PandoraPartyProject

SS詳細

Action is eloquence.

登場人物一覧

カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾
耀 英司(p3p009524)
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 劇作家アントニー・フルヤリは幻想貴族の中でも稀有な経歴の持ち主だった。
 元々大工の家系であるフルヤリ家は平民でしかなかったが、著名な劇作家の舞台装置を受注した折に、現場に遊びに来ては創作物語を語るアントニーを見て、門下に入るよう薦めたのだ。
 才能を見出された彼は頭角を現し、一代にして貴族の爵位を買い上げる程の財をフルヤリ家にもたらした。そんな彼が最も得意とする脚本は――悲劇である。

「こいつはまた、灰かぶりシンデレラも裸足で逃げ出す散らかりっぷりだな」
 有名人であるが故によく分からない貰い物も多くて処理に困っていると聞いていたが、倉庫に入りきっておらず空き部屋にもガラクタがギッチリだ。
 マスクごしでなければ埃でむせていたなと『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)は溜息をついた。そんな彼の今日の服装は、いつものスーツではなくネイビーカラーの作業着である。
「そっちの部屋はどうだ、相棒」
「おー。蜘蛛の巣、いっぱい、ある、してるぞ! 大家族!」
『旅色コットンキャンディ』カルウェット コーラス(p3p008549)が部屋の中に向かって明るく手を振っている。いったい何匹いるんだと英司は頭痛を覚えながら、隣の部屋の扉を開けて――
「うおっ、危ね!」
 巨大ワニが大口を開けている事に気づき、秒で閉めた。
「騒がシーね。何事かな!」
 玄関先で身支度を整えていたアントニーが英司とカルウェットのいる廊下へ顔を出す。彼こそが今回のクライアントであり、この館の主だった。
『屋敷を留守にする間、清掃作業を頼みたい』――ローレットに舞い込んだ仕事は、最初こそ簡単なものに見えた。しかし現地に行けば眩暈がするほど広い屋敷に、壊滅的な散らかりっぷり。極めつけはワニの部屋だ。
「おいアンタ、この部屋なんでワニが放し飼いになってんだ?」
「ナーニ言ってるのかね。放し飼いも何も、この屋敷はジュリエットちゃんのお家なのだよ」
「ジュリエットって、あのワニか?」
 まさかの真実にカルウェットも目をまん丸くする。この屋敷はアントニーの別荘のうちのひとつ。しかもペットのワニ用ときた!
「飼育環境おかしいだろ。思わずブン殴る所だったぜ?」
「ノーだよ英司くん! 私の屋敷では手をあげるの禁止!もちろん神秘術もね!」
 返答を聞く前に、アントニーは忙しそうに屋敷の外へと出て行ってしまった。頭を押さえて俯く英司をカルウェットは不思議そうに覗き込む。
「ワニの部屋、掃除する、しないのか?」
「……最後でいいだろ。他から片付けるぞ」


 上の階から掃除をしていこう。そう相談した二人が3階の清掃を終えて2階に降りてきた頃、トラブルはやって来た。
「……ん!」
 ピキーン、とカルウェットの直感が何かを告げる。そわそわしだした様子に何かあったか聞こうとする英司も、人助けセンサーに反応がある事に気づいて口をつぐんだ。人差し指でしーっとサインを送り合った後に、二人はそっと階段の踊り場から下の階の様子を覗いてみる。玄関先の黒ずくめの三人組は、正当なお客様という雰囲気ではない。ジュリエットのいる部屋から低い唸り声が聞こえた――助けを求めていたのは彼女の様だ。

「ニキ、ジュール。金目のモン全部奪ってこうぜ!」
「ヘイ親分! ところで唸り声が聞こえるこの部屋は何なんスか?」
「変な部屋はスルーしても、アントニーの屋敷にゃ金目の物が多いでゲス。静かな所だけ漁っても十分でゲス」

