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泡沫の聲

登場人物一覧

チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
チック・シュテルの関係者
→ イラスト

名前:珠海・千歳(しゅかい・ちとせ)
種族:海種
性別:男性
年齢:18歳
一人称:私
二人称:君/~さん
口調:だよ、だね、かな?/(目上の人、初対面の人には敬語)
特徴:物静か、厭世家
設定:
 豊穣寄りに位置する海洋王国の諸島に住まう青年。
 家はその島を治める役目を果たしており、有する劇場で歌を披露することもある程に優れた声を持つ一族。
 だが、彼は自身の歌声に自信がない。

 チックと出会ったのは、偶然だった。
 街から少し離れた岩場をチックが歩いていた時に、美しい歌声が聞こえた。伸びやかでしっとりとしていて、けれども何処か寂しい声。夜の海で人知れず跳ねた魚が波紋を作ったような――そんな声だった。
 ――どんな人が歌っているのだろう。
 チックはその声が気になり、歌を歌っている人を探した。こっそりと、その姿を見るだけで良かった。姿を見たら歌の邪魔をしないで街へと引き返すつもりだった。
 けれど、岩場だったのがいけなかったのだ。足元の小石が海に落ち、彼の歌の邪魔をした。
 振り返った彼は海へと逃げたが、その後毎日チックは岩場へ通い、謝り、交流を持つようになった。

 彼はある日、声を失った。彼の歌声を妬んだ人物が呪いをかけたのだ。
 どんなに喉を震わせようとしても、その唇は音を紡がなくなった。
 歌が全てだった。どんなに嫌な気持ちになろうとも、歌いさえすれば心が晴れ、歌いさえすれば世界と繋がれた。
 それなのに――この喉はもう、声すらも、音すらも、紡がない。
 絶望した。命を絶とうとした。震える手で短刀を握り、何度も胸に沈めようとした。……出来なかった。
『また……一緒、歌えると……嬉しい』
 はにかむように淡く微笑む君と一緒に、もう一度歌いたくて。

 自室に閉じこもる事が増えた彼に家族は悲しみ、色んな伝手を頼った。高名な占い師、胡散臭いがその手の事では頼りになるという呪術師、怪しい薬師、貿易に強い商人――汎ゆるものに手を出して彼に勧めたが、そのひとつも彼の声を取り戻すことは出来なかった。
 ある日、怪しげな男がこう言った。
『どんな邪術でも、君の声は取り戻せない。
 けれど、そうだね。君が本当に憧れて望むものを奪うことなら出来るだろう。
 欲しいと望む相手の声を――喉を、食らってしまうのさ。
 そうすれば君の声は、君の望むものとなることだろう』

 ――嗚呼。私はどうすればいいのだろう。
 私が憧れた声は、君の声だけなのに。

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