少しの変化

登場人物一覧

　繰切は先日、紫桜に言われた「廻に優しくしてみては」という言葉を思い返していた。
　クロウ・クルァクだった頃の記憶では、巫女は恐れつつも自身に敬意を払い儀式を誉れと思っていたはずだ。
　最初は恐怖しか感じなかった巫女達も徐々に誇りを持って儀式に来ていたのだ。
　それが、紫桜が言うには廻は違うらしい。
　自ら巫女となるような気概がある子らとは違い、繰切が選んだ玩具であるから繊細なのだろう。
　だが、中々壊れることはない。そういう繊細な玩具はすぐ壊れてしまうのが常だがと繰切は首を傾げる。
「イレギュラーズというのは特別であるのだな」
　廻はこの世界に特異運命座標と定められ召喚された。魂が強い者なのかもしれない。
「まあ、壊れにくいというのは遊び甲斐があるということだな。良きことだ」
　今夜は月祈の儀。廻がこの地下にやってくる日だ。
　紫桜の言うとおり今夜は優しくしてみようと思う。
「どんな変化があるか、一興だな」

　突然の優しさに廻は戸惑い、恐怖し。
　震えながら見上げてくる廻の頭を撫でた時。
　僅かに目を細めたのを見て、繰切は「紫桜の言うように少し効果があるようだ」と思った。
　だから、今夜はうんと甘やかす事にした。
　緩急というのは大事なのだろうと繰切は口の端を上げた。