SS詳細
甘く蕩ける夜を
登場人物一覧
●ネオンに惹かれて
それを見つけたのは偶然だった。
「お酒と……ソフトクリーム?」
再現性東京の路地で、思わずカツリとヒールを鳴らして立ち止まった。アーリア・スピリッツ(p3p004400)が見つめる先にあるのは、カクテルグラスとソフトクリームの
ドアに手を掛ければ、ウィンドチャイムがシャランと涼し気な音を奏でた。こじんまりとした店内は女性向けの内装で、カウンター席よりも二人掛けか四人掛けのテーブル席の方が多い。インテリアは全て白一色。壁は白い飾り木枠にライトブラウン。客層は分かりきったことだが、女性が多い。
「あら……?」
その中に、黒い装いの白髪の男性がひとり、カウンターについていた。
誰だったかしらぁと首を傾げて視線を横へと逸らせば、壁に立てかけられている特徴的な大きな陣笠が目に入った。ああ、彼は――、
「雨泽くん」
「やあ、こんばんは」
「お隣、いいかしら?」
どうぞと手で示す男――劉・雨泽(p3n000218)の額には赤い宝石のような角。ローレットで見かける時は常に笠を被っているものだから、すぐに気が付かなかった。
「笠の下、初めて見ちゃったかも」
「モテ過ぎると困ってしまうから、内緒にしておいてくれると嬉しいな」
「ふふ、そうねぇ。お姉さん、内緒って好きよ」
くすくす笑いあい、隣りに座って覗き込む。
「雨泽くんは何を呑んでいるのぉ?」
「僕はこれ」
それじゃあねぇと細い指先がなぞるのは、ヴァン・ブラン・カシスの文字。
「お待たせしました」
「ありがとう」
「あら、それは……?」
「君もどう? ここのソフトクリーム、美味しいんだよ」
ふたりの間に置かれたそれは、アイスクリームグラスに載ったソフトクリーム。けれどそのソフトクリームは、喫茶店で見かける
可愛らしいトレイの上にはソフトクリーム以外のものが載っている。
「この小さいのはリキュール。好きな味や色で選んで、ソフトクリームに掛けて食べるんだ。僕は先にお酒を呑みたかったから後から持ってきて貰ったけれど、すぐに用意してもらえるよ」
そうだよね、マスター?
雨泽の目配せに、
「それじゃあ私も頂いちゃおうかしらぁ」
「リキュールは何にする?」
「雨泽くんはぁ?」
「僕はね、水色と紫色と青色」
「ふふ、色で選んだのねぇ」
「口に運んでから何のリキュールか当てるのも楽しいものだよ」
先程のメニューをめくれば、ソフトクリームの項目が現れる。
色で選びたい人用、味で選びたい人用、度数で選びたい人用、とリキュールのページが分かれており、カクテルのページよりいっぱいねぇなんてアーリアが楽しげに笑う。
「うーん、そうねぇ。雨泽くん、選んでくれない?」
「僕でいいの?」
「駄目ぇ?」
「今日会ったことを覚えていてもらいたいからって、僕の色を選んでしまうような男だよ?」
「そんなの、歓迎よぉ」
くすくす、くすくす。互いに笑みを零し合う。
それじゃあと爪紅が彩る指先が辿るのは、白と赤と緑。
「あら、緑?」
「君の彩」
自身の瞳を指差してから、男はマスターと店主を呼んだ。
「雨泽くんは、このお店はよく来るのぉ?」
「この店は最近見つけたから、それ程でもない、かな」
けれど甘いものが好きだから、甘味と酒が楽しめるこの店は常連になってしまうかもしれない。冗談めかした言葉に、普段は受け答えない店主もありがとうございますと笑って、アーリアの前へ酒とソフトクリームのセットを置いた。
「まぁ可愛い」
今日の出会いにの声に合わせてグラスを掲げれば、それがいただきますの合図。
「わぁ、とっても美味しいわぁ」
デザートスプーンを片手に空いている手を口元を隠せば、気に入った? と隣の席の男が覗き込む。
「それじゃあ今度、機会があったら」
「なぁに、おすすめのお店?」
「そ。おすすめの、夜パフェの店へ連れて行こうか」
「夜パフェ!」
「罪な響きでしょう?」
「そうねぇ、お姉さんそう言うの大好きだわぁ」
甘く蕩ける夜は、こうして過ぎていくのだった。
おまけSS『可愛い場所には』
「そう言えばねぇ、今日はどうして笠を外しているのって思っていたの」
「ああ、そんなこと」
だって、と口にした男はアイスクリームグラスの縁を指の腹でなぞり、猫のように笑った。
――ここでは、無粋でしょ?