PandoraPartyProject

SS詳細

メリー&メリー

登場人物一覧

レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
蒼剣
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

●今日は特別な
 もし、この願いが叶うなら何でもしようと思っていた。
 実際に長い時間の中、総ゆる努力を重ねてきた心算だった。
 逃げ水のような彼は何時も意地悪で、何時も捉え所が無くて。
 きっと捕まえたと思っても、すぐにするりと逃げてしまった。
 何度も、何度も傷付いて。多分、傷付けて――それでも華蓮は諦めなかった。
 世界で一番優しくて、世界で一番素敵な王子様はきっと世界で一番面倒くさい……
 ……いやいや、手強い魔王ラスボスに違いなかったけれど。

 ――愛しているのだわ、レオンさん。
   もし貴方が一生私を見てくれなくたって……

 ――そう思う?

 ――それでも、だわ。レオンさんの気持ちは分かってるけど……

 不器用なお姫様は――不器用だから。きっと、捻くれた魔王を打ち倒すだけの想いを持っていた。

 ――多分、分かってないと思うけどね。

 ――そ、そんな事ないのだわ。レオンさんは今でも――

 ――だから、分かってないって。それが、それ。

 ――ふぇ?

 ――ああ、要するにだ。簡単に言うとだな。
   ……もう本当に最悪だ。こういうの滅茶苦茶格好悪いし、主義じゃねえけど。
   言わないと本気で分からねぇみてぇだからな、この鈍感は。

 ――???

 ――俺が好きなのはオマエで。「愛してる」とか言われるとそれなりに浮かれる訳で。
   しかしね。他の子が好きなのは分かっているのだわ、とか言われると結構複雑な訳で。
   そんなに俺って信用出来ない?

 素敵なチャペル。
 純白のドレスは女の子の憧れだ。
 もっとずっと小さい頃に、絵本で読んだお姫様のラスト・シーンはハッピーエンドに決まっていた。
 最高の王子様と結ばれて、末永く幸せに暮らすのだと。
 結ぶ言葉は何時も『めでたしめでたし』だったけれど、華蓮は決まり切ったそんなお話が何よりも好きだった。
(……だって、それが一番素敵なのだわ)
 色々な価値観がある事は否定しないけれど、女の子にとって好きな人と結ばれる事は何時の時代だって特別だろう。
 今、こうしてドレスに袖を通して、その時を待つドキドキは――恐らく一生忘れられない、何にも代えられない一度切りの時間なのだ。
 一つ深呼吸をして高鳴り続ける動悸を抑える『努力』をした。
 信じられない位に幸福で、まるで地に足がついていない。
 一生に一度の晴れ舞台バージンロードを歩くのに、裾を踏んで転ぶなんてのは真っ平だったから。
 その時が来る。重く軋んだ音を立てて目の前の扉が開かれた。
「おめでとう!」
「世界一綺麗だよ!」
「――ホント、羨ましいったら!」
 歓声を上げて主役じぶんを出迎えてくれるのは何れも見知った友人達だ。
 辛い時も大変な時も一緒に戦ってきた戦友達だ。
「泣く所じゃねえだろ、まだ」
 思わず熱くなる目頭を擦ったら、すっと隣に立ったもう一人の主役が何時もの意地悪な声でそう言った。
「だって、こんなの――ずるいのだわ。嬉しくて、幸せ過ぎて……」
「クライマックスはこれからなのに?
 いや、違うな。『お姫様は幸せに暮らしました』なんてのはいい加減な『はしょり』だろう?
 これからのオマエはもっと幸せになると思うけどね」
 腕を差し出した新郎レオンの手をはにかみながらも華蓮はそっと取る。
 赤い絨毯の上を二人でゆっくりと歩き出せば、追いかけて来る素敵な祝福の声さえまるで別世界の出来事のようだった。

