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ガレトブルッフ=アグリア

登場人物一覧

紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
紫電・弍式・アレンツァーの関係者
→ イラスト

●紫電
 月の夜空を舞う刀。
 スローになった世界の中を、ゆっくりと回転し光を照り返す黒い刀身。
 落下したそれを、獣耳の少女が掴み取った。
 少女の目と刀身の筋がキラリと光る。
 黒装束のアサシンたちの間をジグザグに駆け抜けていく青と黒のライン。
「は……早い……ッ」
 短剣を取り落とし、アサシンたちは次々に倒れていく。
 すると、少女の背後に新たなアサシンが現われた。
 塀を跳び越え宙返りをかけて着地したアサシンは、背負った鞘かまっすぐな日本刀を抜いて見せた。
 振り返る少女の横一文字斬りをバク転によって回避するアサシン。
 バネ仕掛けのように繰り出された反撃の目突きを紙一重でかわし、靡く銀色の髪をそのままに相手の横をすり抜けていく少女。
 素早く腰の後ろから抜いた猛一本の太刀が、すれ違いざまのアサシンを切りつけた。
 吹き上がる鮮血を背に、少女は剣を二本水平に構えて止めた。
「貴様……名は……」
 少女静かに、刀をそれぞれ鞘に収めた。
「紫電――紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)」

 紫電はポケットから依頼書を取り出し、情報屋の話を思い出していた。
 依頼内容は奴隷売買に手を染めたという悪徳商人と彼がパトロンをしているアサシングループの始末である。……が。
「今のところ雑魚ばかりだな。手練れが一人いるとは聞いたが……」

●アグリア
 時を同じくして。
「飽きもせずにぞろぞろと……」
 血のように赤いマフラー。冬の空のような長い髪。
 セーラー服に身を包み、身の丈ほどの両手剣を嘘のように片手で担ぎ、黒服アサシンたちへと歩いて行く。
 黒い鋼にフォトンブラッドの走った悪魔めいた両手剣である。
 アサシンたちは少女よりも、その剣にこそ警戒した。
 中央にはめ込まれた石が、まるでこちらの生命をのぞき見ているように思えるのだ。
「ぐ、ぐぐ……!」
 恐怖をかみ殺し、数人一斉に飛びかかる。
 彼らの短剣が振りかざされ、少女へ迫ろうとした、その時。
「死んでくださいな」
 少女の両手が剣の柄を握ったかと思うと、赤黒い波が発生した。
 豪快な横一文字斬りが繰り出されたのだと分かった者は、その場には居ない。
 なぜなら波によってアサシンたちの肉体は上下真っ二つに切り裂かれ、血液や霊魂が剣に吸い上げられていったがゆえである。
「き、さま……一体……名、は……」
 上半身だけになったアサシンが、消えゆく意識のなかで手を伸ばす。
 その手を踏みつけ、少女は髪を片手でかき上げる。
「ガレトブルッフ=アグリア……『魂を喰らう魔剣(ソウルテイカー)』です」

 アグリアはスカートのポケットから畳んだ依頼書を取り出し、情報屋の話を思い出した。
「それにしても雑魚にしか会いませんね。アサシングループのリーダーは手練れらしいとは、聞きましたが……」
 はて、どんな顔と名前をしていただろうか。

