PandoraPartyProject

SS詳細

闊達なる太陽は悪魔と友誼を結ぶ

登場人物一覧

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
エドワード・S・アリゼ(p3p009403)
太陽の少年

 ぐちゃり。
 腐った果実を踏み潰すような音をたて、泥が靴へと纏わりつく。
 獣道に刻まれた少年の足跡など、巨大な森からしてみれば小さなリスの足跡と変わらない。
 頬を打つ雨粒の数すら不確かな闇の中、方向感覚などとうの昔に失われていた。
 黒々とした視界。どこを見ても同じ景色。
 疲労と寒さが、小さな体から容赦なく熱を奪っていく。

 最初は寒かった。
 次は痛かった。
 今はもう、何も感じない。

 少年は大樹の根元に座り込んだ。
 震える唇を何とか合わせようとして失敗する。霧のように細かな水滴が張りついた灰色の唇や睫毛からは、暖気といったものがすっかりと失われていた。
(オレ、ここでしぬのかな?)
 少年は、エドワードは、ぼんやりと思った。
 かれこれ半日以上終わりのない闇森の迷路に囚われている。
 冷たい雨と地面に挟まれ、残っていた体温もじわじわと流れだしていく。手足の感覚は曖昧で、少年の意識を半ば夢牢へと繋ぎ止めていた。
 しかし不思議と絶望感は無い。生を諦めてもいなかった。体力を温存するように、エドワードは寒さに抗い膝を抱える。

「確かに柘榴みたいな色だ。目立つから雨の中でもすぐに分かったよ」

 そんな時、軽い喜びと驚きに包まれた声が聞こえた。
 まるで鳥のさえずりのような、軽くて若い、女の声だ。
 こんな地獄のような場所にどうして?
 エドワードは落ちかけていた意識と瞼をゆるゆると持ち上げた。
「生きてるかい?」
 誰かの白い吐息が、幽霊のように視界の中を漂っている。
「だ、れだ……?」
 雨の夜にはっきりと、しかし鮮やかに浮かび上がった二つの闇をエドワードは見た。
(おっきなオオカミと、黒髪のねーちゃん……?)
「可哀想に、すっかり冷えて。まるでずぶぬれの子犬じゃないか」
 するりと手袋が外され、白い掌が冷え切った頬に添えられる。
(あったけぇ……)
 忘れていた温かさに触れ、灯色の少年の意識はふつりと途絶えた。


 意識を失った少年を見下ろし、傘をさした少女は――少女の姿をした悪魔は思案した。
 彼は客人か、否か。
『黒睡蓮の館』は客人を拒まない。それが彼女の矜持である。最も、もてなした後のことまでは分からないが。
 食欲を瞳に浮かべ、舌で口端を湿らせた彼女は、とりあえず目の前の少年を巣に持ち帰ることにした。
 食すにせよ愛玩するにせよ、確保しておかなければ話は始まらない。
 するりと変化した慈みの顔で泥塗れの少年を背負う。傍らの狼が「代わりに背負いましょうか」と主人を見上げた。
「いや、私がこうしたいんだ。まるで姉弟みたいでしょ」
 冷たく濡れた身体に力は無く、それが一層愛おしい。
「あの、夕陽を煮詰めたような瞳を見たかい。何て美味しそうなんだろう」
 少女は嗤う。
「気絶している間にお風呂に入れちゃおうか? 起きたら、さぞかし驚いてくれるだろうね」
 至上のアルファより言葉を賜った黒狼は肯定の意思を伝える。自らの報告が主の喜びに繋がったことを誇りに思い、畏き獣は静々と、屋敷まで恭順し続けた。

 ――気まぐれな主が、小さな太陽を拾った。



「んん……ふぇ、ふぇっ」

 どふぇっくしょーーい!!

