PandoraPartyProject

SS詳細

あの輝きを、もう一度

登場人物一覧

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
霊魂使い


「まったく、ここ最近の雨はこたえるな」
 花を束ねる合間の世間話で、ラウは深く溜息をついた。『再現性九龍城』は例えるなら違法建築の見本市。誰が始めたか定かでないが、ブロックの様に無数の建物が積みあがったこの砦は、ひと雨降れば思わぬ所が水浸しになる。
「雨上がりでやっと商売が出来ると思ったら、普段使ってるルートが浸水してて回り道に二時間くらいかかってやんの」
「それは災難だったな。繊細な花を運ぶためには、強行突破とは行かないか」
 お疲れ様と労いの言葉をかけたアーマデルの耳に、ふと悲しげにすすり泣く声が届いた。怪訝そうな顔をする劉へ、アーマデルは人差し指を唇に当てて沈黙を促す。声の主は花屋のある広場からすぐ近くの路地にいた。しゃくり上げる少女の元へ近づき、膝を折って目線を合わせる。
「どうした、迷子にでもなったか?」
「ふぇ……ぐすっ…。助けてお兄ちゃん、私このままだと消えちゃうかも」
 少女は不思議な姿をしていた。肌も髪も服の色さえも白くなっている。微かに残った淡い色が、彼女が正常だった頃の彩りを目に訴えて来る。
「前はもっと綺麗だったの。ぴかぴか輝いてたの。それで……」
「嗚呼、大体の事は分かった。すぐ助けてやりたいが、少し準備が必要だな」
 金色の双眸を細めたアーマデルは、何処か少女よりもその先を見るような目つきで語った。不思議そうに円らな瞳をぱちくりさせる少女の手を引いてみれば、伝わる冷たい感触。それを気にせず、アーマデルは花屋のいる広場へと歩いて行く。
「お、戻って来た」
「劉殿、少し聞きたい事があるのだが。この辺の配電は誰が管理しているんだ?」
 突拍子のない質問に驚く劉だったが、顎に手を当て考え込みつつ、周囲の電線に視線を巡らせる。
「俺も別の地区に住んでるから確かな事は言えんが、大抵の奴は電気泥棒だろ。俺だって配線状況が分かれば、ちょちょいと……」
「そういう事をしているから、危ない連中に狙われるんだぞ」
「泥棒は悪い事なんだよ?」
 この人、怖い人なのかな。アーマデルの後ろに隠れて少女が呟く。対する劉はキョトン顔だ。
「……なんか言った?」
「いいや。供給元には俺が許可をもらって来るから、劉殿にひとつ頼まれて欲しい事がある」


「お兄ちゃんって、いろんな人とお友達なんだね!」
「友達……なのだろうか?」
 買い物のついでに一言、二言ほど質問が出来る関係は、果たして友人というべきか。頭の中でぐるぐる考えながら、アーマデルは画材屋を出る。
「色については詳しくないから、お前が来てくれて助かった」
「低身長童顔成人男子!」
 誇らしげに片手を挙げる色彩感覚持ちの( ・◡・*)。だいじょうぶですよ。ただのかわいいもみじですよv
「私、画材屋さんでお買い物なんて初めて! 次もお買い物?」
「いや。買いはしないが寄り道を」
 片手で紙袋を抱え、もう片方の手で少女の手を引き、『再現性九龍城』の中でも拓けた場所へと向かっていく。やがて二人と( ・◡・*)の目に飛び込んで来たのは活気のある飲食街だ。
 露店は食べ歩き用の点心が並び、どの店からもいい匂いが漂ってくる。少女の歩幅に合わせるようゆっくり歩き、アーマデルは通りを歩いた。
「美味しそうな肉の香りだ」
「この匂い知ってる! お兄ちゃん、あれね。魯肉飯ルーローハンって言うんだよ!」
「そうなのか。詳しいな」
「あっちからする甘い香りは桃まんで、そっちのこってりした匂いは魚肉団子!
 わたしのパパが作る度に、お客さんが笑顔になって……あれ?」

(お客さんって誰だっけ? わたしにはパパがいたの?パパは今、どこに――)

