃色が差して、とてもきれい。見る角度によって色合いを変化させる宝石のような少女。少しだけ……ほんの少しだけ『あの子』に似ている。
「ほかにはどんな編み方があるの?
その翼で空を飛ぶのって、どんな気持ち?
大好きな天気はなあに? ……好きな色は?」
好奇心は尽きない。
はじけるような少女の感性には、なんでもかんでもみずみずしく思えるのだろう。
少女の好奇心を照り返すようにその瞳はきらきらと輝いている。
ひたむきで、純真。応えてやりたい。尽くしてやりたい、それから
「っ……」
その声が、鮮烈に聞こえた気がした。
ほんの一瞬、ルミエール・ローズブレイド (p3p002902)は動きを止めた。けれど、違和感を紅茶と一緒に飲み干す。柔らかな果実の味わいのアプリコットティーが、ルミエールの儚い唇を濡らす。細い喉がこくりと動いた。
「そうね、続きが聞きたいわ?」
微笑んでティーカップを傾ける。聡明できれいな青い薔薇が揺れた。
ルミエールは、永劫の上にアンバランスに積み重ねた
この人は違う、そうでしょう。決定的ではない……。魔種というのは、もっと、もっと……。ザンコクで相容れなくて、こんな風には……ううん、違う。そもそも、存在自体が世界の敵だというなんて、そんなこと。そんなはず――。
ルミエールは、胸中に渦巻いた言葉を矛盾と一緒に吞み込んでしまえる理性があった。
「だって、私たちはまだお互いのことをちゃんと知らないもの」
だから、そう、この違和感は――。きっと「気のせい」に違いないのだ。
ルミエールの半身であるルクスは、二人の足下で寝そべり、成り行きに耳を傾けている。今はまだ、ただ――。ただ、なりゆきを見ているだけだった。
(ルミエールは期待している。互いを知れば、きっと分かり合えると)
静かに話を聞く姿勢のルミエールは、身を乗り出して話の続きを強請るフルールよりは落ち着いて、大人びて見えるけれども……。
その実、その心はどうしようもなく弾んでいる。
なぜならば、ルミエールはすべてを愛しているから。この世界のすべてを。今を。
絵に描いたように完璧な、あたたかかな交流が、いつまでもいつまでも続くと信じている……。
(ここで頁をめくらなければ、きっとこのままでいられるのにね)
でも、時の流れというのはザンコクで、一方にしか進まないんだ、ルミエール。使い魔は思う。チクタクチクタクと時は進んで、パンドラはゆっくり降り積もっていく。滅びのアークとともに、ゆっくりと……。
今日と同じ日にはもう二度と戻れない。だからこそ、かけがえのない日々なんだ。
●むかしむかしあるところに……。
「ねぇ、ルミエールおねーさん。あのおねーさんは、すもものジャムを喜ぶかしら?」
「そうね、きっと喜んでくれるに違いないわ。この前だって……覚えてる?」
「うん、おねーさんったら、……ふふふ。美味しいって言って、欲張ってジャムをつけすぎて!」
「そう、あともうちょっとでお洋服を汚すところだった!」
今日も、二人は秘密のお屋敷に出かけていくらしかった。
ルクスは、バスケットのなかにあれこれと素敵なモノを用意するフルールとルミエールを静かに眺めていた。二人はすっかりあのヒトがお気に入りらしかった。毎日のように顔を出して、あれこれと世話を焼いている。
ルクスは、小さくあくびをすると、誰ともなしに出会いに思いをはせる。
そうだ、”眠り姫”の思い出の話。
「なんだかずっと、あの人とはずうっと昔からお友達だった気がするの」
ルミエールが歌うように言った。最近のルミエールは、とてもとても上機嫌だった。
「覚えてる、ルクス? あのヒトとあった時のこと……」
覚えてるよ、とルクスは返す。ヒト、とルミエールははっきり言った。