 エドワードは自らのくしゃみで目を覚ますと、冷気でぶるりと身を震わせた。
「あれ。ここ、どこだ……って、すげーお屋敷だ!?」
 青空の広がる石造りの窓。古くて分厚い本が並ぶ棚。豪奢な壁紙に高い天井。
 花の香りがする清潔なベッドから起き上がると、その拍子に、乾いた泥があちこちから音を立てて剥がれ落ちた。それが、あの森での出来事が現実である証明だった。
「オレ、たしか森の中で迷子になって……」
「あんな所で倒れてるからビックリしたよ」
 自分の問いかけに返事があったことに、エドワードは驚いた。
 暖炉のそばで黒髪の少女が本を読んでいる。
 年齢はエドワードより少し上だろうか。
 短く揃えられた髪や物腰からは「落ち着いたお姉さん」といった印象を受け、まるでお屋敷に飾ってある肖像画に出てきそうだとエドワードは目をキラキラさせた。
「アンタがオレを助けてくれたのか? ありがとな!!」
「お礼が言える素直な子は好きだよ」
 少女は無造作に本を閉じると脇に置いてあった洋服一式を抱えた。
「オレはエドワードって言うん、ふぇくしっ!!」
「ふふっ、私の名前はマルベート。この屋敷に住んでるんだ」
「こんなおっきな家に住んでるなんて、マルベートはすげーんだな!! ……へくちっ!!」
「お互い聞きたいことは沢山あるだろうけど、今はこれくらいにしておこうね。まずは冷えた体をお風呂で温めて来ると良いよ。体も綺麗にしておいで」
「うん……あれっ、オレの服は?」
「洗濯中。今日は良い天気になりそうだから直ぐに乾くと思うよ」
「そうだったのか!? 迷惑かけてごめんな」
「いいよ、エビの皮剥きみたいで楽しかったからね」
 エドワードは自分が真っ白なタオル地のバスローブを着ていることに気がついた。苺のように頬を染めて感謝を告げる少年に、マルベートはオオカミを愛でる時にも似た癒しの時間を感じていた。
「流石に泥だらけのままベッドに放りこむわけにはいかなかったからね。話の続きは、その彫刻より冷たい身体が体温を取り戻してからにしよう。着替えは私のお古を用意しておいたから、服が乾くまで、それを着ておいで」
「……あの、あのさ、マルベート」
 エドワードは言いにくそうに切り出した。
「すっげーキレイな服を用意してもらって嬉しいんだけどさ」
「うん」
「それ、スカートだよな?」
「そうだね、スカートだよ」
 沈黙。
「オレ、男なんだけど」
「うん、そうだね。男の子だね」
 沈黙。
「あぁ、私が着ると太もも丈のワンピースだけどエドワードの身長なら膝丈くらいにはなると思うよ? だから、そんなにお腹が冷えることはないかな」
「そっかぁ!! ありがとな!!」
 ややヤケ気味にエドワードは着替えの種類を受け入れた。
(助けてもらった上に世話になって、文句なんか言えるかよ!! そりゃあ、この屋敷にマルベートしか住んでないなら、着替えはマルベートの服しかないよな!? そりゃ可愛い服にもなるよな!?)
 マルベートはうっそり笑った。
 この時のエドワードは知らない事だが、屋敷にはズボンが存在する。
 だが知らなければ存在しないも同じこと。
「バスルームはこっちだよ。しっかり肩までつかっておいで。まだ身体が辛いようなら私が一緒に入ってもいいけど」
「?」
 何てことない様子で提案されたので、エドワードはきょとりと瞬きをした。そしてよくよく、言われた言葉を吟味して……。
「いい!! 一人ではいれるっ!! いってきます!!」
「行ってらっしゃい」
 ごゆっくり。
 バスルームの扉が閉まりエドワードの姿が見えなくなると、マルベートはクスクスと笑う。
「起きたと思ったら、ずいぶんと賑やかな子だ。可愛らしくてつい館に招いてしまったけど……さて、これからどうしようかな」
 結論を急がなくても良いか、と上機嫌でキッチンへと向かう。
「夜までに考えておこう。とりあえずは食事の準備かな?」

