PandoraPartyProject

SS詳細

ウサギとにゃんこ。甘くてドキドキ。

登場人物一覧

瑪瑙 葉月(p3p000995)
怠惰的慈愛少女
ニコ・マリオネッタ・ベルナールド(p3p005355)
パペットマスター

 ショーウィンドウ越しの光に包まれた店内。
 生き生きと遊ぶように並べられたぬいぐるみたちの奥で、ニコと葉月は同じ長椅子に座ってぬいぐるみを作っていた。
 それは初めて出会った時の約束。
 少女が散歩中に偶然見かけたぬいぐるみ専門店【パペットダンス】
 そこにいたのは一人の少年と、沢山のぬいぐるみたち――特に生まれたばかりのピンクのにゃんこ――に目を輝かせる少女と、その少女に胸を張るニコ――ではなく、どこか少女と似た髪色のパペットのナッツ。
 偶然の出会いから紡いだ縁と、ぬいぐるみを作ってみるという約束。
 その約束は、あの時と同じ場所で、あの時とは違う隣に座って。


 真剣な表情で針を動かすニコを、葉月が隣でじっと見つめている。
 ニコが作っているのはウサギのぬいぐるみ。
 布は葉月の髪と同じ、明るいオレンジペコのような柔らかな布。
 顔、胴体、手足、耳。
 ちくちくちくちく、一針ずつ丁寧に。
 裏返して綿を詰めた時に歪みが生じないように縫い上げて行く。
 まだ不格好で、知らない人が見たらどんな形になるのかわからない布の塊。だけどその布の塊に、パペット達がいない時はすぐに逸らされがちな視線が真っ直ぐに布に向けられている。
 一針一針心を込めて、口元には優しい微笑みを浮かべながら。
 その真剣な眼差しに、優しい微笑みに、迷いのない手つきに、葉月は木漏れ日のように煌めく瞳を愛おし気に細めた。

 パチン。と音を立てて糸切狭が縫い糸を切る。
 しっかりと玉結びにされたそれは、緩むこともなくその場に留まっている。それを確認したニコがふと息を吐いた。
 まだパーツを縫っただけ。これからこれらをひっくり返して綿を詰めて、パーツを縫い合わせてその子にあった顔を、心を吹き込むのだ。
 心を吹き込んだとき、この子はどんな表情をするのだろうか……。
 それを想像するだけで心が躍る。
 緩む心に合わせるように、ふわりとニコの鼻に花のような、お菓子のような、だけどどこか違う甘い香りが届く。その香りのする方を見て、ニコは普段はどこか眠たげに見える目を見開いた。
 すぐ隣に、手を伸ばせば届く距離に葉月がいる。
 ぬいぐるみ作りに集中するあまり、そのことを忘れていたのだ。
 見れば葉月の作業は余り進んでいない。分からないことがあればすぐに言ってと言ったのは自分なのに、葉月のことを忘れる位集中してしまったことにショックを隠せない。
「ニコ君凄いなの! あっという間にぬいぐるみさんが出来ちゃったなの! 魔法みたい!」
 だけど葉月はそんなこと気にした様子もなく、ニコの様子に気づいてニコリと微笑んだ。
 深いアメジストの瞳に葉月の笑顔が映り込む。
 その微笑みに、甘い香りに、心臓がいつもより早い気がするのは何故だろう。
「えと……その……」
『作業に集中してごめんなさいなんだよ!! 大丈夫? 分からない所ある? どこまで出来た?』
 ドキドキを誤魔化すように慌ててナッツと、ナッツの相方のオオサンショウウオのハチさんを両手に嵌めると、葉月のことをすっかり忘れていたことを謝った。
「ニコ君もナッツも謝ることなんてないの! ニコ君の手の中でどんどん形になっていくの見るの、すっごく楽しいなの!」
 にこにこと楽しそうに笑う葉月に、ニコはほっとしたように微笑んだ。
『それは良かったの!! マスターの方は一段落したし、葉月の方お手伝いするわ!!!』
『儂らに任せるんじゃ』
 元気いっぱいハイテンションに宣言するナッツとのんびりと言うハチさんに、葉月は両手でナッツとハチさんの手を優しく握った。
「ニコ君とナッツちゃんがお手伝いしてくれるなら百人力なの! 頑張るの!」
「ハチさんも……お手伝い、するよ……」
「有難うなの! ニコ君の子に負けないぐらい、可愛い子目指してがんばるの!」
 ぐっと両手を握る葉月を見て、ナッツは一緒に大騒ぎ、ハチさんは穏やかに笑う。
 人は怖い。だからニコの代わりにナッツとハチさんがいる。
 でも、目の前の光景は不思議とあたたかくて、ニコもいつの間にか微笑んでいた。


