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モブから見たリゲル=アークライト
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回は未来の英雄と名高い騎士、リゲル=アークライトさんについて密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はリゲルさんに詳しいという三人の方にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●隣人・キュラーの話
リゲルさんのご自宅近くに住むという青年、キュラス氏にお話を伺う。
──こんにちは。今回はよろしくお願いいたします。
「こんにちは!」
──さっそくリゲルさんの事をお伺いしても?
「はい、休日に奥様と仲睦まじい姿を見ましたよ。娘さんもいるのかな? それにしては大きすぎる気がしますけどね」
──娘さんがいらっしゃるのですか?
「いや、僕には分かりませんけどね。でもまあ、傍目から見るとって感じの。本当に温かい家庭に見えますね」
──なるほど。
「お昼は奥様と二人でお買い物や、家庭菜園のお世話してるみたいです。夜は庭で剣を握って鍛錬してますよ。ストイックな方ですよねえ」
──うーん、プライベートでも隙が無い方ですね。
「イヤ、素で聖人なんだなって。この前、男の子に剣の稽古付けてあげてるの見ましたよ。アレ、多分無償だろうなあ。ホント凄くないですか」
──そうですね。
「ホント聖人オーラの塊。アレね、悪しき者が近づいたらもう秒で浄化されますよ」
──そんなに。
「リゲル様の姿見ただけで、連続スリ犯が泣いて謝りましたからね。パネェすよ」
──パネェ……。
「まあ僕がそのスリ犯なんですけどね」
──えっ???
「現場見られちゃったし、もーこれ絶対死んだわって思ったんですけど、『盗んだものを全員に返して、誠心誠意謝れば見逃してやる』って言ってくれて」
──いや……貴方マジですか。
「でね、現実的にムリじゃないですか。ちゃちゃっとスッて、サッと逃げてるんだから、もー相手の顔なんか覚えてないワケですよ。
それでもね……あの人ねえ……一緒に探してくれたんですよね……被害者の人……」
──聖人がすぎる……。
「何とかね、全員見つかってね。盗ったもの返して、もうそれっきりスリから足さっぱり洗ってね」
──よかった。無事更生して堅気になったのですね。
「はい。それからというもの、なんと彼女は出来るし、道端で大金拾うしでもうサイコーですよ!」
──ん? 何かの悪徳商法じみてきたな……。
「そこで思ったんですけどね、リゲル教っていうんですけど。天義じゃそりゃムリだけど、幻想ならワンチャンイケるかな? って思って。
教祖様になってほしいんですよね~。あのメリ……メリなんちゃら神みたいにさ~。それでお布施ガッポリ……」
──すみません衛兵さ~~ん!!
(インタビュー強制終了)
●騎士を目指す少年・サウレの話
次はサウレ・カーニア氏。
日に焼けたような茶髪を持つ、まだ10歳の少年だ。
快活そうな笑顔が眩しい。
──こんにちは。よろしくお願いします。
「はい! よろしくお願いします!」
──さっそくですが、リゲルさんとはどういうご関係で?
「お忙しくない日や、お時間の空いたときに、稽古を付けてもらっています!」
──何と、リゲルさん直々に剣の手ほどきを。
「僕なんかにも気さくに話しかけていただいて……優しくて格好いい、僕の憧れの人です!」
──稽古中のリゲルさんはどういった雰囲気ですか?
「そりゃあ全然本気なんかじゃなくて、結構のほほんとしてますけど……でも、いい所に打ったら、きりっとした顔でしっかり受け流して──いい太刀筋だって、褒めてくれました!」
──手加減できる人が本当に強い人、とはよく聞く話ですものね。
「リゲル様は本当に凄い方です。僕なんかじゃまだまだ届かない、けれど──」
サウレ氏は、胸の前でぎゅっと拳を握って、前を見据えていた。
「『期待してるよ』って、そう言ってもらえたから。いつか同じ騎士として、肩を並べてみたい。そう思います」
──私たちが求めていた100点満点のインタビューでした。サウレさん、ありがとうございました。
「えっ? あっ、はい。こちらこそありがとうございました!」
●天義騎士・レナードの話
最後にお話を伺うレナード・ハウゼン氏は、天義の騎士である。
リゲルさんと年齢こそ離れてはいるが、同期だという情報を事前につかんでいる。
──こんにちは。よろしくお願いします
「レナードと申します。よろしくどうぞ」
──さっそくですが、リゲルさんとの出会いをお伺いしてもよろしいでしょうか。
「彼とは下積み時代に出会いました。同じ釜の飯を食べていた事が、随分と前に感じます」
──今や天義の代表とも言える、リゲルさんの下積み時代。気になるお話です。
「はじめは、彼が一般騎士として来たことに皆いい顔をしませんでしたよ」
──そうなのですか?