「は〜〜、さっぱりしたぜーー」
「おや、おかえり。簡単だけど食べるものを用意しておいたよ」
 湯気を纏わせたエドワードはニコニコ顔でバスルームから出てきた。かきあげた緋色の長い髪が、滝のようにタオルから溢れ落ちている。その様子を満足げにマルベートは見遣った。
「朝食にはやや遅い時間だけど、自己紹介がてら軽めのブランチといこう。お腹は空いてるかい?」
 エドワードは頷いた。
 小さなサイドテーブルの上に木の椀が乗っている。蜂蜜入りのミルク粥と生姜紅茶だ。
「マルベートが作ったのか?」
「いいや、これは保存食だよ。ちょうど今、消化に良さそうなものを切らしていてね」
 ほぁ〜、と感嘆のため息をつきながらエドワードは一匙すくって口に入れた。
「!!」
 途端にぴかりと、尊敬の星がかがやく。
「うっめえ!!」
「ふふふ、ありがとう。その食べっぷりなら夕食は豪勢にしても大丈夫そうかな。折角我が家に招いたんだ。自慢の料理は食べて行ってもらわないとね」
「いいのか?」
「もちろん。腕によりをかけてご馳走を用意するよ」
 直球で純粋な態度は時として何よりも刺さるものだ。
 エドワードの食欲が満たされるまで、マルベートは機嫌良く彼の食事を見守ることにした。
「ところで、そろそろ君があの森をさまよっていた理由を聞いてもいいかな、エドワード」
「あぁ」
 子犬のような笑顔をひっこめたエドワードは匙を置き、冒険者の顔でマルベートと向き合った。
「まず、助けてくれてありがとう」
 エドワードは膝に両手をつき深々と頭を下げた。
「オレの名前はエドワード・S・アリゼ。こっちの、えーと混沌って世界にきてからは、イレギュラーズってよばれてる」
 おや、とマルベートは意外そうに片眉をあげた。
「それを私に言ってしまって良いのかい? 特異運命座標と言えば一人で各国の情勢を変えてしまうほどの力を持ってるよね。このまま私に利用されるとは思わないのかな」
「わかんねぇ。でもさ、マルベートは命の恩人だから。隠しゴト、したくねぇって思ったんだ」
 それに、とエドワードは真っ直ぐにマルベートを見据えて太陽のように笑った。
「マルベートはオレがイレギュラーズだから助けてくれたわけじゃないだろ?」
「……そうだね」
 エドワードの視線を受け止めた瞬間、ぞくりとマルベートの背中に走るものがあった。
 興味か、悦びか。それに似た感情が生まれようとしている。
「エドワード。君が私に信を置いてくれると言うのなら、私も同じだけの信を君に預けよう。私の名前はマルベート・トゥールーズ。この『黒睡蓮の館』が主人にして、特異運命座標の一人さ。この辺りは私の領地でね。昨晩は眷属から『迷わずの森で人が迷っている』と報告を受けたら君がいたのさ」
「あの森、迷わずの森って言うのか? 迷いの森じゃなくて?」
「そうだよ。だからエドワードは迷わずの森で迷った、迷子第一号かな?」
「えぇ〜〜? マジかよぉ」
 へにゃ、と眉毛を下げたエドワードは下ろした長い髪も相まってか幼く見える。まだ冒険者と呼ぶには華奢な、成長途中の身体。しかし特異運命座標が見た目通りの強さではないことをマルベートは誰よりも知っている。
「オレ、綺麗な景色を見つけるのが好きでさ。酒場に来た冒険者のおっちゃんから、幻想の森にある、黒い華が咲く湖の話を聞いたんだ。マルベートはどこにその湖があるか知ってるか?」
「もちろん知っているよ」
 マルベートはゆっくりと立ち上がると窓辺へと移動した。そうして雨上がりの空を背景に、企むような笑みを浮かべる。
「折角だし自慢の我が家周辺を少しだけ案内しようか」

