PandoraPartyProject

SS詳細

おきつね日和

登場人物一覧

長月・イナリ(p3p008096)
狐です
長月・イナリの関係者
→ イラスト

●カッとしてドーーーッ……あれ?

 補給、哨戒、開発に改造。今日も狐兵たちは仕事に勤しむ。稀に忙しい日もあるが、やる事を終えたら大抵はのんびりまったりと過ごしている。勿論これは悪いことではない。忙しさは戦であり、傷つき、痛みと悲しみが生まれる。だからこそこういう日常が大切で愛おしいのだ。
 ――尤も、当の狐兵たちはそんな事微塵も考えていないけど。

「ねぇねぇ、伍番棟の弾薬の数が合ってないよー?」
「えぇ? おっかしいなぁー、其処はついこの前補充したんだけど……」
 倉庫番の狐兵が、補給担当の狐兵に聞いて回る。むむ、と耳を立てて首を横に傾げた。此処の狐兵達は個性豊かだが皆基本的に真面目で、悪さをするようなことはないできないのだが。丁度見計らったように、別の狐兵が飛び込んできた。大きな背嚢に釣られ、勢い余って壁に激突! いたた……と涙目で額を摩りながら続ける。
「ごめん、それちょっと私が拝借してたんだ。銃の改造に凝っててさ~。今借りた分返そうと思って何個足りないか聞きに来たの」
 手を合わせて『ごめんなさい』の姿勢ポーズを取るも、尾はぱたぱた揺れて耳はぴょこぴょこと動いている。内心特に反省していないのが実に分かりやすい。
「もう、また変な武器作ろうとしてる。この前もそれでボヤ騒ぎ出したばかりでしょ!」
「ふふふ、今回はうまくいったので社の防衛が更に強固になったよ。間違いない」
 ドヤっと自信満々の狐兵ではあるが、抑々そもそも此処にはイナリ達特異運命座標イレギュラーズが居るのであくまでも防衛はおまけのようなもの。イナリが相手をする程でもない羽虫や死に体を駆除するくらいしか出番はない。とはいえ彼女たち狐兵も自分達の仕事に誇りを持っているから、嫌だとは思わない。
 背嚢から弾薬を取り出し、同時に常備している銃と並べて見せて「ジャーン!」としてやったりの笑顔。何だか嫌な予感を感じつつ話を聞く倉庫番と補給番。
「銃って弾薬の規格が決まってるでしょう? 互換性がないのって不便だなって常々思ってて。そこで開発したのがこの銃! なんと銃弾参式から漆式まで対応しました!」
「……それ、本当?」
 ジトーっと疑いの眼差しを向ける補給番に、歩兵狐はうんうんと頷いて大きさの違う弾薬を其々分けられた袋から取り出して順番もバラバラに弾倉へ詰め込んだ。ガチャン、と噛み合った音がする。
「これを量産すればいざって時に「弾がない」ってコトが防げるでしょ? すごい? 私すごい!?」
「ちゃんと作動すればねぇ……」
「くーちゃん、それは言霊になるからやめよ」
 『くーちゃん』と呼ばれた補給番の狐兵の耳は垂れ下がり、不安で胸いっぱい。対する倉庫番『もーちゃん』も似たようなもので、自信満々なのは銃を手にした歩兵『そーちゃん』だけ。
「うえ~ん信用度低い~! に、にさん……よん……片手で数えるくらいしか失敗してないのに~!」
「そういうのは開発部に頼もうね。そーちゃんは実戦向きだから……いやそうでもないか……」
「猪退治であわや家畜に当てそうになってたもんね」
「昔のことは忘れて前向きに生きようよ!! これもちゃんと動くからさ、ね! 演習場でその眼で確かめて!!」
 必死に訴えかけるそーちゃんの圧しに負け、二人は共に演習場へと向かった。今は何か危機的状況があるわけでもなし、真面目な訓練兵がぽつぽついるくらいで空いている。一番広い場所を陣取って、そーちゃんは背後の二人に声を掛けた。
「さっき見せた通り弾薬は無造作に入れたけど、ちゃんと発砲出来るから見ててね!」
「はいはい」
「発砲出来てもそーちゃんの腕前じゃなぁ……」
「い・い・か・ら!」

 狙いをすまし、ドン! 発砲した弾は見事的に命中した。当然そういう訓練を積んでいるのでこの位は出来て貰わなければ困る。困ると言いつつそーちゃんにしては割と貴重なのでもーちゃんもくーちゃんもパチパチと素直に拍手を送った。
「すごーい。ちゃんと当たってる!」
「そーちゃんが失敗しないなんて何かの前触れかもしれない……イナリ様に報告しとかなきゃ……」
「褒めるとこ可笑しいでしょ!! 前触れってなに!」
 ぷんすこと怒ってぽかぽか二人を叩くそーちゃんだが、手加減しているので全く痛くない。二人もくすくすと笑ってぴょこぴょこよく動く狐耳を撫でる。ぷぅ、と頬を膨らませ、いまいち納得出来ないがもう一度的に向かって銃を構えた。今度は何式の弾薬か。

 カチッ。――ドン!!

