PandoraPartyProject

SS詳細

ハッピーとメープル

登場人物一覧

メープル・ツリー(p3n000199)
秋雫の妖精
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

●浮気デート? それとも親睦会?
 世界が凍りつきそうな寒さは未だ止まず、幻想の町並みの木々は冬の女王の統治の元焦げ付いた様な茶を曝け出す。
 吐いた息が凍りついてしまいそうな寒さの中、商品を渡すためのお店の小窓が放つ明かりが小さな手袋に支えられた紙コップを優しく照らし出す――
「んー、スイートでセクシーで……ソー・グッド、妖精郷の木の蜜に負けぬ劣らぬ美味しさ!」
 口の中に溶け込む程よく熱いホットミルクと溶け込んだ甘いメープルシロップの香りを感じ、私は頬を撫でる金色の髪をかき分け片手で丸を作る。
「流石ハピハピのセレクトですなー、芯まで暖かくなっていい感じー!」
「よっしゃー! ありがとうメイメイ!」
 同じドリンク片手に喜んだハッピーさんの体が揺れて、キレイな髪とお尻に当たる肩のもこもことした冬服が当たる。
 そんな最中、内心私、メープルは非常に心は穏やかとは言い難かった。見た目は目が太い線になってバッチグーみたいな感じなんだけどもう心臓は爆発寸前。ベンチに座る彼女の心音は(幽霊にあるのかわからないけど!)肩越しには伝わってこないけど、私自身のはバクバクしてる。
 なにせ、今の私はこの可愛らしい金色の幽霊と一緒に、はじめてのデートをしているんだから。
 デートだよ、マジのデート。お出かけじゃなくて。
 事の発端は大した事じゃなかった、ハッピーさんと私はたまたま出会ってから色々お話して《共通の話題》で意気投合したのさ。心当たりある人は反省よろしく。
 アイツがそう簡単にどっちかに思い切り行く様な奴じゃないじゃん? じゃあいっそ思いきって二人抱いてやるーって言えるようにムード作ってやろうじゃん? 何ならアイツが嫉妬するくらい二人で仲良くなってやろうじゃん、っつーわけでデート行こうデート、美味しい物でも食べ歩いて、って誘われて! 流されて速攻オッケーしてやったはいいけど、やっぱりいざするって時になったら頭が一杯で緊張してきて――だって、これから私達、お付き合いするって事じゃん。
「メープルさん、大丈夫? 重くないかい?」
「……!」
 そっと覗き込むようなハッピーさんの顔と声で回想から引っ張り出される。あの可愛らしい赤と緑のオッドアイで、こっちを見てる。あ、そっか。紙コップ。Sサイズでも妖精が持つには大きすぎるか、はは。
「だ、大丈夫さ! こうやって念力で支えてるから、こーやってね!」
 顔が赤くなってるのを隠したい気持ちでいっぱいだけど。私は両手をわざとらしく離してハッピーさんに大丈夫アピールを精一杯してみる。
「おー、すごいっ、魔法みたいじゃんミ☆」
 それが面白かったのか、くすりと笑ったハッピーさんの微笑みと可愛らしいリボンのギャップに私の心は少し温まった。
「ふふーん、でもハッピーさんだってスゴいじゃん! ちょっとやそっとじゃあへこたれないし!」
「あったりめーよー! 幽霊がちょっとやそっとで死にますかミ☆」
 小さな手と大きな手のグー同士をウインクしながらどーんとぶつけて。うん、もう大丈夫。
「そんじゃあ次のお店行こうぜハピハピ!」
「任せろメイメイ! でも妖精にあのサイズは大丈夫かい!」
「なぁに! メープルシロップは別腹さぁ!」
 ……でも胃袋は別、次は二人ではんぶんこ、してもらおう。