 壮麗な石造りの洋館を湖面が鏡のように映している。青空の中に浮かんだ黒い睡蓮の花弁は昨晩の雨雫を含み、陽光を受け宝石のように輝いていた。
「すっげぇーっ!!」
「そうだろう? うちの、自慢の景観さ。湖に浮かぶ黒睡蓮は私の屋敷の名物なんだよ。気に入って貰えたなら嬉しいな」
 マルベートは誇らしげに胸をはる。
 乾いた自分の冒険服に着替えたエドワードは目を輝かせてからマルベートを見上げた。その瞳は美しい睡蓮の花を見ていた時と同じ色が宿っている。
「この華、マルベートに似てるな!!」
「髪の色という意味かい?」
「いや、そうなんだけど、そうじゃなくてさ。何て言えばいいんだろ」
 隠れてしまった宝物をさがすように、エドワードは何度か視線をさまよわせる。
「綺麗で上品でさ。でも冷たい水の上で凛と咲いてるんだ。風にゆれてる姿は優しいんだけど、それだけじゃないっていうか……、んー、強そう!!」
 純粋無垢にそう言うものだから、思わずマルベートの方が吹き出してしまった。
 まるで誇り高いと言われたような気がしたから。
「そうか、エドワードはあの花と私に、強そうという感想を持ったんだね」
「ダメか?」
「いいや、嬉しいよ」
「湖にたくさん黒い華が浮いてんの、初めて見たぜ。あの黒い華、この辺にしか咲いてねーのかな?」
「私も、この辺りの湖でしか見たことがないね」
「ふーん、覚えとこ。だからマルベートの屋敷は『黒睡蓮の館』って呼ばれてんだな!!」
 マルベートは笑って肯定した。
「そうだよ。今度迷わずの森から来る時は、睡蓮の数を目印にしたら良い。もっとも、普段は迷っても彼等が道を教えてくれるんだ。昨晩は雨だったから少し時間がかかったのさ」
「彼等って誰のこと……っ!?」
 エドワードは後ろを振り返った。
 いつの間にか無数の気配に取り囲まれている。
「丁度良かった。客人の匂いを嗅ぎつけて寄ってきたね」
 のそ、と太い前足を出して森から出てきたのは立派な体躯をした黒い狼の群れだった。
「眷属の狼達さ。便宜上『彼等』と言ってしまうこともあるけれど、雌の子もいるんだよ」
 マルベートは親しげに狼の顎の下をくすぐり、くすぐられた狼の方も気持ち良さそうだ。その光景にエドワードは興奮しながら手を挙げた。
「オレも撫でていいか!?」
「良いけど敬意を持って、優しく撫でてあげてね」
「うんっ、分かった!!」
 よろしくお願いしますと頭を下げるエドワードに一匹の黒い狼が近づく。
「その子が私にエドワードの事を知らせてくれたんだ」
「あのとき見た黒い狼はお前かー。助けてくれてありがとな!!」
 構わないとでも言うように、黒狼は尻尾で一度だけ、地面を叩いた。
 エドワードは無邪気に笑うと狼との再会を喜び、言われた通りに優しく、漆黒の毛並みに指を添わせた。
「お前、カッコいいなぁ」
 得意げに、しかしこっそりと、気高き狼の尻尾が揺れていた。
 はしゃぐエドワードの中から、今日はどれだけの『凄い』が引き出せるだろうかとマルベートの瞳が好戦的に輝く。
 マルベートの領地を綺麗だと聞いて訪れたエドワード。
 彼を満足させたいという欲望に従ってマルベートは風光明媚な場所を思い浮かべていく。
 ホストとしての性質が今発揮されようとしていた。

