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恋する乙女は白薔薇の貴公子に愛を叫ぶ
登場人物一覧
●秘密の恋
私には大好きな人がいる。
艶めく黄金の髪に優しく私を見つめてくれる綺麗な緑青の瞳。片目を覆う白い薔薇の眼帯が良く似合うの。
私に語り掛けてくれる声が、私を見つけてくれる眼差しが、私を撫でる手の温もりが、私の心を満たして行く。
「ミモザ」
いつものように私の自慢の栗毛を撫でる手は優しくて、うっとりと顔を寄せる。
男の人なのに、森の中みたいにとっても素敵で良い香りがするの。凄いでしょう?
でも近くによると、つい目が行ってしまう物があるの。
それは……――。
「あ、こら! それは食べ物じゃないといつも言っているじゃないか!」
ご主人様のマントについたベルト。
仕方がないの。私はミモザ。ロリババアの第37子。落ちた鳥の巣とちぎれたベルトが大好物のロバ。
大好きな人の付けている大好物を目の前に、我慢は3秒。でも今日は4秒持ったのよ。凄くない?
それにしても、今日もご主人様は素敵でベルトは美味しいわ……。
こう言うのを幸せって言うのよね。
でも私には夢があるの。ご主人様のベルトをもっともぐもぐすることじゃないわよ? それもやってみたいけど!
話を元に戻して。
私には夢があるの。それはいつか人間になって、ご主人様のお嫁さんになること……。
きゃっ! 言っちゃった! ご主人様には秘密よ!?
でも今はただのロバ。人間じゃないの。
人間になるにはどうすれば良いか私にはわからないけど、きっと賢い人なら知っていると思うの。
ご主人様も賢いけど、ご主人様に内緒で人間になってびっくりさせたいから相談出来ないわ。
ご主人様がどんな風に驚くか想像するだけでわくわくするの。
あぁ、でも急に人間姿で登場したら、私だって気づいてくれないかもしれないわ。その時は目の前で人間になった方が良いのかもしれない。
人間になったらどんな姿になるのかしら。やっぱり自慢の栗毛と、ぱっちりとした目はそのままが良いわ。年はご主人様に見合う年が理想ね。
でも今はロバだから、ロバとしてご主人様の役に立てるように頑張るの。
荷運びに移動にご主人様の癒しになんだって全力よ。
恋する乙女は強いんだから!
今はまだ、ロバとしての本能の方が強いけど……。
ご主人様のベルト美味しいし、ご主人様良い匂いで傍に居るとつい食べたくなるの。
乙女としては複雑な心境ね……。
あぁ……ベルト美味しい(もぐもぐ)
●豊かな感受性
所で今日はご主人様とデートなの。
例え荷物とご主人様を目的に運ぶためでも、ご主人様と二人っきりだからデートなの。
湖畔で微笑むご主人様、絵になるわ……。
あらやだ、つい見惚れちゃった。
ご主人様は本を読み始めたのね。だったら邪魔しないようにしなきゃ。
でもご主人様……一緒に持ってきたその青い薄い本には何が書かれているの? 見る度に悶えていて、凄く気になるし、心配になるの。
はっ! まさか、私との将来……!?
もしそうなら凄く嬉しい! ご主人様も私と同じ気持ちだったら両想いよ!
あの本を覗き見ても良いかしら……?
でもあれはご主人様の秘密の本。それをこっそり覗き見るなんてはしたないわ! ここはぐっと我慢するのよミモザ!!
あぁ、でもご主人様と両想いなら恋人になって、色んなところでデートをして、いつかはプロポーズされて結婚、なんて……!!
白い正装に身を包んだご主人様を想像するだけで萌える……!!
サラサラの髪はそのままで風に靡いても良いし、白いリボンできちっと結んでも良いと思うの! 差し色は水色とか淡い青が良いわ!
場所は幻想か、天義か、それとも海洋で海に面した式場も良いかもしれない。
綺麗に飾り付けられた白い教会の中、ステンドグラス越しの光がご主人様を優しく包み込む。そんなご主人様を見つめながら、私はお母様の背中に乗ってご主人様の元に行くの。
お母様に沢山の姉妹達。ご主人様の家族も来てくれるかしら。
沢山の人やロバたちに囲まれた幸せいっぱいの結婚式。その時私はどんな姿かしら。
真っ白なドレス。顔を隠すベール。白いベール越しに見える世界は輝いているけど、一番輝いているのは、それをそっと持ち上げるご主人様。
お互いに見惚れて見つめ合って、永遠の愛を誓うキス……!!
駄目、想像だけでもう……!!
ご主人様大好きー!!!
突然鳴きだしたミモザに、ラクリマはびくりと肩を竦ませた。
「な、なんだ突然……!」
それまで静かだった湖畔に響くミモザの鳴き声に、ラクリマは警戒気味だ。
当然だろう。ラクリマはミモザが自分への愛を叫んでいるなんて想像したこともないのだから。
驚き慌てて鳥たちが飛んでいく空の下、ミモザの鳴き声が響く。
――ベヘッ! ベヘッ! ベヘッ!
これが愛を叫ぶ声とは同族以外分からないだろう。
しかも老婆の声だ。ラクリマは顔を引きつらせている。
ミモザの恋がラクリマに通じる日は遠い――。