●前略 私達お付き合いさせていただきます。
 火に照らされ、暖かい木の色が木霊する。話題の喫茶店に入って、向かい合って二人。
「――アイツったら、お出かけするんだ~って言ったらメッチャ深刻そうな顔で何するんだって不安がっててさ! っ、もう面白くて面白くて!」
「あの人らしいかも、そういうとこ……あ、でも、浮気って思われちゃわないかな……」
「こんから何百年と仲良くしてかなきゃいけないでしょ、こんくらいノーカンノーカン!」
 私はテーブルに、ハッピーさんは椅子に。一つのパンケーキを二つのスプーンで両側から割ってって。咲かせる恋バナ。二人が好きな相手も同じ人、そんな奇妙な関係性。……本人にはまだ好きって簡単な二文字すら伝えられないのにね。
「デートって言われたときは、ちょっぴり緊張しちゃったけどねえ……ハッピーさん?」
 自分でも不思議なくらいパンケーキをもぐもぐ食べながらハッピーさんの方をちらり。あんまり食べてない。
「えっと、その。女の子同士で、嫌、だったかな……?」
 顔を赤くして、思いつめた様にもじもじとするハッピーさん。まるで探りを入れる様に、テーブルに人差し指を擦り、ゆっくりと。
「全然……妖精は女の子同士だって歓迎さ」
「そっか、よかった」
 ハッピーさんはそっと胸をなでおろして、ちょっと潤んだ瞳で私を見る。安心と、少しばかりの不安を秘めたそんな瞳に、思わず私の心も揺れてしまう。きっと、同じ気持ち。ハッピーさんも。
「やっぱりメープルさんとは仲良くしたいもん。喧嘩するよりは」
「うん、一杯お話して、お出かけして、仲良しになろ」
 友達としてじゃなくて、《それ以上》を目指して、歩みたい。
「そんで冒険に行くんだ、悪い奴も一杯倒すんだ、世界を救うんだ!」
「うん、私はメープルさんも護りたい、だからメープルさんも、助けてくれるかな」
 二人を愛する権利を持ってるのはアイツだけじゃない、そう言いたいんだろう。
「ハッピーさんは頼りになるからね、ふふ、それじゃあ修行、もっと頑張らないと」
「うん……待ってる」
 パンケーキを二人でゆっくり、蝕むように、フォークで引き裂いていく。
 ごめんよハッピーさん、私も同じ気持ちさ、でも、今はまだ、私自身を許せないんだ。
 今の私は、自分でもどうかしてる、ドロドロの蜜みたいに甘いのろいが溢れ出して、アイツが好きなモノは、なんでも、好きになっちゃう。ハッピーさんの事も、どろどろに溶かして、甘い蜜で、愛してあげたい。止められないんだ。子供の作れる作れないはこの際どうだっていい。
 だけど、それじゃあ君そのものと向き合えない、きっかけがアイツだってのを貴女が許せても、君を純粋に愛せない。君がそれでもいいと言ってくれるならいいけど私からは、ほら、愛し合う人ってのは、ゆっくり親睦を深めるもんだろう。だからさ。
「ああ、キミの笑顔をいつだって側で見れるように、ね! もう私達は親友、だろ?」
 私は今は嘘をつく。あはは、前に手紙で『恋しちゃいそう』だなんていっておきながら、なんて3ゴールド芝居だろね?
 パンケーキがなくなって、もうシロップしか残ってないお皿を二人は気づかずに、口の寂しさを紛らわせる物を探してフォークを動かしていた。
 あはは、バレバレかも……叶うことなら、キミにもかけてやりたいよ、蕩けるように甘い、秋の妖精の呪いを。