「あーっ、楽しかった!!」
 花畑に鍾乳洞に湖に森。とっぷり日が暮れるほどマルベートの領地を見てまわったエドワードはすっかり満足した様子で玄関の扉を潜った。
「悪ぃな、晩飯までごちそうになっちまって」
「知った森とは言え、もう夜だからね。あちこち連れ回してしまったのは私の方だし、案内しがいのある客人で楽しかったよ」
「そういってもらえると嬉しいけどさ。オレ、ずっと凄えとしか言ってないぜ?」
「その新鮮で初々しい反応が欲しかったんだよ。エドワードは綺麗な景色を見られて喜ぶ。私も自慢の景色を褒めらて喜ぶ。ほらwin-winの関係じゃないか」
 広々としたキッチンに入ったエドワードは再び「すげぇ」と言いかけて慌てて口をつぐんだ。
「なんでもあるんだな、マルベートの屋敷」
「そういって貰えると嬉しいね」
 手慣れたように冷蔵庫の中をあさると、まだ素の形が残った肉をどんっと取り出した。
「丁度取れたて新鮮な野の肉があるけど……勿論食べられるよね? 男の子だもんね」
「お、おう……」
 薄いクリーム色の筋膜が張っている野ウサギだった物にエドワードは恐る恐る近づいた。
「マルベートは美味しい料理が好きみたいだけどさ、料理を作るのも得意なのか?」
 そうだね、とマルベートは頷いた。
「美味しいものを美味しく食べるためには、自分の腕を磨くのが一番の近道だったんだ」
「へへっ、オレもちょこっとだけど出来るんだぜ」
 照れたように、しかし自信に溢れた表情でエドワードは胸をたたいた。
「泊めてもらってるし、せっかくだからオレ、なにか作るよ」
「ふふっ、なら君のお手並みも拝見と行こうかな」
「美味しく作るぞーーっ、おーーっ!!」

 晩餐は鹿肉のコンフィと、うさぎ肉のミートボール。付け合わせは甘い赤カブのオーブン焼き。デザートは黄桃とバニラのミニパルフェ。
 満腹感を抱えて暖炉の前で、まったりとくつろぐ。
「綺麗な景色を見つけようと思って冒険してたけど、まさか泊めてもらうことになるなんてなーー」
 しみじみと夢見るようにエドワードは呟いた。
「こういうの、巡り合わせって言うんだろ? オレ達、不思議な縁があるのかもな!!」
「そうかもしれないね。でもエドワード。此処は、そう何度も来る場所では無いかもしれないよ」
「どうして?」
 奇妙な間があった。
「黒睡蓮について冒険者から聞いてきたってことは、知っていたんだろう? 人を食う化け物の話を、館に棲む悪魔の噂を」
 蝋燭の火で蛾が燃えていくような、そんな間だった。
「な、マルベート。オレさ、この世界の綺麗な景色とか、美味しい料理とか、誰かとの出会いとか。そういうのが大好きだ。でもそう言うのってさ。実際、自分で見たり、聞いたり、話したりしないと分かんないだろ?」
「そうだね」
 暖炉の炎が赤々と世界を照らす。室内の影が不気味に揺れ、エドワードの顔に射して踊っていた。
「マルベートがすっかり冷えた体を館の中で暖めてくれたこととか、オレは、きっといつまでも忘れねぇ。例えばそれが気まぐれでも、オレにとっては本物だ。マルベートと出会えたのも、この館で過ごした時間も、オレにとってはかけがえのない思い出で、だからさ。マルベートとも、これから見つける綺麗なことも、嬉しいことも、一緒に見てたいんだ」

 穏やかな告解だった。
 お互い、あまりにも異なる価値観を持っている。
 お互い、あまりにも世界の見え方が違いすぎる。

「マルベートが何者でも、関係ねぇ。今日此処で感じた、お前と”ともだち”になりたいってオレの思いは、変わらねーからさ」

 一緒にいたいと、そんな青い希望を躊躇なく口にしてしまう子供。その願いはまるで呪いにも似ている。

「……エドワード」
 マルベートは自らの陰に語りかけるように、声を落とした。
「君のその真っすぐな瞳は、世界の捉え方は、私には少し眩しすぎるよ」
「そうか?」
「そうだよ。困ったなぁ、少しでも芯がブレたらパクリと食べてしまおうと思っていたのに。君、ちっとも揺れやしないじゃないか」
 エドワードはマルベートが苦笑する所を初めて見た。
 一日の間だったけれども、マルベートの笑い顔をエドワードはよく見ていた。
 だから、分かった。
 眩しいとか食べるとか言ってはいるけれど、それは不快さから出た言葉ではないのだと。
 何かを諦めたような、どこか残念そうで、優しい顔。
「君の隣を歩き、君の成長を見守り、君を友人と呼ぶのも……悪くないかもね。まあ、私が飽きるまでの間だけど」


