PandoraPartyProject

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聖職者が信ずるは神であり霊は違うのでつまりだれかたすけて

登場人物一覧

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの関係者
→ イラスト
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの関係者
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 クラースナヤ・ズヴェズダー……その名は、鉄帝に存在せしある教派の事である。
 鉄帝は身体が強靭であり武に優れた者が多い国家だが、故にこそ生まれ持った才覚が無い者は軽視される傾向も存在している。知に優れようと芸に優れようと……やはり力こそが至上であると。
 故にかの教派は身分や生活水準の平等を掲げて、鉄帝全ての者が豊かに暮らせる国家体制を目指して活動しているのである――
「――マカール。スチールグラードまでは後どれぐらいだろうか?」
 そして今この時も。かの教派の司教の一人たるアナスタシアは鉄帝の地を渡り歩いていた。目指す先は首都スチールグラード。実は数日後に教派の大きな式典が開かれる予定なのである。
 当然、教派に席を置く彼女もまた出席の為に移動している訳であり。
「そうですなぁまぁ明日……ゆっくり行っても明後日にはって所ですなぁ。
 式典には十分間に合うでしょう。今夜はこの屋敷でゆっくりしていきましょうや」
「しかし管理されていない所だからと宿代もいらないとは……
 まぁ多少埃を片す必要はありましたが、助かりましたわね司教様」
 そして同胞たるマカール司教そして――ヴァレーリヤも共にいた。
 ここは首都から少し距離のある村の一角である。日が暮れ始めた故、宿を取ろうと訪れたはいいが……村にはその肝心の宿が無く。ただ今はもう使われていない古い屋敷はあり。そこで良ければ自由にと案内され三人はここで休息を取っている訳である。
 そうしていれば日は完全に落ちて辺りは闇。
 少し遅めの夕食を取りつつ、今日の疲れはここで一息――とばかりにくつろいでいれば。
「あーそういやですな、酒場の方でちと噂話を小耳に挟んだんですが……『出る』そうですぜ、ここ」
「出るって、何がだ?」
「そりゃもうあれですわ」
 マカールは言う。酒の入ったグラスを一気に傾けて。
「――『幽霊』ですよ」
 頬をアルコールでほんのり赤くしたマカールは語り始める。
 そもそもこの屋敷はなんなのか? 埃被ってこそいたものの、村の規模にしては随分と立派な屋敷で、なぜ家主がいないのならば誰も住まいとして手を出していないのか。
 その理由は元々の持ち主が『自殺』したからだという。
「なんでも前の持ち主はそれなりの商人だったらしいんですがね……ある日商売に破産した末に自殺を遂げて、それからは成仏しきれない無念の霊が出るのだと……実際に目撃証言もあるらしいですぜ」
 またもグラスに注いだ酒を一気に喉へ。
 そうして勢いよく、テーブルにグラスを叩き付ければ。

「夜な夜なこの屋敷の廊下を歩く――商人の霊を見たって証言がねッ!」

 両腕を広げ、大げさな程の様子でマカールは『出る』のだと力説する。怪談というのはある程度話の内容に差異はあれど、どの地域にも存在しているモノだ。幽霊がいる。化けて出る。呪いのなんたらがある……
 これもその一種だろう。内容としては特に珍しい事はない――
「くだらんなマカール」
 故にか、まず一蹴したのはアナスタシアだ。
 隣に座るヴァレーリヤと共に、呆れ果てるかのように首を振って。
「聖職者ともあろう者が幽霊話に恐れをなしているのか? これだからパンツを崇拝するカスは……」
「貴方やはり脳髄をパンツ繊維に侵食されているのでは? 前お勧めした病院には行かれました? 脳外科じゃありませんよ――パンツ専門病院の事です」
「ちょっと待って。いくら何でもそこまで言う事なくない?」
 ていうかパンツ専門病院ってなんだよ!? とマカールはのたまうが、無視だ無視。マカールは昔はそうでもなかったのに、最近は他国の情報屋とやらに――正確にはその情報屋が貰っているというパンツに御執心な病人である。
 教派への信仰心というか忠誠心というかそういうの無いのかお前。誇りはないのか。パンツってなんだよ。正直マカールの事は見下げ果てている二人であり、こういうぞんざいな扱いと調子はいつもの事――
 なのだが。
「……」
「……」
 二人して水を飲みながら薄目で横を。視線を交わし、意図を交わす。

 ――司教様、このお屋敷に危険がないか見てきて下さいまし。
 ――馬鹿言うなお前が見に行け。私は式典に欠けてはならない人間なのだ。

 決して言葉には出さず、しかし長年の付き合いから意思の疎通はバッチリである、そう。

 ――司教様司教様、ご安心を。
 司教様に何かあっても私が滞りなく後を継ぎますので。ご存分に散ってください……!
 ――勝手に殺すなバカ……!