あの秘密の小道を見つけた日のことを、いまでもはっきりと思い出すことができる。ちょうど、……フルールの右目のような夕焼けの日。
どうせ、明日だって会うにきまっているのだけれど……ずっとずっと永遠を感じ取ってはいたけれど、ともにいる時間は刹那のように過ぎていくものだから……。ページをめくるのをもったいぶって、二人は、回り道をすることにきめたのだ。
「言い出したのはどっちだったかしら、ルクス」
ルミエールの問いかけにルクスは答えた。
「どっちもだよ」
「そうね、そうだったわね……」
そこはちょうど、誰も来ないような場所にある花畑。誰にもふまれていない、野生の背の高い花が、空に向かって気持ちよく伸びている、そんな場所だった。
ちょっとした道草で見つけた秘密の場所。けれども、そこには、まだ道が隠されていたのだ。
導くように、点々と生えているインパーチェンスの花。フルールは、張り渡されていた木の枝の下の、秘密の抜け道を見つけたのだ。楽しそうで、でもちょっと怖かったものだから、甘える声でルミエールを呼んだ。
「おねーさん……」
「あら、どうしたの、フルールちゃん」
まるで、立ち入る人々を遠ざけようとするように、アザミが道を閉ざしていた。けれども、そう……華奢な少女たちであれば何とかなるくらいの道だったのだ。
『お帰りはあちら』と、看板がかかっている。
「この道の先に住んでいる人は、ずいぶんな人嫌いね」
「でも、来ないでとは書いてないわ、ルミエールおねえさん」
「それは、……そうね」
それにほんとうに誰とも会いたくないのなら……。道は閉ざされているはずなのだ。こんなふうに道しるべまである。
きっと、誰か、客人を待っているのではないだろうか……。
「先へ進むの?」
ルミエールにルクスが問いかけた。
ルミエールは「やめておきましょう」、というべきだったのかもしれない。ルクスはどっちでもよかった。ほんとうに、どちらでもよかったのだ。ルミエールとはもう、気の遠くなるくらいに長い長い付き合いで――その気まぐれな様子はよく知っている。
ためらったけれど、誰かが呼んでいる気がした。孤独な誰か。どうしようもなくさみしがりで、遠回しなことしかできない誰かの気配を感じて、二人は先へと進む。手をしっかりとつなぎ合わせて……。
「あれは……」
お城、というには大きくはない。しいて言えば古い屋敷だった。古びた家はツタにまみれていて、まるで廃墟のようだった。
入り口は、迷路のように入り組んでいる庭だった。何度か忘れそうになるくらいに右に左に、曲がって曲がって……くたびれると、ちょうどよくガーデンチェアが一そろいあった。『迷い込んだ人たちへ、お帰りはあちら』と書かれた丁寧な看板が下がっているのだ。
「やっぱり、さみしいのかな?」
「招かれているみたいね」
「だいじょうぶだよ、ククルカン」
ほんとうはきっと、もっと簡単なやり方もあっただろうけれど、お客様としてしずしずと、少女たちは辛抱強く迷路をさまようことにした。
「お友達になれるかしら」
と、こぼしながら。
気が付いたころには、少女たちは、この偏屈な主の顔が見たくて仕方がなくなっていたのだ。
まるでおとぎ話のよう。左に4回、回っても、先ほど見た道とは違う場所に出る。……途中途中で、引き返すチャンスはいくらでもあったのだけれど、いつのまにか、それは楽しくもあって。勇気を出して、少しずつ少しずつ先へと分け入っていった。
動物も、虫も、植物も、ここには何一つ生の気配がしない。
それから、いよいよ、屋敷の扉にたどり着いた。
茨の城に分け入ったのは王子様ではなく、少女たちの好奇心。
ルミエールが、細い手を扉にかけると、扉はあっけなく開き、新しい風が二人を追い越して先に部屋へと入っていった。
