SS詳細
『雲水不住』清水 洸汰の一日デッキセット
登場人物一覧
ポルターガイスト
それは深夜に訪れる。枕が飛び、毛布が飛んで、ついでに体がおっこちる。
1人用のテントがふたつ。ひとつは赤色のテントで表札? にはパカおハウスと書かれている。もうひとつは青色のテントで表札? ぴょん太キャッスルと書かれている。これは屋外ではなく立派な和室に張られているのである。和室の余ったスペースで洸汰がぐっすりと眠っている。そんなほんのりカオスが漂う空間で突如としてパカお君フィギュアが飛んでいく。壁に当たりぶええっと鳴いて床に落ちる。お次はボールが宙を舞い、ぼんぼんぼんっと数回バウンドしていく。
「もがっ!? ……むにゃ」
洸汰に当たり痛そうな声を一瞬だけあげた。それからも様々なものが飛び交い、宙を舞う。朝になるころには寝具の周りは異様に綺麗になっている。寝具たちが主不在のまましばらく時間が経つとパカお達が鳴き始め、そこでようやく洸汰が起床する。
「また散らかってる…………ポルターガイストってやつだな! やべ~!!」
目を輝かせながら部屋の惨状を楽しみながら、爆発する髪を手櫛で整え、パカお達の朝ごはんの準備に取り掛かった。
本日は晴天なり
本日は晴天、所により豪雨のようなおしゃべりにみまわれるので注意しましょう。
あの子があんな表情をしているなんて知っている人がいったいどれだけいるのだろうか? 仲間の人達もしらないかもしれない。あれを見てから俺は足を洗った。さっきまで太陽のような笑顔だったのが、曇天だ。雨だったのかもしれない。
―強面の軽業窓ふき―
キャッチャーミット
どんなボールだって絶対にキャッチしちゃうんだよ。顔面に当たったと思うぐらい早い球でも平気で取って投げ返してくるし、ついでに周りの女の子の視線までキャッチしちゃってるんだよ。やになっちゃうよね。
こんっと小気味よい音を立ててボールがバットに弾かれる。捕球に向かった洸汰の目の前でイレギュラーバウンドしてしまう。あらぬ方向へ飛んだボールは洸汰の顔面めがけて飛んでいく、ミットでの捕球が間に合わないと悟り素手でキャッチするとセカンドに投げる。セカンドは見事それをキャッチし、ファーストに投げる。見事なゲッツーを決めてチェンジ。
「ゲッツーからのチェンジ! 次は攻撃だー!」
意気揚々と洸汰は守備位置からバッターボックス方面へ歩いていく。その途中、女の子達からタオルとジュースを渡される。
「今のすごかったね! 見ててハラハラしちゃったよ。そ、それであの、こ、今度、私たちとも遊んでほしいっていうか」
「?? あぁ、いいぞ!」
洸汰は一瞬困ったような表情になったが、女の子たちの表情に何かを感じ取ったのか明るい顔で快諾する。その瞬間女の子たちは華やいだようになり、男子たちは複雑そうな表情をする。
「今からがいいな。微妙に人数足りてなかったし」
「え、あ、そ、それは遠慮するわ」
華やいでいた女の子たちは一瞬で静まり返ってしまう。一方男子たちは安心しながら洸汰に近づいて頷きながら洸汰の肩に手を置いて
「お前がそういうやつだから友情が続いてる気がするよ」
「なんだよそれー!」
同情のような安心のような目を向けながら洸汰を囲むのである。天性の鈍感により女の子とのキャッチボールは少し苦手なようだ。
ピンチヒッター
異世界から持ち込まれた遊び、野球にはピンチヒッター。いわゆる代打というルールがある。ここ一番、プレッシャー、チャンスに強いバッターが選ばれる。
「打者交代! ピンチヒッター! 今レフト守ってる清水!!!」
レガド・イルシオンでは敵味方関係ないようである。
洸汰がピンチヒッターに選ばれる理由はたくさんある。ひとつは少なくともここの子どもたちに野球を教えたのは彼であり一番の経験者だという事。もうひとつは最年長者であり身体能力的な面。最大の理由をあげるとすればひとつ。
「なぁ、手加減しろよ。一応敵のピンチヒッターなんだし」
少し黙った後に洸汰がにかりと笑う。太陽の笑顔というよりは流星を思わせる笑顔である。
「いくら、ツーアウト満塁で逆転の大チャンスだからってホームランとかはやめてくれよ?」
かなり黙った後洸汰がにかりと笑う。流星を思わせる笑顔ではない、流星群である。ドキドキワクワクが顔だけでなく体中からあふれ出ていることが一般人からみてもよくわかる。
仲間の男子たちは半ばあきらめて守備位置につく、なるべく外野の方へ外野の方へと下がって遠くに打たれてもいいようにと準備をしていく。それをみた洸汰はバットを掲げるのだった。
大ホームラン予告
清水洸汰がホームラン予告をする。それはゲーム終了の合図でもある。あいつは必ず全力のフルスイングでホームランをきめるからだ。
「あ~~~~! またやりやがった! 加減しろって言ってるじゃん! なぁ!」