「……今の間なに?」
 じーっと背後から感じる視線に恐る恐る振り向くと、半目でこちらを睨むくーちゃん。とりあえず何か言い逃れを、と咄嗟に返す。
「た、タメ技かな?」
「へぇ~、って銃にタメなんか無いから!! 格闘技とか弓なら分かるけど!?」
 即座にツッコミを入れてくれるのがもーちゃんの良いところだが、真実は時に心を傷付ける。ぐぅの音も出ないそーちゃんだったが、汚名返上とばかりに「さっきのは少し詰まっただけだから」と再び銃を的へ向ける。ふぅ、と息を吐いて銃爪を引いた。

 カッ。
 ???
 カッ、カッ、カッ。

「銃爪が引けない……」
 カチカチしたくてもカッ、で止まってしまう銃爪。力任せでどうにかなる事ではないと、少なくとも銃を扱う者なら誰でも分かることだ。
「ほらも~そうなると思った!」
「今度こそ本当に詰まっちゃった? 大丈夫? 急に爆発しない?」
 呆れるくーちゃんに対し、心配そうなもーちゃん。銃を専門としない二人でも、現状があまりよろしくない事は察した。着火していないのでこの状態で放置しておけば暴発する事は無い旨を伝えると、ホっと胸をなでおろす。
 仕方ないのでこの改造銃は厳重に分解するか廃棄するしかない。はぁ、と落ち込むそーちゃんを元気づけるように、もーちゃんとくーちゃんが両脇に並んで挟み込む。
「まぁまぁ、これくらいいつもの事だし気にしないでこ! それよりもう就業の時間だし、お揚げ屋さんの新作食べて帰らない?」
「何気に罵倒されてる……でも新作は食べたい……」
「可哀想なそーちゃんの為に追加具材トッピング一個奢ってあげるよ」
「うぅ……二個お願い……」
「強欲か」
 ぺしっと脳天に軽く手刀を入れて、いたーいと文句を言いながら笑いあう三人。

 修理部に件の銃を託し、拝借した弾丸の在庫を補充して帰路につく。他の狐兵達も目当ては同じなのか、既にお揚げ屋さんには行列が出来ていた。
「混んでるね。あ、新作の引き札回ってきた。ふむふむ、色々選べるね。どれにしようかな」
「えっ……新作出たとは聞いてたけど、これが……!?」
「もーちゃん知らなかったの? 斥候の子達が先んじて食べてたの見てから私もずっと気になってたんだ~」
 狐兵もお役目が終われば唯の少女である。楽しい事と美味しい事が大好きな、夢見るお年頃。そして今目の前には如何とも形容しがたい『お揚げ屋さんの新作』がある。心躍らぬわけがない。あれもいい、これもいい、それも捨てがたい、なんて言いながら、結局三者三様別々の組み合わせで新作を楽しみ、分け合って食べたのだった。
 『お揚げ屋さんの新作』が何かって? それは彼女達に聞いてみると良いだろう。それはもういい笑顔で、何たるかを教えてくれるから――。

おまけSS『一方、修理部もろもろ』

「また厄介なのが持ち込まれたわ」
「今度は何?」
 分厚い衣服に覆われた狐兵は、保護眼鏡ゴーグルを取り差し出されたブツを見た。一見すると歩兵が扱う一般的な銃に見える。
詰まジャムった?」
「もっと深刻よ。コレ、入ってる弾丸がバラバラなんですって」
「ハァ? どういうこと?」
 かくかくしかじか。託された狐兵は話の流れを説明する。お互い話の最後には大きな溜息。
「どうしてそうなるのよ……」
「発想は悪くないから開発部に回して欲しかったわ。悲しいけどこの子はもう分解しても弄られてるし廃棄の道しかなさそうね」
「とりあえず、弾出しましょうか。暴発も怖いし」
 カチャカチャと慣れた手付きで解体していく工兵。そこで発覚する衝撃の真実――!!

「ちょっと!! これ弾薬じゃなくて…… の消毒用小瓶アンプルじゃない!!」

 道理で着火しない訳である。そもそも導線もなければ火の着く素材でもない。仮に火が付いたとしても、それはその場で弾けるだけで到底遠距離狙撃には使えない。
 しかし此処で修理部の工兵に電流走る! 圧倒的閃き――!

「これ、開発部に回して! 上手くいけば『味方に撃ち込むことで衛生を保てる緊急用遠距離弾』が作れるかもしれないわ!」
「な、なんですってーーーー!?」





「――という仕様書が来たであります」
「開発部は何でも作れると思ってる奴多すぎだよぉ! 作るけどぉ!!」
 たらいまわしにされた銃と小瓶アンプルと薬莢は、いつか誰かの役に立つ。……かもしれない。

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