PandoraPartyProject

SS詳細

『過去』の器は空だけど、『現在』の器は満たされて

登場人物一覧

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
チック・シュテルの関係者
→ イラスト

名前:カノン

種族:不詳

性別:男性

外見年齢:20代前半

一人称:俺

二人称:~さん

口調:~です、~ます、~でしょう、~ですか?/(一人の時等)~だ、~だね、~かな?

特徴:黒色の髪と瞳、純朴、前向き、頑張り屋、怖がり

設定:
 チックが懇意にしているパン屋『アルメリア』にて、住み込みで働いている青年。店主夫妻同様、多くの来客に慕われている。
 その来歴は不明。と言うのも、彼は元々行き倒れていたところを店主夫妻に保護され、またそれまでの記憶の一切を喪失していた為だ。
 そんな彼の唯一の手掛かり(と言っていいかは分からないが)は、首筋に走っている傷である。
 人体の急所である首を丸侭一周走っているその傷跡は、誰が見ても「抵抗できない状態」でつけられたものであることは明らかで、それ故に店主夫妻は彼が奴隷の出身であることを想定し、進んで保護を申し出た背景がある。
 そうした事情もあって、カノンは店主夫妻に深い感謝を覚えている。
 店の手伝いを行うのも恩返しの一環のためだ。現在の彼はパン作りの腕前こそ見習いレベルであるものの、日々努力を重ねており、また主として行っている接客業務も人気が高く、今や『アルメリア』に欠かせない店員の一人と言える。
 ――「お二人のパンが色んな人に愛されていて、俺も自分の事の様に嬉しく思います」。
 傷跡を隠すようにとプレゼントされた黒いチョーカーを擦り、店主夫妻のことを語る彼はとても幸せそうに見えると人々は語っている。

 また、カノンが自らの名をこのように名乗ったのも自身の記憶に基づいたものだ。
 店主夫妻に保護されて間もない頃、自身の記憶の当てもなく困惑していた彼が唯一『心当たり』を覚えたものが一つの曲……と言うより、その曲に用いられていたカノン進行であったためである。
 その瞬間の懐古に近しい感覚を忘れぬように自らに名付けた名前は、時が経った現在、彼にとって本当の名前として馴染みつつある。

 チックとカノンは、彼が『アルメリア』で働き始めた時から現在に至るまで、最も長い付き合いのある親友と言っていい。
 互いに会話を交わすだけでなく、都合があった日は一緒に買い物にも出かける二人は正しく気の置けない仲である。
 パン作りの練習が上手くいったときのこと、最近よく悪夢を見ているという悩み事。些細な喜びも、心配事も、互いに共有できる二人は、見る人によっては一個の兄弟にも見えることだろう。

おまけSS

 記憶が無い、と言う状況は、言葉で言うほど楽観的なものではない。
 自身にまつわる総てを知らず、またそれに関して与えられる情報の真偽を精査もできない。差し伸べられた手は、ともすれば自らを奈落に誘う悪魔の手かもしれないし、見知らぬ人が見せる些細な善意すらも疑念の対象となる。
 本来、彼はそうした「信用できない世界」の全てを拒絶していく人生を辿る可能性の方が高かった筈である。悲鳴を上げるように生き、身を震わせるように死んでいく仮定が。
 ……その彼を最初に救い上げた人物が、無償の善意を見せ、それを信じさせてくれた現在のパン屋の店主夫妻であったということは、きっと彼にとって一つの奇跡であったのだ。

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