美しい女性が、身を横たえていた。
「わぁ……」
「……」
天の窓からの光を浴びて、祈るように、手を組み合わせてただ目を閉じている。ふわりとした翼があって、もしかすると旅人であれば「天使」、とでも形容したかもしれない。
まるで眠っているかのようだった。
眠り続けているようだった。
美しい女性だった。
「こんにちは」と挨拶をすると、その人はぱちりと瞬いた。まぶしそうに日光に目を細めて。
「……。インパーチェンス?」
知らぬ誰かの名を呼んだ。
その声はあまりにあまりにいとおしそうで、まるで大切なガラス細工をくるんでいるようで。いとしさに満ち溢れていて、幸福の中にあるようだった。
それから、彼女はぽろぽろと涙をこぼした。
どうして起きてしまったのかしら、ずっと眠っているつもりだったのに、と……。
けれど、きっと、それは本心ではなかったのだ。
庭の壁は訪れるたびに、近道がいくつもできていた。だって、だれも一人では生きられないから。お姫様。ひとりで生きていくと言ったけれど、ほんとうはずっと誰かと会いたかった、とお姫様はこぼした。
お互いに、こんなこと、
だって、手と手を取り合うぬくもりはあたたかい。人の心は温かい。
閉ざされた屋敷に光が満ちる。
ひらひらと舞う蝶を見てお姫様は「こんなことは何年ぶりかしら」と言った。
「明日にも見れるわ」とフルールが夢見るようにささやいて……それが、お姫様との出会いだった。
●檻に閉じ込もる翼の心
「どうして、おねーさんはお外に出ないの?」
フルールが尋ねると、彼女は困ったように笑って答える。じぶんは、世界を傷つけてしまうから、と。その様子があまりにも悲しそうでルミエールの心は痛んだ。
「そんなことはないわ。だって、ほら。私たちはお友達でしょう?」
(……)
「はい、あげる。おねーさんに、いいことがあるといいわね」
シロツメクサで作った冠を、フルールは差し出した。その様子に、お姫様は眩しそうに目を細めた。
「お花が好き?」
ええ、でも、ほんとうはもっと好きなものもあるの、と彼女は答える。それはきっと誰かの鏡。じぶんの趣味とは少し違う、けれどもそれは、大好きな人のものだからよく似ている。ルミエールはあたたかい交流に身を浸して、つかの間の平穏にまかせていたのだ。
おしえて、と、少女はささやく。ルミエールだって知りたい。もしかしたら、とルミエールは無意識に期待する。
わかり合えるんじゃないかと、だって、″魔法使いのムスメ″は寂しがりやの甘えたがりで、夢を見ている。
知ってしまえば、もう元には戻れない。ひび割れたコップがもう元には戻らないように。でも、知っている。本当は……。心のどこかでは気づいている。
この人物が、いったいどうしてこんな場所で暮らしているのか。
「おねーさん、このお屋敷はどこか変ね。鏡がないの」
「そう言われれば、そうね」
「髪を結ってもらったのよ。でも、できばえが見えないの」
「こんど……持ってこようかしら」
色濃い魔術の残滓の気配を感じ取ってルミエールは嘆息した。けれども、悪意はないのだとわかるのだ。時折感じる、息苦しさ……。
『好き、嫌い、好き、嫌い……』
……時折響く、この呼び声は何なのか。
必要なときが来るまでは、と、目を背け続けているのだ。
日焼けして褪せた壁には何かがかかっていた気配があった。隠された不穏さ。残念なことに、ルミエールはときどきは愚かでも、決して馬鹿ではないから、日常が軋む音を聞いていた。
「……インパーチェンス?」
また、彼女は誰かと自分たちを間違った。
『インパーチェンスは、愛しい愛しい、姉様が大好きですよ』
それはたしかに恋だった?
憧れだった? 夢だった?