●刃の交わるとき
 瓦屋根を走る紫電。
 飛来する複数の手榴弾を連続で切断し、爆風の中を更に駆け抜ける。
 黒衣のアサシンが壁をよじ登り進路上へと飛び出すが、紫電はそれを宙返りで飛び越えながら相手の肩や首筋を切断。吹き上がる鮮血をバックに更に瓦屋根を突き進む。
「守りが堅くなってきた。どうやら道はあっていそうだな?」
 窓めがけて加速。
 刀の一本を鋭く投げると、突き刺さりひびの入った窓めがけて身を丸めたクロスアームで飛び込んでいった。
 飛び散るガラス片。空中で刀をキャッチし、着地する紫電。
 構えていたアサシンたちの一斉攻撃に対応しようと構え――たその途端。
 凄まじい殺気と魔力を察知して本能的に飛び退いた。
 一瞬前まで立っていた場所を赤黒い魔力の波が走り抜け、床と天井をめちゃくちゃに破壊しながら進路上の壁を爆砕。
 回避しそびれたアサシンたちは当然のように消し飛んでいた。
「この魔力の質……まさか!」
 ごろんと転がりすぐさま体勢を立て直した紫電は振り返り、そして叫んだ。
「アグリア、なぜお前がいる!」
 崩壊した壁から差し込む月明かり。
 靡くスカーフとセーラー服。恐ろしい魔力を内蔵した巨大な剣。
「おや……誰かと思えば、ポンコツ刀の紫電じゃないですか」
「誰がポンコツ刀だ、サイコパス野郎が」
 紫電の脳裏にいくつもの記憶がよみがえった。
 混沌へと召喚されるまで駆け巡った無数の世界。
 そのあちこちで遭遇し、そのたびにいがみ合い続け殺し合い続けてきた宿命のライバル、アグリアである。
「どうやら」
「ええ……どうやら」
 紫電は。
 アグリアは。
 それぞれのエネルギーを剣に漲らせ、しっかりと構えた。
(アサシングループの手練れってのはこいつのことか。悪いが決着をつけさせて貰うぞ、アグリア)
(あなたがこの雑魚どもを束ねていたのですか。いけませんね、こんな連中はあなたを鈍らせる。わたしだけを見ていればいいんです)
 互いに全く異なる、そして真逆の誤解を抱いたまま――。
「リアッ!」
「紫電ッッ!!」
 青白い閃光が走り、幾本もの軌道をほぼ同時に描いてアグリアへと斬りかかる紫電。
 対するアグリアは凄まじく豪快な斬撃によって眼前の風景を丸ごと破壊。
 紫電の背景が爆発四散し、アグリアの背景が八つ裂きとなった。
「どこでそんな馬鹿力、覚えやがったんだ……!」
「さあ? どこで覚えたんでしょうね!」
 崩壊するアサシンたちのアジト。
 降り注ぐ瓦をジグザグによけながら、紫電は自らのギアをもう一段階引き上げた。
 『迅空』にはしった青いラインと赤い刃がそれぞれ輝きを増し、紫電の速度が急速に引き上がっていく。
 まるで目視できないほどの速度で走り崩れゆく壁を走ってアグリアの上をとる紫電。
 『そうくること』を予測して振り向きと同時に斬撃を繰り出すアグリア。
 紫電の腕が切り裂かれ、アグリアの腕もまた切り裂かれる。
「ぐっ……!」
 あまりの衝撃に着地を失敗し、紫電はごろごろとがれきだらけの地面を転がった。
 対するアグリアも自身の生命吸収能力を上回る破壊に耐えきれず、よろりと地面に剣をつく。
 と、そこへ。
 パチ、パチ、パチ……と余裕のある拍手が聞こえた。
「おやおやおや。始末屋さんがたは、どうやら仲がおよろしいようですねえ」
 嫌みな口調で語る、糸目で小太りの男。
 依頼にあった抹殺対象。奴隷売買に手を染めた悪徳商人である。
 そして。気づけば
「……おい、リア」
「ええ、どうやら有象無象が集まってきたようですね」
 紫電とアグリアをアサシンたちが取り囲んでいた。
 ちらり、とお互いを見やる紫電とアグリア。
 商人は手を翳し、ニヤリと笑った。
「さあ皆さん、やっておしまいなさ――」
 暴風と雷鳴がすべてを塗りつぶした。
 光が目を焼き、風が大地を消し、衝撃が世界から音を奪い去り天空が闇に包まれた。
 そして何もわからぬまま、商人は十二分割されていた。
 紫電によって横六分割。さらにアグリアによって縦二分割である。
 そうしてすっかり平たくなった風景の中で、紫電は再び身構える。
「続きだリア。オマエとはいい加減――」
「いいえ」
 しかしアグリアは剣を引き、大きくその場から飛び退いた。
「また逢うかもしれませんね、紫電」
「おい待てクソ魔剣……!」
 追いかけようと踏み出す紫電を暴風が覆い、晴れたときには、もう誰もそこにはいなかった。
 息をつき、剣を納める紫電。
「本当に……また遭いそうな気がするよ、オマエには。

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