PandoraPartyProject

SS詳細

色香と棘

登場人物一覧

彼岸会 空観(p3p007169)


 俺は行商をやっているものだ。
 拠点はラサではあるのだが、結局色々な国を歩き回るので一点の国に収まるなんてことは少ない。
 今日は幻想へとやってきた。
 思いのほか、あのイレギュラーズたちが装備を惜しげなく買ってくれたから、たんまり溜まったお金で一晩楽しんで、久しぶりの休日を謳歌しているところだ。
 ほんのり二日酔いではあるものの、それくらいが丁度良い。
 酔いを冷ますように、俺は幻想の森へと足を踏み入れた。意外とこの森は静かで、羽を伸ばすにはもってこいだ。遭難しないように気を付けながらも―――やがて、滝か、川の音が響いているのに気が付いた。
 これはちょうどいい、川なんて久しぶりに見る。まるで子供の頃に戻ったかのように、俺は音がする方向へと走り出していた。まるで、導かれるように、誘われているように。
 釣り道具を持ってくればよかっただろうか、いや、水面に足だけでもつけて遊んでおこう。再び、行商の旅へと出る前に、水の調達もしておこうか。幻想の森の水はいくらか美味しいからお気に入りなのだ。
 そうそう、ここだ。
 そうして俺は、川へと出た。
 早速、水筒の蓋をあけて川の水を入れる。近くでうろこの輝く魚が水面からはねており、水鳥たちが集まって会話をしている。
 なんて穏やかな空間だろうか。だが――なんとなく、川の水が赤黒く濁っているようにも、見えていた。
 ……そうすると。
 俺は滝のほうに人影があるのに気づいた。
 こんな所に人か――キャンプか? それとも遭難か? まあどちらでもいいのだが――なんだ、一人で楽しもうと思っていたのに残念だ。
 しかし目を凝らしてみれば、あれは裸の若い女性であった。
 しめしめと、茂みに入り込み美しい曲線を描くボディを見るために、舌を嘗めまわした。女の身体なんて執着は正直ない。だが俺だって男であるから、枯れてはいない。見れるチャンスがあるのなら、見ておきたい!
 だが……何故だ、滝から流れてくる川の水が、やはり、赤いのだ。
 あれは――――血、か?
 その時、俺の背筋に冷たいものが奔る。慌てて、水筒の水を全て地面へとぶちまけた。そこから、鉄の香りがする。やはり、あれは血なのだ――でも、一体何故?
 この怖気の正体が不明なまま、俺は眼前で小さな滝から水浴びをしている女に目が釘付けになっていた。魅了されたが如く、妖艶に身体をくねらせる肢体は美しい以外の何者でもない。
 年齢は20代そこらだろうか、若いのだが――しかしどこか大人びている。
 白い肌が太陽の光に反射して、艶やかさを持っていた。あの血さえなければ、天女の如くなのであるが――恐ろしい。
 あの白い肌に、ねっとりとこびり付いた赤黒いものは――恐らく返り血なのだろう。
 彼女が細長い手で、自分の身体のラインを確かめるようになぞっていくと、その血も徐々に川へと流れて落ちていく。まるでこれは禊だ。
 しかし当の彼女は不敵な笑みを浮かべている。何か、少女が楽しい遊びをしているときに浮かべるような笑顔だ。あの禊が楽しいとでもいうのだろうか。
 細い指が身体の胸の上を滑り、股の間の隙間に滑り込み、細かく血を落としていく。腕の付け根から指先まで手のひらが滑り、石鹸もないのになぞればなぞるほど輝きを取り戻していく。
 時折女は滝から落ちる水を、口で受け止めた。ぴちゃぴちゃとなる水音が俺の身体の芯を熱くするように誘っているのだが、しかしこの茂みから出ることはゆるされないような気がしていた。
 やがて――女は身体を洗い終えてから、特殊な色をした髪の毛へと手を伸ばし、血やぐちょぐちょしたものがくっついているのを落とし始めた。段々と元の何も穢れの無い状態へと戻っていく――本当に、俺よりも若い女に見えるのに、争いでもしてきたのだろうか――そういった妄想でさえ、俺はどこか楽しんでいた。
 何度も何度も髪の毛をかき上げ、淫らに濡れていく髪の毛。毛先から水の雫が弾けて、川へ波紋を作る。
 そして、無防備にも両の腕は頭部に注力しているのだから、首から下の身体を曝け出している。
 それは踊りを踊っているかのように、淫らなダンスのように。天女は何人たりとも自分の周囲に人を寄せ付けずに、密かな余暇を過ごしている。

 ―――その時、俺の首筋にはね虫が這った。
 驚いて声をあげてから、茂みから慌てて出てしまったのだ。
 はっとした、身体にぶつかっていたのは殺意にも似た視線だ。俺の顔が錆びれて動きにくくなった人形のように、ギギギと首が横を向いていく。そうして視線と視線がぶつかった――。
 女は、じっと俺の事を見つめてから、また妖しく笑ったのだ。

 刹那―――そこから先はブラックアウトした。

 川のせせらぎはきらきらと輝き、身体を光らせて魚がたまに水面をはねる。
 身体にこびり付いた血肉を落とすために、彼岸会 無量(p3p007169)は再び川の中へと入っていく。

  • 色香と棘完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2019年09月30日
  • ・彼岸会 空観(p3p007169

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