答えのない問い。
自分のモノではない声がする。
●愛しきあの子
「おねーさん。美しい人を見たの。庭で、微笑んでいた女の人よ。おねーさんとそっくり。ねぇ、おねーさんの知り合いかしら」
フルールの言葉に、眠り姫は、まるで戦地から帰ってきた恋人からの知らせを受け取ったみたいに凍り付いた。
「大丈夫?」
と、ルミエールが駆け寄る。
「お茶を淹れてくるわ。そういうことはおまじないみたいによく効くものだから」
「その子は、妹なの。ずっとずっと前に出て行ったの」、と眠り姫は泣いた。
「もう遠いところに行ってしまった。届かないところに飛び去っていってしまったの」
「それで、誰とも会いたくはなくなったのね?」
フルールが少しお姉さんぶって、よしよしと頭をなでてやっている。
……本当のことだろうか、ルミエールは嘘が少し混じっていることに気が付いている。でも、それは……悪意のあるものじゃないのだとわかる……自分たちを悲しませまいとする配慮だとわかるから。
「嫌いだといっていたか……って?」
ルクスが、彼女の震える唇を読んだ。
「ううん、『愛していますよ』って」
フルールが答えると、彼女は声を上げて泣き崩れた。
「もう、ここに来てはダメよ」、と、彼女は苦しそうに言った。
屋敷の扉は音を立てて閉まる。
日が落ちる前に、と、持たされたランプは暖かい。今日もたくさん眠れますように……祈りの言葉は、栄養たっぷりのスープみたいで。それから、「幸せになりますように」と祈った。
「あのね、おねーさん」
「あのね、フルールちゃん」
フルールとルミエールの声が、同じタイミングで重なった。
まるで台本があったみたいだった。
あどけない声と大人びた声は響きあって混ざってどっちのものだったかわからない。少女たちにとってはなんでもないことがおかしくて、小さな奇跡に、そうね、そうだね、きっと大丈夫よね、と、勇気づけられる。
(たとえ、それが間違った決断だと知っていても……)
そうしてしまう、と、ルクスにはわかっている。少女たちはとてもひたむきで純粋でまっすぐだから。
「町できいたの。もうすぐ、おねーさんが悪い人じゃないか、確かめに来るんだって」
「悪い人なわけないのに、でも、分かって貰えるかしら」
「あの人は死んでしまうのかな」
「このまま帰るなんて、……そんなの」
よくないって言って?
フルールの言葉が止まる。純真な瞳がルミエールを見上げている。こうされると、かなえてあげたくなるのだ。
「そうね」
ぎゅうとフルールを抱きしめながら、ルミエールはいった。
あれがなんであっても、大丈夫。
ほんとうは、ほんとうはとどめを刺すつもりで。ルミエールは今日決着を付けるつもりだった。けれども、だって。
二人は、言い訳を失って、きれいな決意で袋小路へと引き返す。きれいな、少女たちにしか見えない希望。
まやかしを取り払った庭は、すっかり荒れ果てている。
●もしも
(もしも、たどり着いたらどうなるかって?)
ルクスは考える。
そう、例えばこんな風になるだろう。
翼は、どうしようもなくねじれていて、正体を現した魔種は、泣きながら、短剣を胸に突き刺そうとしている。
「おねーさん」
事実、突き刺しているのだ。けれども死ねない。
「……おねーさんは、悪くないよ」
「こっちよ」
二人に手を取られて、もっともっと深い場所へ。誰も気がつかない場所へ。パンドラの底に押し込めて……。もっと誰も来ない場所で、ううん、ゼッタイに遊びにいくから。
魔種はどうしようもなく世界の敵のはずで、でも、でも、だって、まだ。まだ砂時計の砂は落ちきっていないはずだから。
円環の中で、共に生きていられるはずなのだ。
「あなたたちのことは忘れない」と彼女は言って……笑顔で別れて。
……。
ほんとうに、そうなるかな?
「あなたは、まだ、残っていたの」
「君は、魔種だよね」
ルクスの言葉は短剣のようにお姫様を刺す。
ルクスはとっくに、はじめから、その解に既に行き着いていてた。
二人は「問いかけなかった」けれど、彼女は真実に魔種なのだ。
ああ、子供の企みを大人は見抜くもの。ルクスがルミエールの半身である以上それはある種初めから、分かりきった事であったかもしれなかった。
だから、結末は決まっている。
殺意。
嫌いだとルクスは思った。この存在が。存在するだけで嫌いだ、と思う。魔種とは憎むべき存在で、そういうものなのだ。排除しなければ……。
世界を守る使命感。それに伴う燃え上がるような殺意は、炎の内に現れる。けれども、ルクスは冷静だった。理性はしっかりと働いている。
一歩、歩み出すと、まるで暗闇ばかりだったかに思えた場所に道が浮かび上がる。
「今ここで魔種として討伐されるか。
見逃してあげられるうちに姿を眩ませて生き延びるか、君はどちらがいい?
