SS詳細
星を救うは絆の力
登場人物一覧
――時は宇宙世紀20XX年。
自立型ロボット達の助力によって豊かになっていたはずのこの星は、今まさに危機を迎えていた。
宇宙の果て、人々の知る由のない暗黒広がる世界より飛来した侵略者達。
『ヴェルム』という異界の脅威達の手によって、星の生命が徐々にすり減らされていった。
ヴェルムの目的は宇宙の支配。
宇宙に存在する全ての星を支配し、絶対的な王者となるために侵略行為を続けている。
人々を支えていた豊かな畑は全てやせ細り、暖かな太陽光を受けていた大地も寒々しい荒野へと成り果て。
営みを支え続けてきた水もヴェルムの手によって穢され、安らかに生きていたはずの動物達もヴェルムに支配されて凶暴化してしまい……。
あまつさえ、ヴェルムは人を支配しようと『牧場』と称した屠殺施設を作り出す。
嗚呼、この星はもうヴェルムの侵略によって朽ち果てるしか、ないのだろうか……。
●
――とある街では過去、勇者の伝説が語られていた。
星を覆うほどの脅威現れし時、遥か古より伝えられし星の戦士が星の巫女の呼びかけによって目覚める……というのが街に伝えられている伝承。
巫女と戦士は互いに心から信頼し合う存在であり、数多の侵略者達を星から退けてきたそうだ。故にこの街では『勇者』と呼ばれていた。
だが、この伝説はもう遠い昔のこと。既に巫女の血縁は街には存在しておらず、生きているかも不明。
星の戦士が眠る場所も一部の人々ならば知っていたそうだが、ヴェルムによって殺されてしまったという。
リサ・ディーラングはこの伝説を紐解いて、なんとしてでも星を救おうと立ち上がったのは良いものの……情報の少なさに打ちひしがれていた。
街に到達してから数日、何度も何度も外に出向いては色んな場所を探してみたが……その場所は見つからなかった。
「今日も収穫はなし、と……」
大きくため息をついたリサは、ひとまず体力を取り戻すために朽ちたソファに横たわる。
今はもう綺麗なソファは何処にもないので、汚れたソファで我慢しなければならない。
『勇者』『星の巫女』『星の戦士』とはなんなのか。
それが頭の中でぐるぐると渦巻く中、ゆっくりと休もうと眠りについた……はずだった。
「■■■■――!!」
「っ!?」
突如聞こえてきたのは侵略者ヴェルムの声。異形の侵略者達の言葉は一切理解が出来ない。
金切り声のような、ノイズ音のような、意味不明な音がリサの耳に届けられた。
姿を見せないようにヴェルムの様子を伺うリサの目に飛び込んできたのは、『家畜』を捕まえに来た『牧場主』の姿。
街に残った人々はヴェルムの持つ伸びる腕に捕まり、連れて行かれた。このまま何もしなければ彼らは殺されてしまうことだろう。
……動かなければ。
自然とリサの身体はヴェルムの視界を外れるように動き、外へと出向く。
何処へ向かえば良いのかなんて、今の時点ではわからなかった。ヴェルムがリサを見つけ、追いかけようとするまでは。
『……聞こえるか、巫女よ……』
「っ!?」
突如聞こえてきた声に驚きを隠せないリサ。自分を巫女と称していることから、声の主がなんとなく『星の戦士』ではないかと考えていた。
いくらかのやり取りを行ったが、ヴェルムに追われる今はそれどころではない。焦りと緊張が言葉にも出ているのか、戦士は己の居場所を言い残してくれた。
『……西だ。西へ走るが良い……その場所にて、お前を待つ』
「えっ、待って! あなたはいったい!?」
星の戦士と呼ばれる者の正体を探ろうと言葉荒くなるも、声の主の答えは帰ってこない。ヴェルムに追われている彼女を助けるために、僅かな糸を繋げてきてくれたのだろう、眠りについたように反応がなくなった。
必ず辿り着かねばと、リサは街の壁や屋根を伝ってヴェルムの視野から逃れた。声が聞こえていた瞬間から街の西入口を目指していたため、彼女はすぐに街を脱出することに。
●
それから数十分後、リサは西へと走り続け洞窟を発見する。僅かな期待を胸に彼女は奥へ奥へと入り込んでいった。
隠している眼もその冷たさを実感するほどの空気に、少しだけぞわりとした感覚が張り付く。
だが、リサは確信した。これだけの冷気を発しているということは、この先には何かがあるに違いないと。
「先へ近づけさせないようにしている? うぅん、俄然気になるっす」
前を進む度に白を貴重としたパイロットスーツが深い暗闇の中へ染み込んでいく。
途中で懐中電灯を取り出して周囲を照らしながら進んでいたのだが、歩いていくうちに彼女は気づく。ゴツゴツした岩肌が人の手の入った構造物のように滑らかな壁になっていることに。
当たりだ。
そう感じた次の瞬間、目の前がざあ、と光の波で溢れてくる。
まるでリサの帰還を祝うような光の波は彼女を導くように最奥への道を作り出していた。
この先に行けば、何が起こるかわからないというのに……リサの心は恐怖を微塵に感じていない。むしろ、向かわなくてはならないという気持ちが沸き上がっていた。
そして、リサはそれを目撃する。
横たわる赤と黒を基調とした龍のようなロボット。メカニックであるリサが見ても、そのロボの装備はオーバーテクノロジー満載の超上級品だとわかる。
これが何故ここに存在するのかまでは理解が及ばなかったが、リサが近づいた瞬間、ロボットに光が灯され声が聞こえてきた。頭に響いてきた声と全く同じ音が。
『巫女よ、よくぞ戻ってきた』
「……やっぱり、私がそうなんっすね?」
ロボット――名をウォリアと称する戦士はヴェルムの侵攻が始まった時から、ずっと巫女の血筋を持つリサを待っていたという。
既にヴェルムは通常の戦闘用ロボを使用しても勝てないほどの戦力を兼ね備えており、もはや一刻の猶予はない。今すぐに星の巫女と星の戦士の絆で起動する力を発揮させなくては、この星に未来はないそうだ。
「突然過ぎてなんかわけがわからない、けど……何故だろう。あなたのことは、信頼出来るっすね」
『奇遇だな。我々が出会うのは……これが、初めてだと言うのに』
ウォリアにとっては長らく待ちわびた巫女の血筋。
リサにとっては新たに出会った戦士の姿。
どちらも初めてだと言うのに、お互いが信頼できる。それは過去に『勇者』として立ち上がった者達の絆が、2人を呼び寄せたからなのだろう。
――そして、その絆は今再び結ばれる。
●
街は既にヴェルムの基地となってしまい、人々の姿はない。
占領が終わり、残るは他の土地への侵略なのだが……それを許さないのは、この星を守るために立ち上がった勇者達!
