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モブから見たグレイル・テンペスタ
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回は癒しのオーラを放つ人狼、グレイル・テンペスタさんについて密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はグレイルさんに詳しいという方にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●トリマー・アゾンの話
アゾン氏はブルーブラッド専門の美容師である。
聞くところによると、グレイルさんのカットも担当したこともあるという。
──こんにちは。今回はよろしくお願いします。
「はい、よろしくどうぞ」
──さっそくグレイルさんとの出会いをお伺いしてもよろしいでしょうか?
「うん、うん……確か、街角を彼が歩いてて、僕が後ろを歩いてたのかな。それでね、強めの風が吹いたと思ったら、彼の抜け毛がぶわっと僕の顔に」
──ははあ……嬉しいんだか嬉しくないんだか。
「いや僕ふわふわの毛好きだけどさあ……まあ、それで声かけてみてね。ウチの店寄っていきなよって」
──グレイルさん、驚かれていたのでは?
「あーまあ警戒されるよね。てかされたね。そりゃね。でもホント悪いようにはしないよってゴリゴリ押したら、やっと頷いてくれて」
──なるほど。
「彼、抜け毛が凄いんだよね。換毛期とか周囲が凄いことになるみたいよ。まあ彼も悩みのひとつだったんじゃないかなあ。聞いたら、その時期は毎日掃除してたって」
──獣人はそういうのが大変そうですよね。
「あと最初、触られるのめっちゃ嫌そうだったのも印象的かな。我慢させて悪かったとは思うけど、まあ触らないと切れないからさあ」
──となると、最初は気難しそうな人という印象ですか?
「いや。気難しいというか……何て言うかな。拒まれていたというか」
──拒絶、ですか。
「ま、今はそんな事ないし。僕にも自分の事あんまり話してくれないけどね。でも毛の処理も掃除もしなくていい人型にもなれるのに、獣人の姿をあえて選ぶんだ。それなりの理由があるんじゃないかなあ。
誇り、ルール、約束……ま、僕にそれを知る術は無いんだけど。でもま、彼が獣人であることで僕は仕事ができて、彼のふわふわの抜け毛に顔を埋められる。それは確かな事実かな」
──はあ……。
「そんな事よりさ、彼の抜け毛って何か知らないけど、顔埋めてるとすごい癒されるんだよ」
インタビュアーはやや困惑の感情を見せた。
恐らくグレイルさんの持つギフトの残滓なのでは、と推測する。
「で、作っちゃいましたグレイルくんマスコット。どう? 羊毛(フェルト)人形みたいで可愛いっしょ? まあ羊毛っていうか狼毛だけど」
──ええ? 勝手に作っちゃって良いんですか?
「ヒミツにしてよー。お店にも置いてみたんだけど、結構売れ行きいいんだよコレ。女の子とかに」
このインタビューが公になれば秘密にはならないのだが、インタビュアーはあえて黙っていた。
「持ってると癒されるよ! 顔埋めると効果二倍だよ! って売り文句でね。まあ実際結構馬鹿に出来ない効果だと思うよ。間接的に人を救ってんだもん、彼も許してくれるでしょ。へへ」
──どうでしょう……さすがに許可くらい取ったほうが良いのでは……。
「まあまあ良いじゃない。そういえばさあ、彼も若い男の子だし、イイ子でも居ないの? みたいな話を振ると黙っちゃうんだよねー。ウブで可愛くない?」
またしても露骨に話を変えてきたが、滑らかなトークで不自然なイメージは無かった。
──そういうお話、苦手そうですものね。からかいすぎて怒ったりしないのですか?
「怒ったり……てのは見たことないかな。まあ、機嫌悪くなったりは多分あるよ。尻尾とかで何となくわかるね。
まー嫌われない程度にはお喋りしてると思うよ。何せ、彼あんまりしゃべるタイプじゃないから、強引にでもコミュニケーション取らないと僕もイイ仕事できないし……いやホント嫌われては無いと思う。多分……この前、彼お手製のお菓子貰ったし……」
急に不安げな顔をするアゾン氏。
と、カランカラン、とドアベルが鳴り響く。
「……っと、お客様だ。悪いね、今回はこれまでだ」
──あ、はい。お忙しい中すみません。今日はありがとうございました。
去ろうとするインタビュアーとすれ違った人物は、さらりとした青髪を揺らして──。
インタビュアーの背中ごしに、アゾン氏の明るい声が届いた。
「おっ。いらっしゃい! ちょうど今、君の話をしていたんだ──」
●おわりに
いかがでしたか?
グレイル・テンペスタさんについての詳しい情報は知ることができたでしょうか?
今後も彼の活躍に目が離せませんね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。