SS詳細
チャロロ・コレシピ・アシタの成長デッキセット
登場人物一覧
サイボーグ
機械と『人』との中『間』の存在という意味での『ニンゲン』
―詠み人知らず―
片目に手を当てて景色を見る。半分の視界で見慣れた自分の部屋を見渡すチャロロ。
とある事件により瀕死に陥った彼はサイボーグとなって一命をとりとめた。ほとんどが魔動機に変わってしまっている身体だが、片目は数少ない生身の部分のひとつである。
魔動機を介さない景色。生身だけで見る部屋。
「……オイラはヒトなのかな?」
命を救うにはこうするしかなかったと言っていた。もちろん、救ってもらえたことはどれだけ感謝してもしたりない。
今度は逆の目だけで景色を見る。
「……それとも機械なのかな?」
どれだけ強い体を得ても、心まではそう簡単に頑丈にはなってくれない。この身体を得てからの悩みをつぶやく。
景色は何も変わらなかった。
鉄壁の魔動機
そいつに棍棒を振り下ろすとな見事にひしゃげるんだよ。棍棒が
―フルーツ盗賊団、ココナッツ棍棒の使いの一言―
「行って来い! お前らがやられてる間なら流石に隙ができるだろ! いってこぉい!」
「くっそぉ!」
付近に盗賊が出たという話を聞いてそれを退治に来たチャロロ。他の盗賊の部隊は別の人が引き受けている。チャロロの役目はこれ以上盗賊を進ませない事である。
多かった盗賊はすでに減りに減らされており、残りは片手で足りる程度しか残っていない。
「誰も通さないぞっ!」
炎を思わせる色合いの鎧に包まれた戦闘形態のチャロロに盗賊たちが襲い掛かる。
あるものは手にしたナイフを思いっきり――刃こぼれさせ。
あるものは手にしたソードを全力で振り下ろし――根元から折り。
ほぼ無傷のチャロロが盾を構えたまま立っている。獲物が壊れ、得意技を受け止められた盗賊たちは茫然としている。
「隙を見せたなぁ! くらえぃ!!!」
盗賊たちに命令を出していた男がいつの間にかチャロロの横に棍棒を構え振りかぶっている。棍棒はぐしゃりと音を立ててチャロロの背中を捉える。
ぽたぽたと……割れたココナッツから中身が漏れ出しており、チャロロの鎧を汚している。2人の目と目が合う。盗賊が苦笑いをして棍棒から手を離して逃げようとしたがその瞬間チャロロが動く。
「……食べ物を粗末にするなぁ!」
剣の腹で思いっきりレジストクラッシュを決めると男はあっけなく倒れてしまう。司令塔の失った盗賊たちは大人しくなるのであった。
魔動機仕掛けの好奇心
我思う、故に我あり
―デカルト―
仕事を終えるとヒトの姿に戻って街の散策。その散策中に古本屋が目に留まる。
しっかりと種類別に分けられ棚に収められたたくさんの本。宝の山がチャロロの前に拡がっている。
狭いお店だったが少し進んでは本が気になり、手に取り開くを繰り返しているだけでかなりの時間が経っていた。
さぁ、次は強そうな名前の人がかいた本をと手を伸ばしたところで視線に気が付き周りを見渡す。
「えほんっ」
「わっあっ……ごめんなさいっ!」
立ち読みを店主さんにたしなめられてしまい、少し焦りながら会計を済ませ古本屋をあとにする。また来るために場所をしっかりと覚えてから帰路についた。
心ある魔動機
「俺は脳と脊髄以外全部機械にしちまったけどよ、それでも残ってるもんは沢山あるんだ」
―たぶんSF小説より―
部屋に戻ったチャロロは買った本を早速読んでいた。
今読んでるのはSFの本。ひょっとした偉人伝なのかもしれない。
その中の登場人物にサイボーグがいた。自分以上に生身の少ない彼は自分をなんだと思っているんだろう? 読み進めればきっと答えがわかるかもしれないといつも以上のペースで読み進めていく。
『喜怒哀楽の感情、生身だったころから積み重ねてきた記憶――もし脳の中身データ化したってきっとなくならないだろうな。どこまでいってもヒトはヒト、完全な機械になんてなれやしない』
彼は言った。この先、脊髄がなくなろうと脳がなくなろうと自分はヒトだと言いきった。積み重ねてきた思い出、感情がそれを証明する。
「そっか……それならオイラだって」
苦しんだ悩みすら自分がヒトだと証明するもの。少年の心は少しだが体に見合う頑丈さを手に入れたようだ。
炎の勇者
誰よりも熱いヒトの魂を持つ勇者
がきぃんっ!
金属と金属がぶつかり合う音。この音が手と剣がぶつかりあって出た音とは誰も思わないだろう。
「いいじゃねぇか。ロボット風情が熱いものもってるじゃねぇの。それとも俺のじゃ怪我しねぇとでも思ったか?」
チャロロにとって避けようと思えば避けられた盗賊からの一撃。避けなかったのは救助した人質がいるからだ。
がいんっがいんっがいんっ!
連続で繰り出される剣戟を全て受け止めきってから人質を担いで距離をとる。少し離れた盗賊からも分かるいい笑顔でチャロロは答える。
「オイラは人間だよ、身体はちょっと特別製だけどね!」