「絵に描いた様な盗賊だなこりゃ」
「怪人さん、剣でスパーン! するならボクも……」
「いや、依頼主は館での暴力をお望みでない」
 仮面越しの視線を感じ、ピーンときたカルウェットは口元を悪戯っぽく緩ませた。物置部屋の扉を開けて目をきらっきらさせる。
「ねぇねぇねぇ! 怪人さん、カラシだって!これ、使えそう、しない!?こっち、あまる、したペンキ…!宝の山だぞ!楽しいぞ!」
「いーじゃねぇかカルウェット、流石だぜ! こっちにゃ接着剤に羽毛に……ははは、アイデアの洪水だ。聞くか?」
 痛すぎる歓迎がこの後あるとは思うよしもなく、盗賊は1階の金目の物を麻袋にちゃっちゃか詰め込み終えた。
「親分、次は2階を見て来るっス」
 銀歯をした小男のニキが階段に手をかけ――そのまま動きを止めた。
「さっさと行くでゲスよ」
「行けねぇんスよ! 階段の手すりに手をかけたら、くっついて――あだだ」
 無理に引き剥がそうとニキを引っ張るジュール。慌てた二人は張り巡らされているピアノ線に気づかず、プツリと足で切ってしまった。物音に気付いて振り向くと、ごろんごろごろ! 階段からは林檎の嵐!
「「あああぁーーー!?」」
 足をとられて二人一緒に転がり戻る様を、親分と呼ばれていた男は「なにやってんだ」と鼻で笑いながら階段を登ろうとした。――登ってしまったのだ。後ろ、と部下が背後を指さすものだから、気を取られた親分は素直に後ろを向いてしまった。
 グワッシャ~ン!
「痛った辛ァ!?!?」
 勢いよく紐で振り落とされたバケツ。その表面にはカラシが塗りたくられていた。痛みと辛味に足を踏み外し部下を巻き込んで下の階に落ちる親分。下敷きになって気絶しかけた子分たちをどついて起こし、青筋を立てながら乱暴な足取りで階段を再び駆け上がっていく。
「誰かはしらねぇがガキみてぇな罠を……とっちめてやる!」
 やっと2階に上がれた三人組は、手近にあった部屋の扉を開けてみた。瞬間――風と共に羽毛がぶわっと吹き付ける。
「わっ! 誰でゲスか窓を開けっ放しにしてたの……!」
「おいジュール、顔が羽毛だらけだぞ」
「……げげっ! 接着剤がついてるゲス!?」
 間抜けな格好を笑いながらニキは室内に一歩踏み出し、ペンキ入りのバケツの中に片足を突っ込んだ。足をとられてひっくり返り、辺りに黄色をまき散らしながらすっ転ぶ。藁にもすがる思いでひっ掴んだカーテンは星のオーナメントが飾られていた。勢いで強く握ったニキの悲鳴があがる。カーテンレールが歪み、どこかでゴトンと音がした。
「苦労して入ってみりゃただの書庫かよ」
 罠もあらかた出尽くしただろうと子分を踏み越え親分が部屋に顔を出す。ふと、何処かから音が近づいている事に気が付いた。バタバタバタという不可思議な音はだんだん近づいてる様に聞こえる。
「親分、これやばいっスよ」
「嘘だろ……」
 音の正体が分かった瞬間、三人組は身を寄せ合った。それは本棚が倒れる音だ。奥の方から手前へと、ドミノ倒しに倒れていき――気づけば目の前の本棚が大きく傾いていた。
「「「やめてぇーーー!!!」」」
 ドッスウゥゥウン!!
 屋敷全体を大きな衝撃が揺るがす。英司とカルウェットが部屋をそーっと覗き込むと、床には大穴が空いていた。下はジュリエットが放し飼いにされている部屋だ。
 ぐったり気絶した盗賊三人組の上にのっかり、ご機嫌に尻尾を振るワニに、英司とカルウェットはニシシと笑う。
「ジュリエットはロミオ達をいたく気に入ったみたいだぜ」
 飄々とした英司の声が耳に届いて、親分が憎たらしげに視線を上げた。
「お前ら……」
「ひっひー、ボクたちに、勝つ、できるわけ、ないするよ」
「ああ。狙いは良かったが、俺達がここに居た事がアンタ等の失敗だ。なぁ?」
 拳をつき合わせて仲良く勝利を喜び合う英司とカルウェット。その姿を見届けて、親分は再び気を失うのだった――

  • Action is eloquence.完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月28日
  • ・カルウェット コーラス(p3p008549
    ・耀 英司(p3p009524
    ※ おまけSS『劇作家はむずかしい』付き

おまけSS『劇作家はむずかしい』


「やってくれたね……」
 あれから数時間後、連絡を受けた衛兵が盗賊を連れていき事件は一件落着のように見えた――が。
 屋敷の中は掃除をする前よりも荒れ放題。床に大穴まで開けてしまったのだ。目の前でぶるぶると震えるアントニーに、カルウェットも流石に慌てずにはいられない。
「ごめんなさ――」
「あぁもうホントーにやってくれたね! こんなに悲劇的な体験は初めてだ。君達のおかげで……創作意欲が湧きまくりだよ!!」
 嬉しそうなアントニーの悲鳴に二人は思わず顔を見合わせる。そういえば彼は悲劇の劇作家だった。今回自分に降りかかった悲劇がいいインスピレーションに繋がったらしい。
「君達にさっそく次の別荘の掃除を任せたいのだがドーかね? 巨大蜘蛛のヴェニスが――」
「「やるわけ、ないするよ」」

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