 ――レオン君のばか。あほ。あんぽんたん。ずるっこ! ひとでなし! 人間の冒険者の男!←ソルト

 ――レオン君ってホントに最悪よねぇ。ホントに……もう、何て言うか説明しようのない位に……←痛烈

 ――レオン殿だから仕方ないのである。でもレオン殿が幸せならそれでいいのであるな!←謎の親目線

 極一部祝福とは似て非なるノイジーもなくはないのだが、まぁ置いといて。
 教会を取り巻く空気は兎に角甘く幸福で、世界中が華蓮のハッピーエンドを肯定しているのは間違いなかった。
 例えレオンのハッピーエンドは肯定されなくても、そりゃ華蓮ちゃんがハッピーなのを否定する奴なんていねぇだろ常識的に考えて!
「新郎レオン・ドナーツ・バルトロメイ。貴方は病める時も健やかなる時も華蓮・ナーサリー・瑞稀を慈しみ、愛し続ける事を誓いますか?」
「勿論。本人が嫌がっても離さねえよ――」
「――嫌がる訳ないのだわ!」
 わざとらしい釣りに掛かった華蓮が大声を上げると目の前の神父が大きく咳払いをした。
 神父だけではない。余りにも華蓮らしい姿に観客席の友人達も堪え切れない笑みを零している。
 華蓮の顔は真っ赤になり、取り分け酷い――仕掛けたレオンは悪びれる風も無くクスクスと笑っている。
「――コホン! 今度は厳粛に!
 新婦華蓮・ナーサリー・瑞稀。病める時も健やかなる時も新郎レオン・ドナーツ・バルトロメイに愛を捧げる事を誓いますか?」
「――誓うのだわ!!!」
 力一杯の宣誓に神父が笑った。
 先程の苦笑ではなく、今度は満足そうな笑みだった。
「では、誓いの口付けを――」
 思わずごくりと息を呑んだ華蓮が傍らの顔を見上げた。
 した事があるかないかと言えば勿論あるのだけれど――慣れるか慣れないかは別物だ。
 何度したって、何度どんな時間を過ごしたって――新鮮なままのときめきは、彼女に落ち着き何て与えてくれない。
 そしてむしろそれはとてつもなく幸福な事だった。
(私は、一生分の恋をしたのだわ……)
 解けない甘い魔法を掛けられてしまったのだ。
 遠い日に、自分の顔を映すこの青い目に吸い込まれてしまったのだ。
(レオンさんはきっと知らないのだわ)
 始まりは何でもない事でしか無かったけれど。
(私がどんなにこの時間を望んで居たかなんて)
 その恋は幼く、淡いものでしか無かったのだろうけど。
(私が今、どれ位幸せかなんて――)
 今、こうして――大輪の花を咲かせた愛情は前とは違って、前にも劣らない位に瑞々しい。
「目、開けてるじゃん?」
「――――!」
 顎を持ち上げる武骨な指先に小さく震えた。
 吐息すら感じる距離で自分にだけ届くからかいの言葉に華蓮の顔は真っ赤になった。
「別にいいけど」
「――――」
 温い感触に呼吸を呑まれれば、華蓮の胸は熱くなる。
(やっぱ――やっぱり! こんな事に慣れるだなんて有り得ないのだわ!)
 嗚呼、何て温かで幸福な時間だろうか?
 カラン、カランと幸せのベルは鳴り響く。
 もっと、もっと。ずっと鳴り止まないで――そう言わんばかりに耳の奥で残響する。
 キスをした王子様とお姫様は幸福で、何時か読んだ絵本は『めでたしめでたし』だったけれど――
「しかし俺を落とすとかさあ。ま、覚悟してなよ、華蓮」
 ――華蓮・ナーサリー・瑞稀の物語はそこまで平穏無事では居られないのかも知れない……
「十分、お返ししてやるからさ」

  • メリー&メリー完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月01日
  • ・レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002
    ・華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864

PAGETOPPAGEBOTTOM