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灰の髪
灰の髪
登場人物一覧
燈堂本邸の地下、無限廻廊の座にある封印の扉。
その前に座ったチックは扉を隔てた向こう側に居る繰切へと語りかける。
『お主が勝手に囀るのは構わない』と言った神様の真意は、きっとチックの話しを聞いているという意味なのだろう。
だから、チックはこうして時折、扉の前にやってくる。
「そういえば、繰切は……、おれの、髪……好きって……言ってくれた」
どうしてと扉へ顔を上げれば、大きな手だけが不意に現れて、結構力強くチックの頭を撫でていった。
「お主の髪は白っぽくて艶がある」
チックは自分の髪を一房持ち上げて首を傾げる。己の認識では灰色で結構ボサボサしているのだが。繰切には白くて艶やかな髪をした小鳥にでも見えているのだろうか。
「キリに似た色は好ましい」
自分と一体となったキリの面影が垣間見える造形に心惹かれるものがあるのだろう。
「繰切……おれは、キリ、じゃない……よ」
「分かっておる、小鳥よ。お主がキリではない事は」
白鋼斬影とそれ以外、という区別なのだろうかとチックは少し寂しくなる。
「おい、何を寂しそうな顔をしているのだ? 流石の我でも近くに居る人間の名ぐらいは覚えているぞ……チックよ。キリに似た色というのは切欠に過ぎぬ。お主の持つ色を美しいと評した。違う美しさを持つからこそ良いのではないか」
「そっか……」
チックは繰切が綺麗だと言ってくれた自分の髪を指に巻き付けて、黄昏色の瞳を僅かに細めた。