「彼自身がどんな人間かは関係ありません。父親は高名な騎士で、名家の貴族のお坊ちゃま──まあ、周りの評価はそんなものです」
──親の七光り。生まれついたエリートへの嫉妬、という事ですか。
「……騎士とひとくちに言っても、天義には様々な騎士団が存在します。いちばん有名なのはレオパル様が統括する聖騎士団ですが──そこに所属できるのは一握りのエリートだけ。
かくいう私も一般家庭の出ですが──私たちはその狭き門を潜る為に鍛錬を重ねていました。でもどうせ彼はそこに行くのだ、予定調和だ、下らない、私たちの努力は無駄なんだ──そう悪態を吐く者も居ました」
──厳しい現実です。
「しかし彼は実力で、そういったものたちを黙らせてきた。本当に、強かったんです。私と彼は十も歳が離れていますが、模擬線で勝った事はありません。ただの一度もね」
──何と!
「当時14だか15だかの少年に、私は膝を付ける事も叶わなかった。卓越した技術と戦闘センス。お父上から確かに受け継いだものでしょう。それでも才能を開花させたのは、彼の努力の賜物だ」
──その努力の瞬間を見たことは?
「ありますよ。まず訓練量が違います。一般的に訓練は時間が決まっています。天義は規律を良しとしますから、時間外に宿舎の外に出ているのが見つかれば上官に罰されます。夜通し宿舎の周りを走らされる、それはそれは過酷なものです。
私たちは夜に出歩く彼を止めなかった。見つかって罰を受けてしまえばいい、と悪意を持って思うものも居たでしょうがね。でも──彼はわざと上官に見つかり、それを鍛錬の一環にしていたのだと気付きました。強さを貪欲に求めるその姿に、私は心を打たれた」
──よ、夜通しですか……。
「そして、私たちは気づきました。彼は親や家など関係なく、実力でその座を得たいのだと。上官もようやく、彼が自ら『罰を望んでいる』と理解したのでしょうね。条件付きでの時間外訓練を許可したのです」
──条件付き、ですか。
「『週に一日は必ず休むこと』、ですよ。天義では安息日が設けられていますから──それ程に彼は、己の鍛錬に余念がなかった」
インタビュアーは絶句していた。
条件が付くまでは──毎日欠かさずに時間外の鍛錬をしていたと言うのだろうか?
「私は彼に言いました。『そこまで追い込んだら、騎士になる前に君の身体が壊れてしまう』と」
──その、お返事は?
「『己を壊せずして、騎士は務まりません。己の身を粉にしてでも、民を守るのが騎士の役目ですから』──そう、まっすぐな目で言われました」
──10代前半の少年が、そこまで言ったのですか……。
「『君は将来が約束されている。何もそこまでしなくても』──そう言っても、『未来は自分で掴みたいんです』とも」
──……。
「おそらく彼のお父上が、コネのみで聖騎士団に入団する事を許さなかったのだろうとも推測もできますが──
リゲル様が何よりも、誰よりも自分に厳しい方だったと、そこでようやく気づいたんです」
──中々、言える事ではありませんよね。
「はい。いつの間にか、同期である私たちも変わりました。彼に悪意を持って接する者は居なくなりました。
皆、彼の努力を認め、そして追いつきたいと、彼に倣って一層訓練に励むようになったのです」
──リゲルさんの愚直なまでの努力が、周囲をも変えた。本当に凄い話です。
「ええ。彼には感謝してもしきれませんよ。
いつか彼が酒でも飲める年齢になったら──ゆっくりと飲み明かしたいものです」
──同期同士が静かに酒を飲みかわす。絵になる構図です……おや?
レナード氏とインタビュアーに向かって、つかつかと一人の騎士が歩み寄り、頭を下げた。
途端に、レナード氏の顔つきが変わった。
「分隊長、お取込み中失礼します。近隣の村で魔物の被害が出ているとの報せあり。わが隊に出撃要請が入っております」
「了解。各隊員に出撃準備を発令する。10分以内に正門前に集合させろ。1秒の遅れも許さん。急げ」
「はっ!」
騎士は重苦しい軍靴の音を立てながら、駆け足で去っていった。
厳しい顔をしていたレナード氏はインタビュアーに向きなおると、また柔和な笑顔に戻った。
「すみません。少々用事が出来てしまいましたので」
──はっ! はい、ありがとうございました……あの、随分印象が違うのですね……。
「人の命を、預かっていますから」
そう言い残して去って行ったレナード氏が聖騎士団に所属しており、かつ分隊を取りまとめている立場であると知ったのは、それから少し後の事であった──。
●おわりに
いかがでしたか?
リゲル=アークライトさんについての詳しい情報は知ることができたでしょうか?
今後も彼の活躍に目が離せませんね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。