逆に僕を殺して仮初の蜜月を続けるのも、それはそれで悪くないかもしれないよね」
「……」
死ねない、死ねないの、とささやいた彼女が手に持っていたのは、羽のペン。そんなもので刺せるわけはない。死ぬ気がないのだ。死ねないのだ。インパーチェンスに絡め取られて。
「僕は君の“敵“だけど。
あの子達の“御伽噺“に乗ってあげるのも
偶になら構わないんじゃないかと思うんだ」
ルクスは、天秤をいつだって傾ける。
●結末はおしまい
だから、こういうことにしよう。
世界の敵に回るのが嫌だった魔種は、自ら炎の中に身をなげうって二人を守った、そういう筋書きにしよう。
「そうしたかったんだよね?」
そうだ、と魔種はうなずいた。でも、できないのだ。そうだ。魔種とはそういうモノだ。それならそれでいいの、と確認をとってから、ルクスは頷く。
「二人に何か言っておくことはある?」
口元が動いた。その言葉は、ルクスしかしらない。
頼るにはあまりに欠片しかない少しの希望と、絶望をないまぜに。ここで終わりにしよう……。
フルールとルミエールが引き返したころには、屋敷は、すっかり焼け落ちていたのだ。討伐隊のせいではない。彼らもまた驚いていたのだ。
それは激しくはない、静かな炎で……。燃え上がる激情というよりは哀悼のための炎のようだった。泣き崩れるフルールの肩を抱くルミエールも泣いていた。
「……うそつき」
ぽそりとフルールが言った。
「また会おうって言ったのに」
暗闇の中、何もなくなったかに思える空間だったが、5つの炎がゆらゆらと揺れている。導くように、燭台のように……。
散っていくインパチェンスの花から逃れて、魂が燃える。
「おいでよ」
ルクスが言う。
平らげて、あとには何も残らないように。浄化するように。まじりあうように。天秤をつりあわせるためにルクスはそうする。
好き、嫌い、好き、嫌い。
……インパーチェンスの花が笑う。けれども、もう聞こえない。
(おあいにく様、)
暗闇の果て、ルクスの炎が燃え上がった。
ううん、ひとつになるのよ、とインパーチェンスが笑っている。
声は遠い、遠く……。それは確かに狂気をはらんだ呼び声なのだが、ルクスに響くには足りなかった。けれど、染みをつけるようになにかが降り積もっていくのを感じる。
時間は降り積もるしかないのだ。
- Busy Lizzie完了
- GM名布川
- 種別SS
- 納品日2022年06月17日
- ・フルール プリュニエ(p3p002501)
・フルール プリュニエの関係者
・ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
・ルミエール・ローズブレイドの関係者
※ おまけSS『ずうっとずうっと愛していますよ』付き
おまけSS『ずうっとずうっと愛していますよ』
最後の言葉は何だった?
大好きな妹が魔種に身を落としただなんて、信じることが出来なかった。うそだと思った。
だから、ひどい言葉を浴びせかけてしまった……。
あなたなんて嫌い、と、あなたなんて妹じゃないと言ってしまった。
そんなこと、今まで言ったことなかったのに。
最後に会いに来てくれたのに、泣いてすがって、インパーチェンスを返して、と泣き叫んで乞うたのだ。
あれは妹でしかなかったのに。
……相手を見ようとしなかったから。都合の良いところばかりを見ていたから。だから、妹は魔種になってしまったのだ。
だから、彼女は後悔していた。最後の言葉を……「嫌い」と言ってしまったことを。悪し様に罵ったことを……。
ああ、妹のためならば何もかも差し出していいと祈ったのだ。魔種が戻ってきた例がないと知ると、絶望し、けれどももう一度、妹に会えるならなんだってすると願った。
そして、それは叶った。
「私をうらんでいるの?」
『いいえ?』
答えを聞いて、彼女は思った。
まだ、彼女は妹を引き戻せるのではないかと思っていた。まだ、思っていた。自分なら、もしかすれば、もしかしたら……。
『どうして? インパーチェンスは、姉様を愛していますよ。今だって、昔だって』
甘い呼び声が、ツタが、ゆっくりと彼女を絡め取っていく……。