PandoraPartyProject

SS詳細

このクソッタレな世界で生きるということ

登場人物一覧

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者

 アルヴァが愛奈拳銃の訓練を引き受けた時、彼は譲る予定の銃とほとんど同じ構成のエアガンを渡した。
「人を殺したこともないヤツに、いきなり本物を渡したらどうなるかは分かってるからな」
 ところが、『生前』もこのように人の命を奪う為に生まれたものと無縁だった愛奈には、エアガンすら重かった。
 それから3週間近く、アルヴァはひたすら愛奈に分解と清掃、そして正常に動くかの確認を教えた。
 これが出来ないことには銃器を相棒に戦うことなんて出来ない。
 イレギュラーズが扱う武器は多種多様で千差万別だが、ほとんどのイレギュラーズはその武器を手足のように扱える。
 それは何故か? その『重さ』『触感』が自身の生身と変わらないくらい『馴染んで』いるからだ。
 アルヴァはそう考えて愛奈には、寝る時も風呂の時もエアガンを携帯するよう言い含めた。
 正しい整備と管理を含めて手足のように扱えるのが馴染みの武器と言えるものだ。
「寝る時はすぐ手に出来るように枕元、お風呂は防水袋に入れて手元へ……。慣れるでしょうか、これに?」
 愛奈も当初は不安がって眠りが浅かった。しかし繰り返し分解、清掃、組み立て。それから射撃場での試し撃ち。
 3週間もすれば、これらが苦もなく出来るようになってきた。
 それを確認したアルヴァはいよいよ本物の拳銃、『BLACK HOUND Model320』を愛奈へ手渡した。
 重苦しく頑丈なケースに収まるそれを怖れながら手にした愛奈は生唾を飲んだ。
「いよいよ私は……拳銃を撃つ、んですね…………」
「良いか、忘れるなよ。『銃が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ』」
 その言葉に愛奈は今度こそ姿勢を正した。手にした拳銃はエアガンなんかよりもずっしりと重い、冷徹なものだった。

 翌日から厳しい訓練が始まった。
 起床、ストレッチ、それから食事と筋トレ。それらを終えると射撃場へ移って分解、清掃、組み立て。
 ここまではエアガンでもやっていたが、これより先は本物の拳銃で的で撃ち抜く。
 試し撃ちも含めてなのだ。命を容易く奪える武器を持ち、扱うのだ。
 アルヴァが一発毎にタイミングと高さを変えている的を瞬時に撃つ。この時に射撃姿勢が崩れたら評価は貰えない。
「脇と腕、甘いよ」
「反動から戻るまでが遅い」
 食事の時間以外はこの繰り返しで、体力的にも精神的にもかなり辛かった。
 今回のことは親代わりの祖父に育てられ、命を脅かす日常を知らない愛奈には想像を絶する世界だった。
 拳銃という武器すら、海を渡った遠い国のニュース映像でしか観たことがなかったほどだ。
 それでも、それでもと戦う力を欲したのは愛奈自身である。
 物語の中でしか知らなかった貴族社会は実際に暮らしてみると物騒なことも多かったから。
 パン屋の帰りに小さな子どもからスリにあったのは1度や2度ではない。
 依頼で治安の良くない場所へ赴いた際、光の差さない路地などで品定めするような目線を向けられ苦痛だった。
 こんな世界で生き残る為、せめて自分の身は自分で守れるように。愛奈は拳銃を手に取る事を選んだのだ。
 その願いを聞き、手を差し伸べてくれたのがアルヴァである。
 隻腕でありながら、重量のある狙撃銃を相棒に戦場を舞う者。
 ブルーブラッドでありながら、その速さと機動で航空戦を極めんとする者。
 それがアルヴァ=ラドスラフ、愛奈の師だ。
 しかし弾倉に弾を込めるだけで愛奈の指は震え、その重さに腰が退けて弱々しく構えるだけで叱られた。
「でもこれ以上は指が…………」
 つりそうです、と言ってもアルヴァは耐えろの一点張りだった。力の抜き方が下手なんだとも。
 しかしこんなにも重たいもの、どうやって支えて立てば良いのかと愛奈には検討もつかなかった。
 やっとの思いで排出させた弾は的に掠りもしなかったし、ほとんど事故みたいなものだった。
「ど、どうして……?」
「あんたの恐怖は正しいけど、覚悟が足りないんだ」
 そこでアルヴァは訓練内容を少し変えることにした。射撃場裏の森へ愛奈を連れていくと、彼女から距離を取る。
 これから何が始まるのか分からない愛奈は不安顔で彼の背中を見つめるばかり。
 2メートルほど離れたところで、くるりと振り返ったアルヴァは何も言わないまま彼女へ襲い掛かる。
「そらそらァ、反撃してみろ!」
 急に始まった実戦想定の訓練に愛奈は戸惑い、慌てながらもアルヴァの攻撃をギリギリで防ぎ、姿勢を低くして下がる。
 反撃しろ、と言われても体術の心得もない愛奈はテレビで観た動きを必死に思い出して真似る。
 しかし全く手を緩めず猛攻するアルヴァに押され、ついに手にした拳銃へ指を伸ばしーー……

