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私だけの時間

登場人物一覧

コレット・ロンバルド(p3p001192)
破竜巨神

●破壊神だった少女
 その背中にある一対の翼は漆黒の色を纏い、赤き瞳はたった今流された血潮のように鮮やかで、煌めく金色の神はこの世のものとは思えぬ美しさを湛えている。
 彼女の名はコレット・ロンバルド。この世界では旅人と呼ばれる異世界からの来訪者で、彼女の世界では女神につきs違う従者であり何度も世界を危機から救った神の一人。
 彼女の能力はあらゆるものを破壊することができるというもので、この世界に喚ばれて以来、破壊まではできなくなってしまったものの『どのようにすれば壊れるか』などは世界から賜ったギフトで把握できるようになった。
 文化も異なる異郷の地。最初こそ戸惑っていた彼女がまず行ったこと。それは――

●ハロー、ワールド
 朝の陽差しが降り注ぐ住処の、ベッドから近い窓辺には新しい一日を告げる鳥たちが楽し気に歌を歌っている。
 重たい瞼をゆっくりと上げれば、もはや見慣れた天井の木目。視線を横に向けるとカップの中にはすっかり冷えてしまった紅茶と、読みかけの本がそこにあった。
 昨晩の記憶をたどる。友人からとても面白いと聞いた本を借りて、時間を忘れて読みふけった結果、寝てしまったのだ。
 足先が冷えているのを見る限り、布団から足も出ていたらしい。
 またやってしまった。ため息を一つついて体を起こす。3mをほんの少し超える体に耐えることができるこのベッドはもとからこの部屋に備え付けられていたものだった。
 ローレットが紹介してくれた体の大きな旅人でも安心して生活ができるように建てられた住居。(とは言ったものの最初のころはよく扉の梁に頭をぶつけたものだ)その広々とした空間や、服がたくさん入るクローゼットはそこそこ気に入っている。
(ちなみに頭を良くぶつけたことをギルドマスターに話したところ、もっと大きい部屋を紹介されたが何となく乙女に対する配慮が足りていないと感じたため謹んでお断り申し上げた次第である)
(……さて)
 ゆっくりとベッドから抜け出してクローゼットを開ける。今日の気分に合う服を選んで、髪を結い上げ、メイクもして。最後に簡単にベッドメイクなどをすれば出かける準備はほぼ整ったといえよう。
 戸締りを確認してから、彼女は町へと歩を進めた。

『店主は不愛想だが品ぞろえは申し分ない』
 そんな本屋の情報を聞いたなら行かない道理はない。
 ついでにその近くにケーキのおいしいカフェもあるらしいが、果たして巨人サイズのメニューも提供してくれているだろうか。
 体が大きすぎても小さすぎても見合ったサイズのものが市場に出回りにくいというのはなかなか大変だと思う。
 趣味の読書をするにも、売っているもののほとんどは『普通サイズ』で、ものによっては目を凝らさないと読めないほど小さい文字で書かれたものもある。
 去年のクリスマスに、自分へのプレゼントとして購入したかわいらしいイラストの挿絵が要所要所に入った小説(確か『ライトノベル』といったか)なんかは字が小さめだったが内容はイラストで補完できるし、読んでいるとまるでその場でその光景が繰り広げられているかのようで楽しかった。
(巨人用の家があるんだったら、巨人用に印刷された本があってもいいようなものだけど)
 練達かどこかで出版してくれないものだろうか。口には出さないが常々そう思う。
 あぁ、そろそろ目的の本屋が見える。

 店の入り口はドアが高めで、大柄(とはいってもこれが彼女の普通サイズなのだが)な彼女でも身をかがめれば入ることができるくらいの大きさであった。
 不愛想な店主はコレットの姿を見つけるとじい、とよく見た後に『入ってこい』というように一度だけ首を振った。
「お邪魔しま……、わぁ」
 誘われるがまま中腰になり店内に入って、言葉を失った。天井のぎりぎりまで作られた棚にぎっしりと詰め込まれた本達は、まるで図書館。いや、本で作られた都市のようで、新しい本のインクの香りや、古ぼけた本の紙が焼けた匂いに包まれていた。
 店主は店の外で『休憩中』の看板を立てかけた後にカウンターの向こうに腰を下ろし、何事もなかったように読みかけの新聞に目を落としていた。
(貸し切りってこと?)
 店主は多くを語らないが、わざわざ新しい客の入店ができないようにしたあたり、つまりそういうことなのだろう。
 こんな多くの本に囲まれて、自由に選ぶことができる。誰にも束縛されないひとときというのは何よりもうれしい。
「ありがとう」
 店主に一言礼を述べ、新しい出会いを求めて本棚に向きあえば、店主は恥ずかしそうに人知れずほほをかいた。

●グッドナイト、プリンセス
 夕食と入浴を済ませ、オレンジ色のパリッとしたパジャマに袖を通したら、あとはもうお楽しみの時間である。 ベッド近くに置いたランプが室内を照らし、周囲は薄暗いながらも何かをするには申し分ないほどの明かりを確保していた。
 今、コレットの周りには四冊ほどの本が並んでいた。うち二冊は昼間に本屋で購入したものである。
 一冊。ページをめくる。これは神様と一人の人間が世界の存亡を賭けた戦いに身を投じていく物語。
 もう一冊。こちらは貴族と使用人の許されない恋を描いたありふれたラブストーリー。
 あっちを読んで、登場人物たちの考えていることがわからなくなったなら、今度はこっちを読んでそれを補完する。
 こっちでわからないことがあれば、今度はあっち。時々出てくるファッション用語なんかはそっちの雑誌を見れば大体載っている。
 今まで知らなかった事や、この世界特有の事象なんかを知ることができるこの時間は楽しい。
 この世界で知り合った友人と呼べる人たちと、おしゃれをしたりおいしい料理に舌鼓を打つ時間は楽しい。
 元の世界では女神に付き従い、壊すだけだった私が女神から解放されて『自由』にできるこの時間は、とてもとても楽しい。
 神様だっておしゃれしたっていいじゃない。好きなことに時間を費やしたっていいじゃない。ずっとずっと生きていて、これからも生きていくのに何も楽しみがないなんてそんなの死んでるのと同じでつまらない。
 それを教えてくれたのは混沌に生きる純種と、同じように異世界から喚ばれた自分に近しい人たちだった。
(やっと手に入れた私の生活)
 普通の人からすれば何でもないような些細な日常。ずっと欲しかった日常。
 ようやく手に入れたそれをかみしめるように彼女はページをめくる。
 彼女の時間が望んだものだったのか。それはすっかり冷めてしまった一杯の紅茶だけが知っている。

  • 私だけの時間完了
  • NM名樹志岐
  • 種別SS
  • 納品日2019年10月01日
  • ・コレット・ロンバルド(p3p001192

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