●春と恋は、少しずつ
「メープルさんって、意外と食べれるんだねー」
「流石に見た目よりは、だけどねー」
 喫茶店を出て、再び冬の雪舞う幻想へ。日の傾いた夕刻、街灯が夜の到来を告げる遊歩道、冷たく乾いた風がぴゅうぴゅうと吹き、私達の背中を押していく。公園から続く木々の間を、歩きながら私は翅を急がせる。ちょっとだけハッピーさんを追いかける距離で、彼女の霊体になってる下半身のさきっぽがどうなってるか観察しながら。
 ふわふわと風に揺れるハッピーさんは、今にも消えてしまいそうで、それでもはっきりとしていて。ああ、そんな所がきっと皆に好かれる秘密なんだろうなって、思うんだ。
「もっちろん、夕ご飯の分もまた別腹だぜい!」
「そんなに食べて、メイメイ太っちゃわない?」
「っげ、それは言わない約束ー!?」
 だけど近づくのは、一翅ずつ。風がどっちに吹こうが変わらない。ゆっくりと、確実に。
「ねえ、メープルさん、今日は楽しかったかな!」
「もっちろん楽しかったさ! 最高かもしれないよ!」
 ハッピーさんのそんな言葉に私は思い切り前に回り込みながら、思いっきり全身でリアクションをする。
「いいや最高じゃない! メープルさんはこれからもっとハッピーになるからね☆ミ」
「ほーほー、そんなに美味しいお店なのかな? 期待しちゃっていい?」
「もっちろん! なんたって同じ好みを持ってる私のオススメですからね!」
 今日は一緒に離れたレストランまで運動がてら近道してご飯を食べて、一緒に帰り道を歩いてお別れ。それで終わり。
「あ、でも今回が最高なら次は良くならないんじゃ……!?」
「次は更に仲良くなってもっと最高になるのさ、だから大丈夫!」
 焦らない焦らない、私達は長生きなんだ。だからさ。
「本当? ま、またお誘いしても大丈夫……かな?」
「いいよっ! いつでも誘って! メープルは君のためならいつでもかけつけるさ!」
 た~っぷりと、私という甘い蜜の毒を召し上がれ、ってね? ハッピー♪

 風に二人の髪が揺れて、遊歩道は甘い香りだけを残して再び静まり返る。幽霊の想いはさておき、秋の妖精はどこか確信めいた自信と笑顔に満ち満ちているのでした――

  • ハッピーとメープル完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月29日
  • ・ハッピー・クラッカー(p3p006706
    ・メープル・ツリー(p3n000199
    ※ おまけSS『いろいろと』付き

おまけSS『いろいろと』

●ローレットにて!
「ハッピーさん、今日も一緒にデートいきませんかっ!」
「メープルさん、いいお店でも見つけたんですか!」
「そうそう、それが聞いてくださいよ! 私見ちゃったんですよ、海洋で美味しいホイップクリームの乗ったソフトクリームのパフェ! もちもちの白玉に甘酸っぱいいちごのソースにサクサクのコーンに刺さったチョコのお菓子! それはそれはもうよだれが止まらないくらいで……もんのすごい行列! 食べてみたいけどメープルには大きすぎるからさ、明日の朝一で行かない!?」
「いよっし☆ミ 行っちゃいましょう! 一緒にお話もしちゃいましょう!」
「うんうんやっちゃおうね作戦会議もね! ちゃんと欠かさずやっておかないとね!」
「もっちろんするさ、それじゃあ明日は海洋のポータル前に集合だね! 乙女大作戦第三段だぜい☆」
「おー!」

「あの二人、最近仲が妙にいいな…………まあ、俺には関係ないか、俺は乙女じゃないしな…………」

●メープルの悩み
 ハッピーさん、やっぱりかわいいなあ……。
 ……頑丈だから、みんなの前で盾になって、頼りになるし……。
 いいなあ、私もああなりたいな、アイツに頼られるようになりたいし、守れるようになりたいし……あと、おっぱい。ハッピーさん、あんなにかわいいのに、けっこう大きいよね……ギャップ萌えっていうのかな、案外、色っぽいところもあるし。
 ……うらやましい。いやほんとに。

●身長差
「……む、むむー……」
「どしたの、メープルさん?」
「いやあ、魔法で大きくなれないかなーって思ったりしてね……私、ほら、妖精だからハッピーさんとじゃ身長が違うから、キスとかする時にさ……」
「へえ、メープルさん、随分と踏み込んじゃうんですなぁ☆ミ」
「あっ、いや、違う、違うよ! まだするわけじゃないけどね!? いつかお付き合いするなら必要かもって!? 別にしたいわけじゃないから!」
「ふふふ、今はそういう事にしといてあげよう! 大丈夫、小さなメープルさんもかわいいよ?」
「え、えへへ……ありがと……って私は大きくなりたいんだよー!? 小さくて可愛くてもうれしくないよう!」


●あとがき
 おまたせしました。喜んでいただけたら幸いです。
 妖精とクイックシルバーってきっと組んだらポルターガイスト起こし放題で名悪戯コンビになりそうですね……。
 この度は誠にありがとうございました。また次回がありましたらよろしくおねがいします。

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