 この二人、互いに幽霊だけは苦手なのである――ッ!
 生きている人間ならば対話も出来よう。駄目なら殴り飛ばせば勝ちだし、駄目じゃなくても隙を突いて殴り飛ばせば私達の勝ちなので問題ない。が、幽霊は駄目だ。殴れないし締め落とせない。筋力で解決する相手ではないのだ……! おのれ物理無効なんて卑怯だぞ!
 マカールの見えない範囲、机の下で互いの足元を猛烈に蹴りながら、はよ行けとバトンを渡し続ける。当然キリがない……ので。
「マカール――見回りだ!」
 立ち上がり言い放つアナスタシア。思わずマカールは酒を吹いて。
「ええ、突然なに、どういう?」
「突然ではありません! 考えてみてください――分かりませんか、この馬鹿!?」
「マジで何が当然どうしたッ!? なんで今罵倒されたの俺ェ!?」
 続くヴァレーリヤの言。焦って一番重要な所を飛ばしてしまったが……つまり。
 彼女らはマカールと一緒に見に行けばいいのだという結論に到達したのでる。
 片方だけが付いていく……それは無しだ。部屋に残った側に幽霊が来た場合詰んでしまう。ここは二人共、いや二人+生贄一人で探索し、いざとなれば生贄のマカールを幽霊に差し出すのが最上である。マカールに人権はない。
「はぁ、つまり泥棒がいないか確認の為に見回りを……いやいや大丈夫だろ。こんな小さな村だぜ? 確かに確認した訳じゃあねぇけどさぁ……分かったよ! そんなゴミを見るような眼で俺を見るな! 結構キツイんだぞそういう目!」
 三十代後半、この中では最年長のマカールであるが年下からの軽蔑視線は本当キツイ。しぶしぶ手にランプを持って部屋を出る事とする。先も述べたが既に日は暮れており、光源無しでは深い暗闇が広がる様になっていた。
 前方を照らせば分かる、古ぼけている屋敷の壁に床。
 成程確かにこれは事実はともあれ雰囲気としては『出そう』なソレであり――
「……なあ、お二人さん。そうやって引っ付かれるとすっげー歩き難いんだけど」
「この陣形が最も効率的だと私が判断したのだ。つべこべ文句をいうんじゃない」
「そうですわ――両手に花! これの何がご不満なので!?」
 しかしこれらの雰囲気に一層怖がったアナスタシアとヴァレーリヤは生贄を盾にするような形で彼の背後に。超至近距離かつ牛歩速度である。マカールが動き辛いと言うも、知らぬ存ぜぬこれが最善と強がる二人。ちなみに彼をいつでも突き飛ばせる陣形でもある。
 ともあれ少しずつ進み続ける三人は屋敷を巡っていく。
 一つの部屋を一つの廊下を。角を曲がって向こうを伺い、何もなければ前進して――
 おっと床が軋んだ。

「うわあああァァアアア――ッ!!?」

 直後。神経を張り詰めていたアナスタシアがマカールの首を締め上げた。
 別に悪意あっての事でなくそれは肉体の反射というか精神の反射というか……
「アアア――!! 待て! 締まってる、締まってるから落ち着けェ――!!」
 とりあえず死にそうになってるマカール。人間、呼吸が出来なきゃ死んじゃうのである。
 亡霊がいないか見に来た先で自分が亡霊になるなど洒落にならず。
「はぁ、ハァ……! 全く、勘弁してくださいよ……ミイラ取りがミイラになる……」
「う、うむ。流石に今のは悪かった。お前の命はもっと有効的に使わねばならんというのに」
「ははは。全く、今の音だけで驚かれるとは司教様もまだ精進が足りないのでは――」
 一瞬早くアナスタシアの絶叫が響いたので自分の絶叫が喉奥に引っ込んだヴァレーリヤは笑って誤魔化し、前を向いて。
 おっとそこに悪魔の様な造形彫像が。

