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モブから見たErstine・Winstein
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回はクールな美少女吸血鬼、エルスティーネ・ヴィンシュタインさんについて密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はエルスティーネさんに詳しいという三人の方にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●ラサ傭兵・ゾーラの話
最初にインタビューするのはこの方。
ゾーラ・ゴルゴン氏。屈強な体つきの成人男性。
──こんにちは。今回はよろしくお願いいたします。
「よろしく頼む」
──さっそく本題ですが、エルスティーネさんとの出会いなどお聞きしても?
「ネクベトっつうバケモンの討伐依頼の時だ。ただのお嬢サマだと思ったが、ありゃずいぶんとやる」
──なるほど。かなりの実力者と。
「だな。砂漠で動きにくそうなドレス姿に、バカデカい大鎌。最初は何かの冗談かと思ったんだがねえ、強かったよ。少なくとも俺よりかはね」
──エルスティーネさんについて、まだ知っていることはありますか?
「ああ──そういやボス……っつうか、『赤犬』とちょくちょく絡んでるらしい。まァ、ラサに根付いて生きるヤツなら珍しくはねえかもしれねえが」
──『赤犬』と言えば、ラサという国を実質的に取りまとめている有名人なのでは。
「まあな。とはいえ別に、アイツも一介の傭兵だしな。あのお嬢が熱心なのは、ちょいと意外だったがね」
──と、言いますと。
「見てくれ通り、クールそうな子だしな。意外と情熱的なんだなってよ」
──そうかもしれません。
「依頼でも一緒さ。あの戦い方に情はねえし、態度も不遜。パっと見は嫌味な小娘さ。だがね──」
依頼では冷酷な吸血鬼。捻くれ者で毒舌家。
彼の語るものは我々の広く知るエルスティーネさんの顔だろう。
しかし──。
「時折な『これで合ってるのか?』『間違えてないか?』──そんな風に、不安そうな顔をするんだよ」
──……。
「少し前の話だがな。ネクベトに防衛線を一度だけ破られたことがあった。ちょうど、その時の指示は嬢ちゃんが飛ばしてたんだよ。俺らは慌ててカバーしようとしたが、嬢ちゃんは固まったままだった」
──では、その時に?
「俺も長く傭兵してるし、わかるさ。『どこかで間違えた?』と『どうして?』がないまぜになった顔だったよ」
──普段の態度は、自信の無さの裏返しと?
「さあね。こればかりは知らん。だが、俺にはそう見えた」
──そのあとはどうなったんですか?
「特にどうも。普段通り対処して、それで終わり。嬢ちゃんも、うろたえてたのはその一瞬だけ。いつも通りさ」
──成程。これは意外な一面ですね。
「まあ俺が言う事ではねえが、あんまりネタにしてやるなよ。あの若さであれだけ出来りゃ立派なモンよ」
──ええ、そこは安心してください。決して誰かを不快にさせるためのインタビューではないので。
「それならいいさ。じゃ、俺はこれから依頼があるからよ」
──はい。今日はありがとうございました。
●カフェ店員・リーザの話
エルスティーネさん行きつけのカフェ店員、リーザ・ハオ氏に話を伺う。
20台前半の活発そうな女性だ。
──こんにちは、今回はよろしくお願いします。
「よろしくお願いします! こういうの初めてで、緊張しますねっ」
──硬くならず、気楽にいきましょう。さっそくですが、エルスティーネさんについて知っていることをお伺いしてもよろしいでしょうか。
「エルスティーネさんですよね。ウチのお店でよく紅茶をオーダーしてくれますよ。少なくとも、私のシフトが被ったときは、紅茶以外飲んでません」
──なるほど、紅茶好きなのですね。
「思わず、お紅茶好きなんですね、って聞いたんですよ。そしたら、『確かによく飲むかもしれないわね?』って、そっけなく返されましたけど」
──はあ。その曖昧で肯定しない感じ、まさに彼女らしいですね。
「で、お渡ししたティースプーンを、エルスティーネさんが落としちゃったんですよね」
──はい。
「私、拾おうとしたんですけど『別にいいわよ』、って。屈んで拾おうとしたら、思わず足に当たって、テーブルの下にくるくる~って入っちゃって」
──あー。なんとなくオチが……。
「それでテーブルの下に潜り込んで手を伸ばして、『あった!』って言った瞬間、テーブルに頭をぶつけちゃって……」
──すごく痛いヤツですね……。
「テーブルの下から出てきたエルスティーネさん、すごく可愛い顔してましてね……フフ……」
エルスティーネさんがその時、どんな顔をしていたかどうかは、彼女は教えてはくれなかった。
「あっ、そういえばこの前、あの『赤犬の群れ』っていう有名な傭兵団の馬車から降りてきたところを見かけましたね。お怪我されてたみたいだし、お仕事帰りだったのかもしれません」
──『赤犬』……ですか。
インタビュアーが思わず呟く。
どうやら彼女と『赤犬の群れ』は、何かしらの関係性があるのだろう。
残念だが、彼女とのインタビューではそれ以上の事は掴めなかったが。
●街人・トムの話
最後はこのピーピング・トム氏である。
一見、普通の好青年だが、もう名前からして不穏である。
何事もなくインタビューを終えられることを祈りたい。祈らせてくれ。
──こんにちは。今回はよろしくお願……。
「キミはエルスティーネたんのパンツを見たことはあるか?」
──この世界、こういう人しかいないんですかねえ?