「マルベートーー!!」
「はっはっは、そんなに熱烈に見つめられると照れてしまうよ。そうだ。折角友だちになれた記念だ。今日は一緒にベッドで寝て、子守歌でも歌ってあげようか?」
「いや、いい!! それはいい!!」
「なに、そう遠慮することはないよ。昨日と同じように、互いの体温を分け合うだけさ」
「昨日オレがねてる間になにしたんだっ!?」
「なんだと思う?」
「えっえっ」
「君、からかうと本当に良い顔するなぁ」
「オレ、からかわれてたのか!?」


 人がエドワード・S・アリゼという少年について語る時、彼らは口を揃えてこう言う。
『太陽のような少年だ』と。
 燃えるような炎色の髪、熟した柑橘の瞳に宿る強い意志、そして若木の芽吹きを思わせる笑顔。
 あの爛然とした生命の輝きは、正に太陽と形容するに相応しい。
 しかし彼らは同時にこうも言うのだ。
『彼の少年は勇敢だ。しかし未熟で無謀だ』と。
 これから先、時として経験の浅さに足を掬われる事もあるだろう。
 夜の森に迷い、雨の冷たさに身を凍えさせる日もあるだろう。
 太陽の輝きが蝋燭のように翳り、迷い、揺らぐ日もあるかもしれない。
 だが彼はその無謀さ故に、今日、悪魔の友を得た。

  • 闊達なる太陽は悪魔と友誼を結ぶ完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月26日
  • ・マルベート・トゥールーズ(p3p000736
    ・エドワード・S・アリゼ(p3p009403
    ※ おまけSS『『黒睡蓮の館』周辺マップ』付き

おまけSS『『黒睡蓮の館』周辺マップ』

・赤を主題にしたメニュー
うさぎ肉のミートボール、トマトソース(担当エドワード)
牛乳につけ臭みをとったウサギ肉をミンチ状にし、粗く刻んだバゲット、卵、玉ねぎ、黒胡椒でまとめ、トマトソースに浸しました。
肉が好きって言ってたから、香辛料は控えめにして肉の味を生かしてみたっ。

鹿肉のコンフィ、赤ワインソース(担当マルベート)
ニンニクとローズマリー、ローリエに一晩漬け込んだ脂たっぷりの鹿肉をオリーブオイルでじっくりと煮込み赤ワインとベリーのソースで仕上げました。

赤蕪のオーブン焼き(担当マルベート)
冬の味覚。オリーブオイルをかけてじっくりと、蕩けるまでオーブンで焼きました。岩塩でどうぞ!!

黄桃とバニラのミニパルフェ(担当エドワード)
甘酸っぱい果実のコンポートとアイスクリームをふんだんに使った、さっぱり系のミニパルフェ。
ウェイターやってたからな。デザートの飾り付けは結構得意なんだぜ!!

・テーマ風景
湖水地方の風光明媚な湖
スコットランドの広陵とした石造りの屋敷
天国のようなお花畑(藤だったり、ネモフィラだったり、一面ケシ科の花が咲いてるお花畑だったり)

・イメージモチーフ
太陽と月
直球と変化球
荘厳と艶麗
若木と大地

・イメージミュージック
オールドファッション的な冒険心高まるスリップ・ジグ(Rocky Road to Dublinとか)や謎めいた言い回しの多い勇壮なナーサリーライム。


悪魔は気まぐれ 勇者は真っ直ぐ
悪魔は勇者に倒されて
勇者は悪魔に騙される
それが王道、世間の常識

それじゃあちっとも面白くない
おとぎ話なら楽しくなくちゃ
そうかいそうかい
なら、こういうのはどうだい
友人になった悪魔と勇者のお話さ

悪魔が夜なら 勇者は太陽
正反対のお二人さん
悪魔は真っ直ぐが大好きで
勇者は気まぐれが大好きだった
変わり者のお二人さん

だから二人は仲良くやった
時にはデコボコやったけど
それでも仲良くやったとさ

そういうお話 大好きよ
続きはないの? 聞きたいな
続きは有るとも まだ無いけどね
けれども確かに始まったのさ

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