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【新道風牙の食ノ道】静寂の宝石は絢爛な海の味

登場人物一覧

新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの

 かつて、リヴァイアサンと呼ばれる竜種が支配していた『絶望の青』にこれほどの活気がもたらされることとなる事を、数年前に一体何人が予想できただろうか。イレギュラーズの活躍と一部の犠牲によって生まれたこの海の平穏は、確かに人々へと継承されていた。現在、この海に絶望の名は相応しくないと『静寂の青』へ改名されることとなったこの海に、活気のある声が響き渡る。

「ヨオーイ、ヨオーイ」
「いいぞ! 網を引き揚げろォ!」

 頭領の掛け声と共に、船周りのハンドルを男達が押し回していく。クジラの髭を編んだ強靭なロープが青い海に沈んでいる網を少しずつ引き上げていくのを『嵐の牙』
新道 風牙(p3p005012)は見つめていた。自分の他にもイレギュラーズは何人かおり、引き揚げられた網から飛び出して来る 鉄鎧大蟹アイアン・クラブを処理する。
 この魔物はそれほど強いわけではないが、かと言って油断できる相手でもなく、船の帆を壊されることがたびたびあった。こうしてローレットというギルドの名声が上がり、その依頼システムが浸透した今、大型漁船では彼らを数人雇う方が安上がりだという考えが広がったようだ。
 なにより、この漁船で仕事をするメリットは他にある。

「お前らァ! 港へ帰るぞォ!」
「オォー!」

 無事に仕事を終えたことに安堵しつつ、港で振舞われるご馳走に新道は胸を高鳴らせた。





黄金海老ゴールド・シュリンプ鉄鎧大蟹アイアン・クラブ……相変わらず豊漁だな」
机の上に立ち並ぶケースに、ザラザラと蟹や海老が投入される。一定の大きさ以下の蟹や海老がふるい落とされ、大型の物だけがここでは出荷されていくのだ。では、一定基準を超えなかった海産物はどうなるかというと――

「お仕事お疲れ様でした! 本日の賄いになります!!

 ――こうして、依頼を達成したイレギュラーズや漁師たちへと振舞われるのだ。カムイグラとの取引が始まってから海鮮丼という食事が普及してからというもの、白米の上に海鮮具材を乗せ放題という破格の待遇で昼食が付くようになってから、漁師達は以前よりもよく働くようになったと噂もある。
 だが、それもそうだろう。白いツヤツヤと光る米に、アワビやホタテはもちろん、採れたての甘海老や蟹のほぐし身、それからその日に取れた売り物にならない小さな魚を捌いた刺身が好きなだけ乗せられるのだ。まさに、宝石の掴み取り。そんな待遇を受けることができるなら、喜んでこの過酷な仕事に精を出そうというものだ。

 新道は初めに少なめに白米をどんぶりによそった。せっかく、具材を乗せ放題の海鮮丼なのだ。おかわりするのが大前提だろう。
 そのあと甘海老と蟹のほぐし身をこんもりと乗せる。これに醤油は要らない、むしろ野暮というものだ。海水による塩味が引き立っており、強いて挙げるならばレモンを少し振りかけるだけでよかった。レンゲの上に乗った白米と引き締まった蟹の身と海老特有の甘味に目を細め、米粒ひとつ残さず、新道はペロリと平らげる。さっぱりとした味わいは次のどんぶりを食べたいという食欲を決して阻害したりはしない。
 それから、次にまた白米をどんぶりにおかわりを少しよそった後にホタテとアワビ、それから刺身とウニをこれでもかと乗せた。
 机に運ぶまでの間にこぼれないかとひやひやしながら、そろりそろりと歩く新道の姿を誰も咎めはしない。何故ならば、誰もがそうして海鮮の魅力に抗えず、どんぶりにこれでもかと強欲のままに乗せていたからだ。実際、視界の端で、男の1人が白米を一握りしかいれずに、あとは海鮮を乗せていく姿も見えた。海鮮丼とは名ばかりのそれに、小さく笑う。気持ちは痛いほどわかる。新鮮な魚介をメインに味わいたいのは、新道も一緒だった。
 さて、そこまで距離がないにもかかわらず慎重に運んだせいか倍にも感じる過程を経て、新道が席に座ると、今度は醤油とほんの少しのわさびを添えて頂くことにする。ウニもホタテも甘味が強い海産物だ。口のなかが飽きないようにするには適切な組み合わせだろう。

 「うわぁ……ホント、痛風になりそうだなこれ……マジでこれ贅沢だ……」


 はむり、とレンゲにのせたそれを口に含めば、あっさりとしたホタテの甘味、コリコリとした食感が楽しいアワビは口の中に入るだけで少し趣が変わる。刺身はなんの魚かわからないが、味わいはマグロに近かった。……あまり身が赤くないところから、備長マグロに近い魚なのかもしれない。だが、美味であることには間違いなく、これが売り物にならないのかと新道は驚きを隠せなかった。
 また、咀嚼するたびにとろりとした濃厚なコクがあるウニが舌先で広がり、ウニと特有の磯の香りが鼻を抜ける。そして、最後に舐めたわさびのピリリとした清涼感のある辛さが、また魚介の甘味を引き立てていた。

「……あー……どうしよ、あともう一杯……」

 宝石の如く煌めく、豪華な海鮮の魅力に新道は視線を彷徨わせたあと、胃の大きさ的にそろそろ諦めるべきかと肩をすくめた。

「また明日も仕事の募集ってあるのかな?」
「明日はないけど、週末にはあるって聞いたよ」

 それならば急ぐことはないだろう。今日のところはこれで引き上げて、また今週末のお楽しみにするのも悪くないはずだ。新道はそう思い、その日の仕事を終えた。

 ……噂が噂を呼び、高評価を得たその仕事が、いつのまにか仕事の倍率が飛躍的に上がり、なかなか参戦できなくなってしまったのはそれから1ヶ月も経たないのだが、それはまた、別の話である。

  • 【新道風牙の食ノ道】静寂の宝石は絢爛な海の味完了
  • NM名蛇穴 典雅
  • 種別SS
  • 納品日2022年02月12日
  • ・新道 風牙(p3p005012

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