PandoraPartyProject

SS詳細

隠し味

登場人物一覧

佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星


「……さて」
「美咲さん、大丈夫です?」
「はい、問題ないス」
「それではレッツゴー、でして!」
 はつらつと笑うルシアに美咲は表情を変えず頷いた。
 此度の依頼は、ルシアが聞いている限りは違和感なく一つ。
 しかし美咲にとっては二つ。練達復興公社――00機関より齎された依頼を達成することも含まれている。

 今の時間は真夜中。表向きの依頼としては宝石の護衛だ。
 希少な宝石を狙った強盗が起こるだろうと予想されている。ローレット伝いによこされたその依頼は、戦闘もあまりないだろうと考えられている。
 万が一戦闘があったとしても、ルシアの超火力があれば敵なんて一発KOだ。たぶん。
 美咲はルシアのストッパーとして付き添いに来たことになっている。が、美咲の目的は宝石の護衛ではなくその敵だ。
 少々『お痛』が過ぎたため幹部を殺せとの命令なのである。実際のところ敵は別ギルドより派遣された仲間……ということになっているが、全くの嘘である。相手は上手くカバーしてくるだろう、プロだから。しかし00機関のほうが数段上手だった、相手が大変悪かったとしか言いようがない。彼女の偽物の経歴書も本物の経歴書もすでに用意してある。つまり筒抜けなのである。
(まぁ上手く偽装したもんで……化粧ってのはこうも変わるもんなんスかね……)
 メガネをくいと押し上げる。素顔も知っているので逃亡されようとも捕まえて即刻処理出来るだろう。そう信用されて組織から美咲は派遣されているのだ。喜んで良いのか悪いのか。
「あ、あの人ですかねー?」
「はい、事前にもらってる写真だとそうだと思いますね」
「すみませーん!」
 長い金糸を揺らし、てってってーと警戒心なく近付くルシア。美咲も特段の警戒はしていないが、それでもターゲットだ。不用意に近付くには少々危険なのである。
「こんにちは、今日はよろしくお願いしますでして!」
「ふふ、愛らしいお嬢さんね。こんにちは。あたしはメアリよ。確か貴方がルシアさんで、そちらは……」
「はい、佐藤です。お好きに呼んで頂ければ」
「では佐藤さんと。此度はどうぞよろしくね」
「はい、よろしくお願いしますね」
 巻いた金髪に、赤いティントをつけたいかにも仕事のできる女性らしい彼女。見目も名前もすべてが情報通りの偽名だ。
(ここまで情報通りだと、逆に怖いくらいっスね……)
 だからといって、怖がっていては何も出来ないのだけれど。
「ではいくのでして! がんばりましょー!」
「はい、行きましょう」
「ふふ」
 閉店間際のケーキ店の前で待ち合わせをしていた。店としては大迷惑だろうが、それはそれだ。
「すみません。美味しいケーキを3つ、とびきりのを」

 しばらく宝石が展示されるのだという大きめの展示館に向かう。
「メアリさんは今回どうしてこの依頼を受けられたのでして?」
 ルシアが問う。わざわざ他の外部ギルドと手を組まねばならないほどローレットは弱くもないし小さくもない。
 イレギュラーズとしての活動を行い始めたのが最近のルシアにとっては少し不思議なことだった。
「そうね……まぁ、宝石が好きだからかしら。悪い奴らに渡したくはないでしょう?」
「悪いやつらは成敗してやるのでして!」
「ふふ、そうそう、そんな感じ」
(大嘘っスね……)
 大嘘である。
 そもそも情報が正しければ(まぁ正しくないはずもないのだが)、彼女は宝石になど興味はない。こんなところに居るのが信じられないくらいだ。
(まぁ、なんというか……)
 ルシアのおかげで彼女の警戒心も薄れているのが幸いか。可愛らしい笑顔には絆されてしまうのも人間の心理というものだろう。
 いくら心を殺しているスパイと言えど、あんなにも無防備な笑顔を見てしまえば絆されない理由も無いわけで。
(……)
 メアリと名乗った女が笑う。それはそれは心から。
 談笑を楽しんでいる二人を、一歩離れて後ろから見守る美咲。
「あ、美咲さん! 早く歩きすぎでした?」
「……いえ、そんなことは。私が遅れてるだけっスよ」
「ごめんなさい、つい。貴方も此方へいらして、一緒に喋りましょうよ」
「ええ、私で良ければ」
 左手に持ったケーキが崩れないようにして、美咲は走る。
 そうだ。絆されてしまえば良いのだ。どうせ殺す必要があるなら、最期くらい幸せな気持ちをいくらかは感じたって美咲も文句は言わない。
 どうなろうと最終的には殺してしまうのだから。
「ささ、行くのでして! 今日出会ったからにはこれも縁です、もっと仲良くなりたいのでして!」