「きゃあああァァ、ァアアア――ッ!!?」
「待てそれはただの像だから止めアアア――ッ!!」

 思わず超即反転したヴァレーリヤの拳が偶々マカールの腹へと吸い込まれた。
 今の一撃は世界を狙える――という程完璧に入ったボディブローは先程飲んでいた酒が逆流しそうな勢いであった。完全にくの字で倒れ伏すマカールが思うは、なんで生身の方じゃなくて金属の腕の方でわざわざかましてくるん?
「あ、ああ! マカール、申し訳ない! 貴方の命をこんな所で使い果たしてしまうなんて……!」
 なんとなーく思うのだが、この二人微妙に謝ってないニュアンスな気がするのは気のせいか?
 いやしかし人は信じるべきだ。例え普段の扱いがどうであろうと、聖職者の身として。
「い……いや……いいのさ。誰しも間違いはあるもんだ。気にしねェでくんな」
 立ち上がる。ここは紳士であるべきだ。彼女達が多分、多分ちゃんと謝っているのなら。
 自らはそれをそのまま受け入れるべきだと思考して。
「パンツを崇拝して神の名を汚すゴミクズかと思ったら、存外心が広いではないか。
 見直したぞ、2ミリぐらいな」
「私の中での貴方の序列も、腐った生ゴミから出荷前の養豚場の豚くらいには昇進しましたわよ。良かったですわねマカール! 正直これより下の表現の案もいくつかあったのですが!」
「何で俺、お前らに迷惑掛けられてるのに、こんなボロクソにけなされないといけないの?」
 やっぱこの二人、世界有数の邪悪なのでは? マカールは疑念を抱くが、まぁ世界にとっては些事である! ともあれその後も――まぁ――うん――トラブルは無かった。ここにはそう表現しておくとして。巡回もなんとかもう少しで終わろうか。
 牛歩で往くドキドキワクワク屋敷ツアーとは言え、流石に何時間と掛かる事はなく。
「この先辺りが、最後ですかね……?」
 恐る恐る。マカール生贄陣形の奥からヴァレーリヤは最後の廊下を覗いていた。
 今まで巡ってきた場所よりも一層暗い気がする。空気が淀み、風もなく。重圧なる霊魂の気配が奥で鎮座している気がする……なお地の文で保証するが、全部気のせいである。
「よし、往くぞマカール。ここを攻略すれば後は一刻も早く脱出するのみ!」
「何混乱して野宿する気満々なんです? 本末転倒で……んっ?」
 瞬間。光を前方に照らしたマカールが気付いた。
 なんだ? 『何か』いるぞ。だがそれは幽霊だとかそういうモノではない、これは。
「どうしたんですかマカール、早く――」
 急かすヴァレーリヤだったが、それと『何か』が動いたのはほぼ同時だった。
 照らされ発生するは甲高い鳴き声。何かが飛び立つ複数の羽音――!

 そう、大量の――コウモリである!!

「キキキッ――!!」
「アアアアアあああああ――ッ!!?」
 床の軋みなどとは比較にならぬ騒音が二人の耳から脳をパニックへ至らせた。
 背筋を走る悪寒が全ての思考を放棄。ブン投げた先に残ったは『逃げろ』の指令。
 マカールと引っ付いたままの体勢から外へと向かって一目散!!
「ギャアァァァァ!? 待て待て待てあんたら、もうワザとやってるだろ!?
 やめろ! やめ、まずいって!! そっちは窓ぉぉぉ――」
 見えたは窓。静止の言葉なんて生死の前には聞こえない! 駄洒落じゃないです。
 直後、発生したは硝子の割れる音。男性一名、女性二名の轟くような悲鳴複数。闇夜に木霊し。
「これ以上は落ちるって! 落ちたら死んじゃうって! 押すなぁああ――!!
 誰か――!! 助けてェー、殺されるゥー!! ヘルプミ――!! 神様ぁあああ!!」
 村に向かって叫ぶのだが、こんな時間。幽霊屋敷から聞こえるなんぞやへの反応など恐怖一色。


 翌朝になってようやく向かった村人の話によると。

「ええ、屋敷は荒れて……旅の御方達の姿はありませんでした……」
「幽霊にやられたんだ! 血痕が残ってて、窓から脱出しようとした跡が!」

 ――かくして、このお屋敷は後に。
 『本当に出る』スポットとして、その筋で有名になったのであった――

 なお三人はこの後、式典には到着した。
 ただ色んな意味で『無事』だったのかは――三人のみぞ知る所である……!

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