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モブから見たベーク・シー・ドリーム
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回はたいやき、どこから見てもたいやきのベーク・シー・ドリームさんについて密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はベークさんに詳しいというお二人にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●甘いもの好きなレベッカの話
──レベッカ氏は古今東西の甘いものを追う、スイーツライターの女性である。
甘いコロンの香りを漂わせ、インタビュアーの前にやってきた。
──こんにちは。今回はよろしくお願いします。
「はあい、よろしくね」
──さっそくですが、ベークさんについて知っていることをお伺いしてもよろしいでしょうか。
「まあー、語り切れないわね」
──えっ?
「最初はね、ホントただのオブジェみたいなモノかと思ってたのね。鯛焼き屋さんの看板みたいな。
でも、違うでしょう。そうじゃないの。漂う香ばしく甘い香りを放つ看板なんてある? いいえないわ。その瞬間私は確信したの。これは生きている鯛焼きだってね。
どっか練達のテレビか何かで見たけれど、生きているアンパンやメロンパンだって居るって話じゃない。じゃあ生きてる鯛焼きとか珍しくないんだって私思って。そう思ったらぜひ食べてみたいと思ってねー。
あの潤んだ目。自分を食べてといわんばかりの表情! それにあの大きさ!! バケツプリンなんてモノがあるけれど、そういう下品なモノじゃないのよ。わかる?」
──え、ちょ、早口すぎて聞き取れな……。
「あなたもジャーナリストならついてきなさいな。それで、齧りついてみたいと思わない? 人生で一度は思うでしょう? 大きな、大きな鯛焼きを食べてみたい──って」
──ああ、いや、その。私は甘いものはあまり……。
「ええっ? 声が小さくて聞こえないわよ。ともかく、スイーツライターの意地として、彼のその身を一度は味わいたかった訳」
──はあ……。
「それでね、どこだったかしら……彼が公園のベンチか何かでお昼寝してたのね」
──まさか。
「そりゃあもう追いかけまわしたわよ。そんなチャンス二度と無いし。でも惜しかったわね~。
もう少しゆっくり近づいてれば、一口くらいイケたと思うんだけど」
──鬼畜かな?
「彼ねえ、泣きながら逃げててね。全力で走って……あれ、泳いでたのかしら。まあどっちでもいいけど。そんなトコロもまたソソるのよ~。
私のヒールが折れてなければ多分追いついてたけど、まあ焦らされれば焦らされるほどハードルも期待もアガるから」
──いよいよ本格的にヤバい方向になってきましたね。あとハイヒールで全力疾走は危ないのでやめてください。
「最近は仕事そっちのけで彼の事考えてるのよ。これは恋かしらねえ?」
──ベークさんにとってはたまった話じゃないですね。
「どんなスイーツを食べても満たされないの。やっぱり彼じゃないとね……ウフフ」
──ベークさん! 逃げて!! 早く!!
「ムッ! この香り──間違いない、彼だわ! 急がなくちゃ!! この話の続きはまた後で!!」
インタビュアーはその香りとやらを感じ取る事は出来なかったが、彼女は鋭い嗅覚を持っているようだ。
ものすごい勢いで、レベッカ氏はインタビュアーの前から姿を消してしまった。
あとに残ったのは、困惑するインタビュアーただ一人だけであった。
●たいやき・カスタードの話
何と言うことだ。この世界に鯛焼きは二匹も居るのか?
インタビュアーの前に居るのは、確かにベークさんとうり二つな大きな鯛焼きの姿。
……少し違うのは、真っ白い身体である、という事くらいか。
カスタード氏はベーク氏とは変わって、バニラのような香りを漂わせている。
「どうしました?」
──うわっ。やはり、こう鯛焼きに話しかけられると……思うところがありますね。
「まあ、奇異な目を向けられる事は慣れてますけどもね」
──失礼しました。今回はよろしくお願いいたします。
「はい。カスタード・シュー・クリームと申します。どうぞ宜しく」
──僭越ながら、ベークさんのご兄弟とか、そういう事ではありませんか?
「さあー、どうでしょうねえ。ちなみに、あなたは鯛の産卵はどうするか知っていますか?」
──えっ。すみません、存じ上げておりません。
「海の中に、ぶわっと卵をバラ撒くんですよね。親は卵を守らないので、殆どの兄弟は別の魚なんかに食われます。
そういう意味では、僕も彼も生存競争に生き残ってきた強者でしょうねえ」
──複雑な家庭環境みたいな話になってきましたね……。
「ま、なので僕も親を知りませんし、彼もきっと親を知らないでしょう。なので、もしかすると僕と彼は兄弟かもしれませんが、それを知る術もありません」
──成程……。
「僕たちのような鯛のディープシーであれば、あまり珍しくない境遇ですよ。あまり深刻な顔をされないでください」
──ああ、いえ。すみません。
「さて。本題ですが……どうやら彼、最近とある女性と仲良くしてるようで」
──それは興味深い話です。よく一緒に居る女の子の事ではなく?
「ええ。この前も、仲良さそうに追いかけっこで遊んでいましたよ」
──へえ、追いかけっこ……何かどこかで聞き覚えがあるような……。
と、何だか後ろで騒がしい声が聞こえる。
「うわああああ!! 僕は食べ物じゃなあああい!!」
「待て、待てえっ!! 一口食わせろおおっ!!」
叫びながら必死に逃げる茶髪の少年と、なんだか見覚えのある女性がインタビュアーとカスタード氏の脇を通り過ぎて行った。
「ほらね」
──いや、アレはなんて言ったらいいんですかね……ただの捕食者というか……スイーツの鬼というか……。
急ブレーキと共に、ぐりんと首を180度回すレベッカ氏。
「他にも美味そうな匂いを感じたわ」
レベッカ氏がカスタード氏にも目を付けた。
──カスタード氏!! 逃げて!! 超逃げて!!
クラウチングスタートしているレベッカ氏。
さすがの生存競争で勝って来たカスタード氏。爆速で泳ぎ去っていく。
カスタード氏に標的が移った事に安堵の息を吐く茶髪の少年……しかし、レベッカ氏が油断大敵とばかりにバッタの如く飛びかかり、泣きながら逃げていった。
「クリームとあんこッ!!! 食わせろッ!!!」
「あああああああ!!」
「あんこ詰まってない!! 詰まってないからああ!!」
──カオスだ……というかあの、インタビュー……。
インタビュアーの呟きは誰にも拾われる事なく、熾烈な鯛焼き鬼ごっこが繰り広げられていた。
●おわりに
ベーク・シー・ドリームさんとカスタード氏は無事に逃げ遂せ、レベッカ氏は衛兵に捕まって厳重注意を受けたようです。というか通報しました。
世界を救うと言われているイレギュラーズの方を、悪の手から救えた事を誇りに思います。
──インタビュアー談。