 警備にあたる、が、まぁ敵が来るまでは暇だ、
 となるとトランプやオセロなどおもちゃを持ち込みでもしなければ時間があまり手持ち無沙汰なのである。
 監視室に三人、ぼんやりと防犯カメラを見続ける。宝石の近くにはこっそりファミリアーも連れて待機させておいたので、阻害させることも出来ないだろう。
 ルシアは色々と警戒心が足りないので伝えていない。まぁ、気付くことがあればそのときは敵が侵入したときだ。
(……それに)
 美咲やルシアがいるこの状況下でどう仲間に連絡するのだろうか?
 ハイテレパスは視認している対象に意思疎通がはかれるがそれでは美咲やルシアも含まれてしまう。
 ファミリアー経由ならば可能では在るが、道中も彼女にそれらしき使い魔の気配は見られなかった。
 一人になる時間やタイミングを作らせなかったのは僥倖だろう。ルシアが積極的にメアリに話しかけていたため離れるのが難しかっただけかもしれないが。
「そういえばルシア氏」
「はい!」
「行きに買ったケーキ、悪くなってしまうと思うのでルシア氏にあげます」
「え、いいんでして?!」
「はい。自分の分もメアリさんの分も買っておいたんス、よければ一緒に」
「やったー!!」
「あら、私も? 良いのかしら」
「ええ、是非。どうせまだ時間はあるでしょうし」

 美味しいケーキを3つ、とびきりのを。
 実は、これは合図だ。ケーキに色々と薬を盛らせるための。
 三人になってからだと不審だ。よって待ち合わせを其処にしたのは、薬を不審でないタイミングで盛るためだ。
(……さて)
 申し訳ないがルシアには睡眠薬入りのケーキを渡した。
 そして。
「……お手洗いにいってもいいかしら」
「では私も。ついでに巡回もしましょうか」
「そうね」
 あまり手荒な真似はしたくなかったのだが、メアリのケーキには下剤を盛った。情けは不要だと分かっているがそれでも下剤が盛られるのは少々つらいものがあるだろう。かわいそうに。
(どうして気付かないのか……もしかして馬鹿だったりしたのか……?)
 みるみる顔が青くなるメアリ。少々同情した。まぁ、自分が仕込むように促したのだが。
 はぁ、と溜め息をつく。ルシアは今頃ぐっすりだろうか。しばらくは眠っていて貰わなければ困る。魔砲をどーんとされるのも、困る。
 不意にメアリが足を止める。美咲もワンテンポ遅れて足を止める。
 振り返ったとき、メアリは拳銃を手にしていた。

「随分舐めたことをしてくれるじゃない。もしかしてバルツァーレク派の差し金ね?」
「なるほど、演技でしたか。お身体の方は大丈夫でスかね」
「演技よ演技。それくらいはね」
「なら良かった、少々心苦しかったので。あと自分は00機関です、貴族の皆さんとはなんら関係ありませんよ」
 淡々としたやりとり。
 相変わらず美咲は笑わず、メアリは口元に笑みを讃えたままで。
「あら、そう。…でも、どうせその辺りと貴方のホームが取引をしているのでしょう?」
「そうだとしても…もう、貴方には関係のない話です」
 そうだ。メアリはどうせ死ぬ。
 彼女もそれを察したのだろう。抗う様子は見せずに。ただ気丈に拳銃だけを構えて。
「なぜあの子を連れてきたの?」
「表向きの仕事に必要だからです。彼女の『火力』を私は信用しています」
「……それじゃあ、逆になんで裏の仕事には巻き込まなかったのかしら?」
「……はぁ。邪魔だからです」
 言わずとも、解る。彼女は嘘をついている。
 メアリは笑った。
「……貴方も不器用ね」
「貴方に心配される必要は、ありませんよ」
 パァンと弾けた二発の音。
 弾けたのはひとつだけ。美咲は変わらず、立ち尽くしていた。


「ルシア氏、ルシア氏。起きてください、帰りますよ」
「はっ?!」
 口元にたれた涎を拭きながらルシアは飛び起きる。
 美咲の巧みな説明によれば、敵はすっかり捕まえてしまって、メアリは敵を突き出しに行ってきたのだとか。
 勿論それも全て嘘で、突き出したも美咲、捕まえたのも美咲。メアリは死んでいる。
「今日は現地解散ス、帰りましょう」
「はい!」
 ルシアは寝てしまったことを気に病んでいるようで、がっくりと肩を落として。
(……まぁあれ、ゾウも寝るくらい強いやつなんで、起きてたら逆にこまるんスけどね)
 てくてくと歩く夜道。だんだんと空は白み始めていた。
「次来た時もメアリさんに会えるといいのでして! お話がとても上手な方でしたし、また会いたいのでして!」
「…そうっスねー。機会があれば、会えまスよ」
「その時までにちゃんと起きていられるようにならないといけないのでして……」
「ま、少しずつ成長していけばいいんスよ」
「そうですねー……」
 白々しい嘘だ。けれどルシアは何も言わない。
 気付いているのか、気付いていないのか、それすらもわからないけれど。
 今は未だ、それでいいと、思ってしまった。

  • 隠し味完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月10日
  • ・佐藤 美咲(p3p009818
    ・ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869

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