コクピットに乗り込んだリサは操縦桿を握りしめ、ロケットエンジンによって空を飛んだウォリアに向けて、眼下に広がるヴェルムの大群を見せつける。
大地を這いずる手足のない虫のような侵略者達はウォリアの存在を視認するや否や、街中に定着させた機関砲などの装備を素早く展開させ、彼を撃ち落とそうと連続攻撃を叩き込んできた!
「ウォリアさん、いくっすよ!」
『……承知した。装備の権限は……すべてリサに任せよう』
「OKっす! ならば、まずはショルダーキャノン展開!」
装置に命令を下せばウォリアの肩が開き、いくつものキャノン砲が開かれる。やや低仰角な筒先をヴェルム達に向けるために角度を下げ、砲撃を撃ち落としながら一斉に地上を粉砕。特殊金属を用いているウォリアの砲弾はヴェルム達の砲撃を砕いても速度が落ちず、そのままの勢いを持ってヴェルム達の身体を木っ端微塵に砕く。悲鳴を上げる間もなく、一瞬で。
「■■■■――!!」
一部のヴェルムは砲撃の前にウォリアのようなロボットに乗り込み撃退しようとするが、大きさも出力も乏しい彼らの機体では絆の力を得たウォリアに叶うはずもない。
キャノン砲による爆撃が終わると同時、腰に携えたビームサーベルがウォリアの両手に握られる。ビームの出力を最大限に高めた刃はヴェルムの機体を一撃で切り落とし、空中分解による爆破で粉々に砕いていった。
やがて街にいた全てのヴェルムは倒され、街を取り戻すことに成功。
次はまた別の場所でヴェルムを倒さなくては……そう考えたリサの耳に、ウォリアの緊急信号が届けられた。
『リサ……どうやら相手は我々の存在に感づいたようだ』
「そうみたいっすね。……大ボスの登場って感じっすね」
空を見上げれば、そこにあるのは円盤――のような宇宙船。ヴェルムが侵略に使用しているコロニーだ。
勇者の存在を知った彼らは、侵略の妨げになる前に一気に潰してしまおうと全ての砲台をウォリアに向けて射出を開始する。キャノン砲からビーム砲、挙げ句にはビットを射出しての追撃まで行われた。
『さて……どう動く?』
「決まってるっす。私達の絆の力は、こんなもんじゃないっすよ!!」
ウォリアの問いかけに対し、リサは大きく吠える。彼女の言葉通り、ウォリアにはまだまだ搭載された装備が残されているため、相手が全てを出し切るというのなら此方も全てを出し切ろうと、操縦桿が握りしめられた。
全着弾数秒前、リサの命令によって展開される巨大なビームシールド。キャノン砲の一撃を削り、ビーム砲の出力を堰き止め、ビットの一撃を打ち破り完全に防御。そこから更に出力の角度を変え、まるで大太刀のようなサーベルを作り出して一気にコロニーとの距離を詰める。
追撃の砲撃が来たとしても、胸部の砲台から発射される
「この星の未来は、絶対に閉ざさせはしない!」
『我ら星の勇者、混沌を開き秩序をもたらさん!』
遥か古より蘇りし星の戦士は紡がれゆく者の系譜によって、再び星を救う。
異星の脅威ヴェルム。その存在を討ち滅ぼすことで。
おまけSS『敵について』
ヴェルム[verme]とは、ポルトガル語で芋虫、あるいは足のない虫のこと。
英語で言う「ワーム」と同じ存在。
何処かの星で生まれた彼らは宇宙的な物質を受けた影響で知性を持つまでに進化、人並みの大きさになって知識を吸収し始める。
そのうち、「あ、ちょっと全宇宙欲しくなった」という理由で侵略を開始。
虫なので人の言葉を理解できても、言葉を発するまでには進化することが出来なかったため、理解不明な言語を用いる。
ローブで人の姿の形をとったりする者や、芋虫の形そのままを取る者もいる。
銃撃戦や砲撃戦という知識を得てからはコロニーに装備を整えさせて戦うほど大好きに。
――これは、人々が気にも留めない虫達によるちょっとした反逆のお話。