「僕は」
「僕はな」
「見たことがある」
「たったの一度だけだ」
「でもあの時の光景は──」
「僕の脳裏に焼き付いて離れない」
──??? 早口すぎて聞き取れませんでした。
「忘れもしない。風の強い、砂嵐吹く日だった」
──えっ、ていうか聞いてないんですけど??
「ちょうど彼女が馬車から降りるときだったんだ。僕はね、ただの通りすがり。当たり前さ。僕は彼女の物語にすら入り込めない、ただの街人だから」
「そこに吹き荒れた悪戯な風──わかるかい? あれは僕に幸福を運ぶ風だったんだ」
「大きくめくりあげられたドレス……僕は思わず鼻血吹き泡吹き、その場に崩れ落ちた」
「きらきらと、吹きすさぶ砂とともに輝く黒のパンツ──僕はあの美しさを二度と忘れないだろう」
「でもね、彼女は別にスカートを抑える事もなかった。それがどうしたの? とも言いたげに」
「居るんだ、女神は居るんだよ、僕はそう確信した」
「その時、思ったよ。僕は世界を救えない。彼女に近づく事も触れることも叶わないただの一般人。でもね、彼女のパンツを知っているのは僕しかいないと!!」
──早口すぎて聞き取れないんですk
「僕でも彼女の秘密を知れたんだ!!!!」
──声デカッ!
「もうあんまりにあんまりすぎて彼女の家を覗こうとした」
──コイツ最悪だもう!!
「──そうしたら、汗だくで武器を振るっていた」
──……えっ?
「驚いたよ。もう結構遅い時間だったのに。『強くならなきゃ』──小さくつぶやいて。たった一人、無心で、鍛錬してたんだ」
──影の努力家、だったんですね。
「あんな細腕で……傷つきながら戦ってきたんだなあ……僕たちの生活の為に……ひいては世界の為に……」
トム氏の目には涙すら浮かんでいた。
「そう考えたら愛おしすぎて、もっと深く踏み込みたくなってね。家の窓あたりまで忍び込んだ」
──折角いい話っぽくなったのに!!
「まあ待ち給えよ。そのあとのお風呂タイム──は覗けなかったけど、カーテンの隙間からね、下着姿くらいは見れたから」
──求めてるのはそういうアブノーマルな情報じゃないんですけど?
「黒のスケスケ……そう! スッケスケなんだぞ!? 信じられるか!? なあ!!!! しかも胸が意外と……ムフ」
──ウオアア揺らすな揺らすな!!
トム氏に肩をつかまれ揺さぶられるインタビュアー。
そこに突然、砂嵐がインタビュアーとトム氏に襲い掛かってきた!
「アァーーーッ!! 砂ッ!! 砂埃ッ!!! 目があああッ!!!」
──アァーーーッ!!! こっちまで砂ッ!!!
砂嵐から逃げるために顔を覆いながら走り去る二人。
(インタビュー強制終了)
●おわりに
インタビュアーは無事に砂嵐から帰還できたものの、ピーピング・トム氏は砂嵐の被害で一週間ほど両目が見えない状態だったという。
美女のプライベートを覗き見た報いが両目つぶしとは。因果応報、とはまさにこの事なのだろうか。
だが、彼女の下着姿がその間、彼の闇の世界の中で輝きを与えていたというなら──もしかしたら、彼も満更ではなかったのかもしれない。