PandoraPartyProject

SS詳細

あなたとの食卓だから

登場人物一覧

冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

 アーマデルが弾正の部屋で目が覚めると、既に彼は起きているようだった。
 昨晩はあんなに盛り上がってたのに弾正は凄い……と身を起こす。昨晩2人で鑑賞した大スペクタクル映画は本当に面白かった。流石練達。

「弾正、おはよう……早いな」
「おはよう、アーマデル。もうすぐ朝食が出来るから座っててくれ」

 アーマデルがキッチンに顔を出して挨拶をすると、弾正は丁度朝食を作っていた。普段はもう少しのんびりと寝ている弾正だが、アーマデルがお泊まりしているとなれば話は別である。

「よし、いい感じのができたぞー。朝食にしよう」
「ああ。ありがとう弾正。……どれもこれもいい匂いがする」

 アーマデルに用意されたのは和食で、まずは定番のご飯と味噌汁。味噌汁は昆布と煮干しからしっかりと出汁を取り、上品な甘みを感じる白味噌を使ったものだ。
 軽い祈りを済ませてまずは味噌汁を一口。具材はホクホクの新じゃがにシャッキリわかめ。優しく味噌の風味が口の中に広がって、なんだかホッとする。

「美味い」
「そうか……美味しいか!」

 思わず弾正はグッとテーブルの下で拳を握った。なんせ味噌汁は「君の作った味噌汁が毎日飲みたい」なんてプロポーズの引き合いに出される様なスープ。それを愛する人に食べさせるとなれば気合も入ろうというものだ。

「弾正?」
「ああいや、気にしないでくれ。量は多くないか?」
「大丈夫だ、ちょうどいい」

 副菜は出汁を無駄にしない様に、『煮干しとエリンギの佃煮』と『昆布と人参のきんぴら』。アーマデルは一回で食べる量がさほど多くはないためご飯はお茶碗に少なめ、佃煮ときんぴらは掌に納まるサイズの小鉢に持って品数は確保しつつ量は抑えているのもポイントだ。
 佃煮は柔らかくした煮干しとエリンギを白だしで煮詰めていて、煮干しを噛むとじゅわっと口の中に風味豊かな出汁が広がるのが堪らない。刻んだエリンギもコリコリとした歯触りで咀嚼が楽しい。
 きんぴらは昆布、人参、金胡麻の彩りが美しく、口元へ運ぶと食欲をそそるごま油の香りが鼻を擽った。全体的に食感が軽く残る程度に上手に火を通してあって小鉢でありながらもしっかりとした存在感を放っていた。

「……こっちも美味い。ええと……なんだろうな……塩気はしっかり感じるけど、甘いというか。でもお菓子みたいな甘いじゃなくて、自然だ」
「そりゃあよかった。豚肉もぜひ食べてみてくれ」

 弾正が指したのは平皿に乗った豚の焼き肉で、食べやすい様に一切れずつ切ってあるのが彼の気遣いを感じさせる。アーマデルは弾正に勧められるままに美味しそうに焦げ目のついた豚焼肉を一切れ取り、口の中に入れた。

「む……凄く肉が柔らかいな……。弾正、これは?」
「それはな、豚肉のヨーグルト味噌漬けだ」
「ヨーグルト……味噌、漬け……!?」
「はは、ちょっとびっくりしたか? でも変な味はしないだろ。ヨーグルトに肉を漬けると肉が柔らかくなるんだ。昨日のうちに仕込んでおいたんだよ」

 アーマデルの目が驚いた様に見開かれたのを見て、弾正は少し笑いながら説明を付け加えた。弾正の言う通り豚肉は非常に柔らかく、ヨーグルトのお陰なのか塩味もまろやかで同じ味噌でも味噌汁とはまた違った味わいだ。
 『昨日から仕込んでいた』という弾正の言葉に、アーマデルは手が込んでいるのだな……と感心したが、それと同時に弾正の方を見て少しだけ眉を動かした。弾正の前にはアーマデルと同じ料理は無く、それどころか小皿にぽつんとピンポン玉程の大きさの丸い団子が1つ乗っかっているだけだった。なんだろうか。それを見ているうちに、なんとなく「寂しい」に近い感情がアーマデルの中をよぎる。

「ところで……弾正は何を食べてるんだ?」
「ああ、これか? これは『兵糧丸』って言ってな。凄いんだぞ、この小さい丸薬1つで栄養とカロリーをしっかり摂取できるんだ。有名なのは忍者の携帯食として用いられている話なんだが、異世界の戦国武将たちもこれを食べていたって話で……」