『初めてにしてはとっても上手!! この時点でちゃんと猫だわ!!!』
「ありがとうナッツちゃん! にゃんこなのー!!」
 パチパチと拍手をするナッツとハチさんとニコの前で、葉月はまだ顔のない水色の猫のぬいぐるみを抱き上げている。
 ニコが作った物に比べたら縫い目は粗くて甘くてがたがただし、綿の詰め具合も均等じゃなくて手足のバランスがどこかおかしい。
 だけどこの子は葉月が初めて作ったぬいぐるみ。頑張った分だけ可愛くて愛おしい。
『それじゃぁ後は顔を付けてあげましょう!! どんな子になるか楽しみだわ!!!』
 器用に縫い針を持ってナッツが言えば、葉月の心もわくわくする。
 初めて作ったぬいぐるみ。
 目の色は何色にしよう。口はどんな形が良いかな。
 わくわくしながらちらりとニコの方を見れば、ニコはハチさんを隣に座らせ、ナッツの持つ針にエメラルドグリーンの糸を通していた。
 何のためらいもないその動きに、葉月も糸に手を伸ばす。
 ニコの瞳のようなアメジストの糸に。
 ニコが葉月の髪と同じ色の布を選ぶなら。と選んだニコの髪と同じ色の布。それなら瞳の色だって、この色しかないじゃない。
 縫い始めに比べてスムーズになった動きで目を描いて行く。
 どこか眠そうなその目と、隣で同じようにウサギに顔をつけている少年の目を見比べて小さく笑う。
 口は小さい方が良いかもしれない。鼻と一緒に口を縫う。最後の玉結びを教えて貰うままに隠せば――。
「出来たなのー!!!」
『完成だわ!!!』
『お疲れ様じゃ』
 くりっとした大きな深緑の目を持つオレンジのウサギと、伏せ目がちの、少し眠たげにも見えるアメジストの瞳の空色にゃんこ。
「うん……。いっぱい、心のこもった……優しい子……」
 大切な物を見守るニコの眼差しに、葉月の心も嬉しくなる。
「ニコ君のお陰なの! いっぱいありがとうなの!!」
 空色にゃんこを抱きしめてにっこり笑えば、ニコは慌ててナッツを突き出す。
『マスターも凄く喜んでるの!!』
「ニコ君にも喜んでもらえて嬉しいの!」
 にこにこ笑う葉月に、ニコは片づけてお茶にしようと促す。
 二人一緒に片づけていると、近づく度にあの甘い香りが鼻をくすぐる。
 ふわふわ甘くて良い香り。
 どきどき不思議な胸の音。
 今まで感じたことのない感覚に、ニコはそっと葉月を見た。
 片付けを終えた葉月は、オレンジウサギと空色にゃんこに合うリボンを探し始めている。
 奥のキッチンでココアとチョコチップ入りのクッキーを用意して戻れば、葉月は机の上を見ていた。
『良いリボンは見つかったかしら?』
「うん! とってもよく似合うと思うの! ニコ君とナッツちゃんはどう思うの?」
 綺麗になった机の上にはお行儀よく座るオレンジウサギと空色にゃんこ。その頭にはぬいぐるみ用にとニコが作った小さ帽子が乗っている。
『お揃いなのね!!』
「お揃いなの!」
 にこにこ笑う葉月を見てナッツが一緒にはしゃぐ。
「その子……一緒に連れて帰ってあげて……。きっと、その方がその子も幸せだから……」
 小さなニコの囁きに、葉月は目を輝かせ、その日一番の笑顔を見せた。


 出会いは偶然だったかもしれない。
 だけどその偶然の出会いが、少年と少女を少しずつ変えていく。
 今日の思い出も、きっとその一歩。

  • ウサギとにゃんこ。甘くてドキドキ。完了
  • NM名ゆーき
  • 種別SS
  • 納品日2019年10月04日
  • ・瑪瑙 葉月(p3p000995
    ・ニコ・マリオネッタ・ベルナールド(p3p005355

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