「それはできねーだろ。フルスイングしてボールが見えなくなるホームランが一番気持ちいいんだし」
洸汰のバットが火を噴き、ボールは遥か彼方まで飛んでいく。外野を守っていた子だけではなく、内野を守っている子まで追いついてボールを探す。攻撃側の選手たちもこれはだめだと慣れた事の様にボールを探すのを開始する。洸汰はしっかりとホームインをしてから全力疾走でボール探しに参加である。全力すぎるホームランは野球をみんなでやるボール探しに変貌させるのだ。しばらくみんなで探したがなかなか見つからない。
「あっ!」
「見つけたか! 自分で打ってなくして、見つけるならいいんだけどさぁ」
「空き缶見つけた! かんけりしようぜー!!!」
「ボール探せって!!!! やるならお前から鬼だぞ!」
今日の野球もやむなく中止することとなった。代わりに缶蹴りで遊ぶことになった。野球に缶蹴りでのかけっこ。洸汰にとってこの上なく楽しい一日になったであろう。
『子どもたちのピーターパン』清水 洸汰
初めて彼の年齢を聞いた時は驚いたわ。私たちと同じ、もしくはちょっと下ぐらいに思っていたんですもの。彼はきっとピーターパンなのね。彼の事、子どもだなって思い始めてる私にはもうそろそろ見えなくなっちゃうのね。
―とある少女のお話―
夕日のまぶしい時間になる。子どもはもうすぐ帰る時間。缶蹴り中に失くしてしまったボールも見つかり心残りなく帰ることができるようになった。子どもたちがぞろぞろと住宅街の方へ歩いていく。
「明日こそ勝つ! 野球でも缶蹴りでも!」
「オレだってまだまだ負ける気はねーよ!」
子どもたちが今日の悔しかったこと、自慢したいことを話し合いながらの帰り道。いつも通りのいつもの風景。
「あっいけね……明日は店の手伝いがあるんだった。そろそろ店の手伝いしっかり覚えろってさ」
「そういえば、僕も……」
「あー……そっかそっか! それなら仕方ねーな! っと泣いてる子みつけた! ちょっと行ってくるぜ! じゃーなー!!」
それでも変わらないというわけではない。少しずつ少しずつ変わっていく。その変化は変わらない人にはとても敏感に感じ取れてしまうのかもしれない。
跳ねるように飛び出した洸汰の姿はすぐに見えなくなってしまう。
「あいつ子どもだよなぁ……正義のヒーローに憧れてたちょっと前の俺みたいでなんかはずい」
「でも年上なんだよね。すごい不思議な感じ。悪い人じゃないんだけど、大丈夫かなって思っちゃうよね」
陰口ではないが本人の前ではなかなかできない話。変化していく側からすれば変わらない人というのもゆるかな違和感があるのかもしれない。皆が歩いていく中、少女は洸汰が消えていった方を見つめている。
「明日も遊べるよね? また明日」
夕日がどんどんと落ちていく。明日もここで会えるだろうか?
洸汰スペシャル
どこかの食堂、レストラン、定食屋で出されていると言われる裏メニュー。カレーライスにとんかつトッピング、チャーシューマシマシラーメンそれぞれ大盛にペットフードとおもちゃがついてくると言われている。頼み方はピーマンの肉詰め定食ピーマン抜きだそうだ。
ポルターガイストに遭遇、手練れの空き巣退治、野球に缶蹴り、迷子を助ける。いつも通りの楽しい日常を満喫した。満喫するとどうしてもお腹が減ってくる。今日は帰る前に腹ごしらえ。パカおを走らせ馴染みのお店へ。
洸汰がお店に顔を出すと少し申し訳なさそうな顔をしたおばちゃんがお水を運んできてくれる。
「ごめんね、今日いい豚さんが手に入らなかったのよぉ。カツカレーの代わりに唐揚げ乗せてるんだけど」
「何それうまそう! それじゃそれとラーメン! 肉ましましで!あとパカお達のぶんも!」
注文をすませると先にペットフードが大量に運ばれてくる。それを頼れる相棒たちに手で食べさせていく。おいしそうに食べているがなんかすごい味がすることを洸汰は何故か知っている。いや、もしかしたらお腹の減っている今食べたらちょっとは美味しく感じるかもしれな――
「唐揚げカレーお待ちどう様」
「はっ!? おばちゃんありがとう! いただきます!」
食欲をそそるカレーの香りに現実に引き戻された洸汰。おばあちゃんにはいろんな意味で感謝である。
運ばれてきたカレーは季節の野菜たっぷりの健康に気を使ったものである。肉はほとんど入っていないように見えるが完全に溶け込んでいるだけであり一口食べればカレーの旨味と肉独特の甘みが口いっぱいに広がってくる。口いっぱいにおいしさを感じながら唐揚げをすくい上げて一気に頬張る。カリカリじゅわっと肉汁が拡がっていく。サクサクじゅわっのとんかつも大好きだが唐揚げには唐揚げの良さがあるというものである。
ラーメンも言うまでもなくおいしさにあふれており…………大満足の夕食を食べきったのであった。
『雲水不住』清水 洸汰
誰もが子どもの頃に抱いた正義。理想の正義と子どもそのもの。