 アーマデルが自身の得意とする分野に興味を向けてくれたことが嬉しかったのか、レシピが家によって違っていて……とか俺が作っているのには白玉粉や胡桃も……とか、すらすらと知識やこだわりが弾正の口から飛び出してくる。アーマデルはそれらのひとつひとつに頷いていたのだが、どうにも自身の中のわだかまりが解消できずにアーマデルは途中から上の空でうーん……と唸ってしまった。

「……アーマデル? やっぱり何か口に合わなかったか?」

 その様子に気づいた弾正も語るのを止めてアーマデルの方を伺ってきたものだから、アーマデルは慌てて首を横に振る。

「そんなことはない。弾正が作ってくれるご飯はどれもこれも美味しい」
「お、おう、ありがと……」
「そう、美味しいんだ……!」

 アーマデルは力強く頷くと、その感情の勢いのままに豚肉の味噌漬けを一切れ取って弾正にずいっと差し出した。今度は押され気味に話を聞いていた弾正の目が点になる。

「美味しいんだ」
「あ、アーマデル?」
「弾正、あーん」

 そんな迫力のある「あーん」ってある? と若干混乱していた弾正は素直に口を開いて、勢いの割には優しく口に入れてもらった豚肉を咀嚼する。柔らかな肉質、ジューシーな脂、程よい塩気……。

「美味くできてる、な……」
「そうだろう」

 うんうんとアーマデルは頷き、そこで彼は自身の中のわだかまりの正体に思い当たった。アーマデルは今度は舌の上で何度か言葉を転がしてから、大切に丁寧に言葉を紡ぐ。

「弾正と、この美味しさを分かち合えて嬉しい」

 自分のためだけに用意された料理。美味と思える品々を、その食卓で共有できる人間がいない。そのことを「寂しい」と捉えたことに、まずアーマデル自身が驚いた。自分はそんなことを考える様な奴だったろうかと。だがこの料理を作ってくれたのは、そして一緒に食卓を囲んでいるのは弾正愛する人だ。大切な人と「美味しい」を分かち合いたいと思ってしまうのは、わがままなことだろうか……。

「アーマデル……」
「……すまない。どうしても、その、"同じ物を食べたい"という気分になって……。弾正が作った『兵糧丸』もきっと美味しいだろうから、俺にも同じ物を用意してくれると嬉しい」

 アーマデルの言葉に弾正はしばし考え込んだ。駄目だろうか……と窺う様な視線がアーマデルから送られてくる。駄目ではない。だが、今アーマデルに出すと朝食としては栄養が過剰になってしまうし、今後の2人の朝食で揃って『兵糧丸』を食べるのも(栄養は味はともかく見た目が)貧相すぎる。

「ちょっと待っててな」

 弾正は席を立ってキッチンへ姿を消したかと思うと、すぐに戻ってきた。彼の手には昆布と人参のきんぴらの小鉢が収まっており、それを『兵糧丸』の隣に並べる。

「朝は『兵糧丸』だけってのに慣れちまってるから、暫くおかず1品が一緒……ってのでも許してくれるか?」
「……! ああ」

 そうやって笑い合った2人は少し照れくさそうではあったものの、温かい気持ちで溢れていて確かな幸せを感じていた。

「もっと2人で何かする時間ってのを増やしたいよな。一緒に料理を作るとか!」
「弾正を病院送りにはできない(真顔)」

 その後、愛情さえこもっていればたとえ炭でも完食できる! と力説する弾正を説得するのに、たっぷり30分はかかったらしい。

  • あなたとの食卓だから完了
  • NM名和了
  • 種別SS
  • 納品日2022年05月21日
  • ・冬越 弾正(p3p007105
    ・アーマデル・アル・アマル(p3p008599
    ※ おまけSS『弾正さん家の兵糧丸』付き

おまけSS『弾正さん家の兵糧丸』

材料
・白玉粉
・玄米粉
・そば粉
・日本酒
・はちみつ
・胡麻
・胡桃
・きな粉

製法
・白玉粉、玄米粉、そば粉、日本酒、胡麻、蜂蜜を混ぜて練る
・胡桃を混ぜて団子状にする
・蒸し器でじっくりと蒸す
・きな粉をまぶす

備考
・味は悪くないものの保存性に改良の余地あり
・多く作った時は冷凍庫で凍らせておくのが無難

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