SS詳細
『ガイアードの疑問手』ポロニアス
登場人物一覧
- 散々・未散の関係者
→ イラスト
名前:『ガイアードの疑問手』ポロニアス
種族:傲慢の魔種
一人称:鼠鳥(ねずみとり)
二人称:お前、君、其方、汝(放埓に使い分け)
年齢:不明(外見年齢は10代半ば~後半)
口調:~だ、~だね
特徴:斑紅化粧の灰色羽、紅梅も枯れる絹糸の髪、星絶えし銀河の王冠は死の海を呑み、蝶枝爛漫の緑衣棚引く
『悪意のスフマート』
其の魔種が何時、どの様に発生したのかは解らない。出自は謎に包まれている。
種族が魔種である事は間違いないが、元の種族は不明である。飛行種だったのかもしれないし、精霊種だった可能性もある。
ある一点の時間から其の存在は混沌の歴史に刻まれていた。
――『ガイアードの疑問手』ポロニアスは哲学を持っている。非常に気紛れであり、芸術を愛し、遊戯を好み、傲慢に死を望む。
「鼠鳥に狂え。其れは美しい」
傲慢な狂気は迷わない。強き芯を持っている者は美しく、人の心に狂気を呼ぶ。
鼠鳥は謳う。
天と地のあいだに虚無がある。
大地に人を閉じ込める其れは傲慢なる世界のルール。
人よ、手を翳せ。そらを見よ。
天に飛翔する我を想え。
地上が遠くなる目に箱庭の世界が映るだろう。
聲持つ者は想いを吐け。
其は魂の響きである。偽る事無く己を晒し、響かせよ。
腕が動く者は心臓を掲げよ。脈打つ血潮が黒く変じて冷える儚さは芸術である。
筆執る者は描くがよい。天の視座に巧拙は無い。余白なく塗り潰し重ねた厚みこそ永遠なれ。
「人は人を感ずる。肉体の枷は精神を向上させる。ならば友よ、鼠鳥に狂い、世の関節が外れる季節に喝采せん」
ポロニアスは箱庭の戦場を遊戯盤と見做し、自陣をガイアードと呼ぶ。其の理由は解らない。ポロニアスも、語るつもりはないようだ。
――邂逅は偶然の現象によく似ている。
――ポロニアスは哲学を持っている。非常に傲慢であり、他者の理解を欲さない。
散々・未散との関係:
雨の日、空と大地のあわいで2人はすれ違った。
未散が感じたのは、湿った土の匂いとムスクミモザの香り。鼠鳥は未散に微笑んで、綺麗だねと言って傘を差し出した。
紫陽花が咲く模様の清楚な傘だった。
遠くでは、黒い炎が燃えていた。火災に人々がどよめいて、慌ただしく駆け回る中、2人は分かれた。
短い邂逅だった。
未散は名も知らぬその人の事を覚えていてもよいし、忘れていてもよい。
ポロニアスが未散の事をその後覚えているかどうかは、不明である。
おまけSS『紫陽花露命、黒風白雨楽師となりて傲慢狂気を導かん』
雨粒のように去る。
其れは流れて留まらない。柔らかく形を変えて、放埓に消えて染みていく。
音のない砂絵は手のひらに優しい。
その在り様にふれれば愛しさを覚えれど、畢竟一瞬の感傷でしかない。
狂気は優しさである。
正気の世界は辛かろう、痛かろう。――寂しかろう。
人の子は露命等しく、珈琲色に朝を待つ闇の底は白い。
腐った苹果のように脈打つ血が流れたならば、黒風白雨楽師となりて狂気を謳わん。
「雨、止まないかな」
呟く画生が髪を拭い、アトリエに戻ってぎくりとした。見知らぬ人物が其処にいたのだ。
「あ――」
自分の絵をじっと見ている。
視ている。
その眼差しは、靜かだった。
「こんにちは。えと、はじめまして。貴方は――貴女は?」
彼は、その人が男性なのか女性なのかわからなかった。けれど、美しい人だと思った。
その瞳が彼を振り返ると、どきりと心臓が鼓動を打った。
感性が優れた人に違いない。そんな気配が感じられた。不思議な事に、胸が、全身が、そう思ったのだ。
「素敵な絵だね」
その人の聲が絵を褒めた。
素敵だと言ってくれた。
「あ、あ、ありがと――ありがとう、ございます」
「1+1は?」
ふと、脈絡のない問いが投げられた。
「え? 2。じゃ、ないかな?」
その人は、ふわっと微笑した。とても愛らしく、とても温かく、けれどなんだか遠い世界の人みたいで、切なくなった。
「そう。2だね」
楽しそうに笑ってくれたから、彼は嬉しくなった。ああ、この人と親しくなりたい。
「なぜ、そんなわかり切ったことをきくんです」
そっと問いかける。じゃれるみたいに。遊ぶように。
胸に楚々とした仕草で手が置かれて、ドキドキした。好い香りがする――この見慣れた空間がいつもの数倍、特別で素敵な場所に思えた。ぽたり、ほたり、雨音さえも彼の喜びを祝うよう。
「どうしてかな」
その人はふ、と息を吐いた。何かに落胆したようで、けれどそれも仕方ないよねと優しく諦念を抱きしめて、傲慢に突き放すような瞳が――生まれて初めて視る絶景みたいで、飛び上がりそうなほど気持ちよかった。
――