Grau Trane

登場人物一覧

　……やだ。
　ファルカウはあたしたちが、ううん、おとーさんとおかーさんが、里の長老たちが生まれるずっとずっと前からあって。
　本当にこれしかないの？
　火の鳥なんかにお願いしなくても、奇跡を祈って、そうだ！
　シュペルさんになんでもするからってお願いして、もっと、ねえ、やだ！
　ルドラさん、先輩、ねえ、お願い、待ってよ！

　……これしか、ないの？
　これしか、ないなら。皆を救うには、これしか、ないなら――

おまけSS『空に祈る』

　――綺麗だ、と思った。
　煌々と輝く火の鳥は、あんまりにも眩しくて。
　吹雪の檻を、そして木々を燃やす姿は――これしかなかったのだと思い知らされる。
　大霊樹（ファルカウ）が燃え尽きることなどないのだと、こうするほかなかったのだと心の底では理解している。
　けれど、母と、父と、幼馴染たちと。
　はじめてファルカウに行った日のことは、忘れるものか。
　幼心に幻想種たる本能が「ただいま」と思ったあの日のことを、忘れるものか。

「私達全ての咎であり、せめて救いとなるように祈ろう」

　何が咎だったのだろうか。
　この森を開いたことが？　外に出たことが？
　わからない。わからないし、ぐしゃぐしゃになった視界と、ろくに呼吸ができない肺ではなにもわからない。

　誰に縋りついていたのかもわからず、いつの間にへたりこんでいたのかもわからないけれど。
　もう大丈夫だという誰かの声がして、周りが水の魔術を使い出したから――
　どうか、どうか沢山の雨が降りますようにと。
　空に、祈った。