 空気の破裂するような音が、森に響いた。

 それはアルヴァの頬をほんの少し掠めた程度。それでも、愛奈が生まれて初めて人を拳銃で撃った瞬間である。
「それで良い。それが覚悟だ」
 静かに、厳かにアルヴァが告げて愛奈の上から退く。
 愛奈は両手で拳銃を握り、確かに理解したその感覚に震えた。自分の身を守る為に人を撃ったという現実に震えた。

 だが愛奈は逃げなかった。咄嗟の判断で1度きりとはいえ、自分の意思で人を撃った感覚と経験は愛奈を変えた。
 整備から射撃場での練習ではひとつひとつの精度が見違えたし、実戦想定の訓練でも全力で向き合った。
 愛奈が引き金をひけるようになって数日後、今日は最終テストの日。
 テストの内容はアルヴァは一切喋らず目線もくれないまま、愛奈と1日戦う。たったそれだけ。
 だが愛奈とて自分が危機的な状況の時に、しっかり自分で自分自身を守りきれる為の訓練をさせて貰っていた。
 整備を含めてそれらが6割の出来を越えたから最終テストとなったのだ。
 屋敷に響いた銃声、視界に立ち込める煙。そして。
「合格だ、愛奈。あんたはもう、どんな戦場でも自分だけは守れるはずだ」
「……! ありがとうございました!」


「え? じゃあ実戦を想定した訓練って?」
「最初の1回は危機感を付ける為にしたけど、それ以降は身体作りを目的としたオマケかな」
 2人で屋敷の掃除をしている時だった。モップに凭れたアルヴァが何でもない様に言う。
 そもそもアルヴァが愛奈に用意していた『最低限』は『的に中ること』だった。
 だが覚悟を定めた後の愛奈はアルヴァの予想を越えてやる気があったから、オマケの体術だったのだ。
 この先、彼女がイレギュラーズとしてやっていくにはきっと必要な技術だと判断したのも一理ある。
 愛奈はきっと戦場においてヒーラーをやるが、ヒーラーにも攻撃手段は必要だ。
 ヒーラーは回復だけ出来れば仲間に守られるままで良いということは無く、自分に飛んでくる攻撃をどうにかする技術も必要だ。
 それでも今は、そんな難しい理論を愛奈へぶつける気はない。
 だから予想外の告白にポカンとした愛奈へアルヴァは笑って謝ると掃除の続きを促す。
 それから自分の帰り支度を整えた彼女を玄関から見送る。
 何度も頭を下げながら屋敷から伸びる道を行く愛奈。その背中はこの屋敷を来たばかりと違って、とても頼もしかった。

  • このクソッタレな世界で生きるということ完了
  • NM名桜蝶 京嵐
  • 種別SS
  • 納品日2022年06月11日
  • ・アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360
    ・綾辻・愛奈(p3p010320

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