SS詳細
からっぽ、まっくら、なにもなく
登場人物一覧
名前:
『ミツキ』。名字を含めた正確な名前もあるが、彼女自身が称するのはこの名前のみ。
それこそが、たった一人、心を許した人の呼んでいた名前だったから。
一人称:
他者に対しては「私」。親しい人には少し穏やかな語調での「わたし」。
二人称:
「貴方」。これも他者に対するもの。親しい人に対してはほぼ必ず名前を付けて呼ぶ。
口調:
「だもん、だよ、かな?」。極端に忌避する相手にはこれを絡めた言い切り系の口調となる。
特徴:
酷い言い方をすれば「傷痕、暴行痕が少ない」。
物心ついたころから虐待やいじめの対象であり続けた彼女にしては、そうした行為の痕跡が身体に全く見えない。
これが何故か――――――或いは『誰に因るものか』は、恐らく、考える必要もない。
設定:
年齢十代の女性。人間種。練達は再現性東京、希望ヶ浜高校中等部の生徒として暮らしていた。
良くも悪くも……否、凡そ悪い意味で『普通の少女』であり、同級生たちには侮蔑と嘲笑の対象であった。
そうであった彼女が変化したのは、「気に食わないから」と自らを守ってくれた、たった一人の親友によって。
気に食わない同級生たちからは逃げ回り、嫌いな親の元には戻らず友人の家に暮らし、それでもなお自身を苛むものに拳と蹴りと罵詈雑言を返す。
それまで自分が取りようもなかった選択肢を選ばせ、ありもしないと思っていたセカイを見せてくれた彼女に、ミツキは単なる友情以上の感情すら抱いていた。
……けれど、結果としてそれこそが、ミツキ自身が『堕ちる』理由にもなってしまった。
折悪く、一人でいた時にいじめっ子達と出くわした彼女は、その時彼らに一頻りの暴力を浴びた後、こう告げられたのだ。
――――――「あのガサツな暴力女も同じようにしてやる、お前を人質にして」と。
諦観し続けていた彼女が、生まれて初めて見出した希望。だからこそそれを喪う絶望を味わうよりも、彼女は自分一人が堕落することを選択したのだ。
尤も……当の友人がそんな愚かな選択にすら付き添ってくれたのは、ミツキにとっても予想外であっただろう。
堕ちてから死ぬまでの僅かな間、ミツキは友人に罪悪感を抱きながらも、人生で最も穏やかな時を過ごせていた。
堕落と死。誰もが忌避するそれらにすら、友人が一緒に居てくれるという事実が。
「最期を迎えても、一人ではない」という現実が――彼女を夜妖でなく、人として在らせ続けていたのだ。
おまけSS『独白』
羨ましいな。
「誰か」との、心を痛めることのできる記憶があることが。
羨ましいな。
「正しいこと」の為に、動こうと思えることが。
そう思う理由すら私には無いから。
そう生きる貴方に、「何で思い出すの」「どうして正しいことに従うの」と思ってばかり。
――――――ああ。でも、そっか。
それが分からない私だから。
私はあの時、貴方達の手を、払いのけちゃったんだね。
……払いのけるしか、できなかったんだね。