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【4月1日のおはなし】魔術紋は空を行く
登場人物一覧
これは4月1日《エイプリルフール》のおはなし。
実際には起こらないかもしれない事。
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……気が付けば、青い空の中をふわふわ浮いていた。
空を浮くようなスキルつけてたっけ? というのが最初の感想。
体をよく見ると……いや、そもそも
「え、あれ!?
……それが、この出来事におけるヨゾラの第一声。
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペンは
魂が抜けた肉体に憑依しその体を維持する『魔術紋』という術……背中から頭と四肢に伸びたタトゥーに見える、ミッドナイトブルーの紋様のような魔法陣。それがヨゾラの
今のヨゾラは、ミッドナイトブルーの紋様……本体たる『魔術紋』だけで浮いている。
背にあるはずの、星や月をあしらった魔法陣を中心に……長く伸びる鳥の翼のような紋が5本。
本来なら頭や四肢に伸びてくっついているはずの5本は、今は
自分の意思に沿って動く
「……クラゲ、みたいだなぁ」
まるで自分がそうなったような感じだ、と思いながら……
今の事態に『何でだっけ?』という疑問は浮かんだが……数秒後には「まぁいっか!」となり、気ままな散歩を楽しむことにしたのだった。
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心が赴くまま、あちらこちらへ飛んでいき……上空から眺める風景は、
飛ぶのに慣れたら、街へも降りてみた。
可愛らしい子猫達がみゃあみゃあ鳴いているのを見かけて「ねこー!」と近づいてみれば、ゆらゆら揺れる
「あああ爪が痛い牙が甘噛み! でも子猫可愛い嬉しい、もっとかまってー!」
猫大好きな
目も肌もないのに視覚をはじめとする五感(痛覚も)が正常に作動している、という事実に気付いたが。
その後、他の猫に近づいた時に、ふー、しゃー! と威嚇されて逃げられた時の悲しみに比べれば些細なものであった。
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いつしか日が暮れ、日が沈む。
「晴れてて良かった……星空がこんなに綺麗に見える!」
召喚より前、元の世界で……体の元の持ち主である貴族の青年、『彼』の屋敷の隠し部屋に辿り着いた日の記憶にも、綺麗な夜空があった。
身体を捨て、魂だけでどこかへ去った……会う事もなかった『彼』が残した手紙にあった、読めない不思議な東洋の字。『ヨゾラ』と読むその文字は、窓から見えた輝きと美しさを持つ夜の空を指す言葉で。
だから、名無しの魔術紋は……混沌に召喚された後、自分にその名を付けたのだ。
夜の空、輝く憧れに……
「すごい……
憧れは遥か彼方。地上から手を伸ばしても届かない天空の輝き。
それでも
夜空へ、高みへ……星空のかなたへ。
星空は遠く、高く……そして広い。
星空と同じ位に輝く
『願望器志望の魔術紋』でもある彼は……星空の彼方から広い
星を流せば、きっと誰かが願うだろう。
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星空を魔術紋が覆った夜、遥か下の地上。
草原にひとりの人間が寝転がっている。
銀の髪に中性的な容姿、綺麗な衣服に身を包み、伊達眼鏡をした若き男。
沢山の猫達に囲まれ、乗られ踏まれつつかれる。
しかし、その男は僅かたりとも動かない。……呼吸も、していない。
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン。
そう呼ばれた
ひとりの
しかし……二度と目を覚まさない彼の、最期の顔は。
閉じた眼も穏やかに、願いを叶えて幸せだと言わんばかりの……満足そうな笑顔を浮かべていた。