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SS詳細

姉と妹

登場人物一覧

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

●実は茄子子のせい
「まさか――こんな事になるなんて、ねぇ?」
 燃え上がるフォン・ルーベルグでアーリアは限界の戦いを続けていた。
 一人のイレギュラーズの、一人の少女の儚い恋は全ての歯車を狂わせるものだった。
 世の中には稀に居るのだ。本当の意味で『自身の為に世界を侵しても構わない』人間が。
 そしてそんな人間が可能性の獣、可能性を蒐集する特異運命座標だったとするならば――引き起こす事態が並のものになる保証はあるまい。
(……次から、次へと……!)
 白亜の都で同時多発的に上がった火の手は巧妙に内に入り込み、国そのものを壊さんとする病原菌のようなものだった。
 首謀者がイレギュラーズである以上、最早状況は混沌としており、誰が敵で誰が味方かも分からない状況だ。
 唯、間断なく続く爆音と宮殿に上がる黒煙が事態が悪辣であり、最悪である事を教えてくれていた。
「――ヒャッハー! 女だあ!」
 火炎放射器を構えた前方の敵に対応したアーリアの背後よりモヒカンの男が斧を振り上げた。
(これって――どんな世紀末なのよ!)
 口に出す暇もない反射的なツッコミにアーリアは唇を嚙み締めた。
 身を翻さんとするもタイミング的に間に合わない。幾多の戦いを超えて、ここまで来たのに。
(こんな事で、こんな所で――)
 走馬灯のように思い出すのは素敵な恋人の事。素敵で素敵じゃない上司の事。
 それから――
(そうだ。メディカは――メディカを守らないといけないのに!)
 ――どうしようもない位に行き違って、どうしようもない位に拗れて。
 大嫌いで大好きな、眠り姫いもうとの事!

 ――異変はアーリアが思わずぎゅっと目を閉じた時に訪れた。

「全く。何をしているのでしょうか――」
 聞き覚えのある――そして久し振りに聞くその声にアーリアは弾かれたように目を開けた。
 背後を取ったモヒカンの――更にその背後を取ったらしいメディカが棍棒メイスを肩に担いで呆れたような視線を投げていた。
「この姉の、本当に頼りにならない事といったら」
「――本当に可愛くない子ねぇ!」
 アーリアは思わず呟いていた。
 妹を眠りに誘った糸車は自身の手だった。
 道が分かたれたあの日から、再会して彼女を手に掛けたその時から――運命の糸は実に複雑に絡んだものだ。
「チッ、新手か!?」
「舌打ちはこちらの立場ですよ。何人倒したと思っているのですか」
「本当にねぇ。『羽衣協会に栄光あれー!』じゃないってのよ。
 大体カルト教団なんだか、世紀末集団なんだか――世界観位、ハッキリしなさいってのよ!」
 適当与太空間はこれだから困る、と苦笑したアーリアにメディカは頷いた。
 遠巻きに見ている位なら平和なのに、何かボタンが掛け違えば――世界最凶のカルト教団である。
 しかし信徒は知っているのだろうか。例の教祖様の終末思想――ストイックに恋しているだけだって事に!
「気を付けなさいよ。連中、すぐ自爆するからね!」
「手段を選ばないと言うか、命すら惜しまないと言うか……
 聖職の私が言う台詞ではありませんが、信ずる神位は選んだら如何でしょうか?」
 短い皮肉なやり取りの間にも更に現れた羽衣教徒。
 包囲せんとする敵、お互いの死角をカバーするかのように姉と妹は背中を合わせた。
 打ち合わせも無く、極自然に。不思議な位にスムーズに。
(……何だかな)
 アーリアは何とも複雑な想いだった。
 許せるかと言えば全ては一生許せまい。
 憎めるかと言えば全てを憎む事なんてきっと出来まい。
 聖教国ネメシスという愛憎半ば、混沌に混ざり合ったスープの真ん中でまさか彼女と背中を合わせて戦う事になるなんて――まるでこれは筋書き通りの舞台のようではないか。
「……突破するわよ」
「改めて言われるまでもありません」
「死ぬんじゃないわよ」
「そちらこそ――人の心配をしている場合ではないでしょう?」
 丁々発止の憎まれ口は、疲労と傷に痛む体に活力を巡らせるようだった。
 お互いがお互いを頼りに、この難局に力を増していた。
 アーリアの絡み付く魔力が搦め手が幻惑し、一方で踏み込んだメディカの嵐のような暴力が文字通りに炸裂する。
「案外、やるじゃあない」
「こっちの台詞です」
 即席のタッグは減らず口の息が合っていて――慄く敵陣を蹂躙した。
「休んでる暇は無いからね、寝坊助さん」
「朝が弱いのはそちらだったように記憶していますが――」
「――子供の頃の事でしょう!?」
「では今は弱くないと。これはドナムさんに確認する必要がありそうですね」
「――今がどうとも言っていないでしょう!?」
 姉と妹――
 きっと。嫌になる位に彼女は姉で、うんざりする位に彼女は妹だった。
 天義動乱。後の世でシェアキムハンマー事件と称される悪夢の日の結末を二人はまだ知らない。
 しかし、不思議と。アーリアは何が起ころうと、どんな困難が阻もうと。
 今日ばかりは、負ける気はしていなかった。

  • 姉と妹完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月01日
  • ・アーリア・スピリッツ(p3p004400

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