「……あ」
 気づいた時には遅かった。少女の目元からぽろぽろと止めどなく大粒の涙がこぼれる。
「私、もしかして、もう……」
 堰を切って溢れた思いが止まらない。泣き続ける少女の手を、アーマデルはぎゅっと握り直した。
「大丈夫だ。約束はちゃんと守るから」


 特徴を伝えた時、画材屋の店主はすぐにピンと来た様だ。水曜日の週替わりランチが魚肉団子のスープで、その日は行列が出来るほど人気だったと懐かし気に語ってくれた。
 閉店の理由は今となっては分からぬものの、ただひとつ確かなのは、その店に店主は帰って来ないだろうという事。
 それを知らず"彼女"はずっとずっと待っていた。過行く日々に、思い出と共に色あせながら――

「準備できたぞ」
「あぁ、点けてくれ」

 数十年の時を経て看板かのじょは色を取り戻し、幸せそうに輝いた。その光の温もりは、アーマデルに"ありがとう"と言う様で。

「自らを人間と錯覚した看板……か。未練があれば物体でも、魂は地縛霊と化すんだな」
「霊? お化けの為にこんな事してたのかよ!?」
 劉の霊感の無さは前から知ってる。今更驚く事ではないが、問題はこの後だ。
「で、電気通ったけど、どうするよこの店」
「うーん。俺の料理で中華屋か」
「低身長童顔毒殺男子!」

  • あの輝きを、もう一度完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2022年01月15日
  • ・アーマデル・アル・アマル(p3p008599
    ※ おまけSS『同人誌『黒ずきんマデル太郎』』付き

おまけSS『同人誌『黒ずきんマデル太郎』』


 昔むかし、あるところに『黒ずきん』という可愛い巫女美少年がおりました。
「おい、前説から何かおかしくは無いか?」
 いいえ、ちっともおかしい所はありません。お使いの蒼矢ナレーターは正常です。
 ある日のこと、『黒ずきん』は育ての親からお使いを頼まれました。森の奥にある、イッヌミミーという薬草を摘んできて欲しいというのです。
 名前からしてもう出オチなぐらい嫌な予感がしましたが、かしこい黒ずきんは、ごね損になるくらいなら、とっととやる事を片付けてしまおうと思いました。

「イッヌミミーというからには、やはり犬耳の形状をした薬草なのだろうか。しかし一口に犬耳といっても犬種によって大分かわるだろうし、見極め方が難しいな……」

 考えながらトコトコ森の中を歩いていると、ふと――目の前に黒い影が落ちました。
「へい、そこの黒いミニスカがよく似合ってる黒ずきんさんよ。草カフェのハーブクッキー、ひとつ俺にくれないか?」
 見上げるとそれは『境界案内人』の神郷 赤斗とかいうのによく似た顔の猿でした。
「おい、もうちょっと正体分かりづらくぼかして説明しろよ」
 えー。だって赤斗ならプライバシーとか無いし。僕ら特異運命座標を引き立てるための働き蜂だからねぇ?
「身も蓋もない事言わない!!」
「この猿、ナレーターと会話している……おとぎ話の世界で、なんて無作法な奴なんだ」
「いや、アーマデルも最初に思いっきり蒼矢と話していただろう? 何でそんな対応が辛らt……」
 シュカカカッ! スパーン!!
「ぎゃーー!?」
『しまった』と黒ずきんは血濡れた蛇鞭剣ダナブトゥバンを手にしたままハッとしました。
 尺の都合で話のオチがつかなくなると思ったら、つい手が滑ってしまったのです。
 アーマデルは過去にも何度かおつかい中に『しまった』した事がありました。その度に霊魂疎通で謝るのですが、「ごめんで済むか」と言われるばかりで大抵の場合、解決しません。
 なので今回は潔く、死体も霊もそのまま放置する事にしました。

(猿が出てきたという事は、この後に雉と犬が出てくるかもしれない。というか題材、赤ずきんではなかったのか?)
 そこには『大人の事情』というものがありました。だってアーマデルはフード似合うし。可愛いミニスカ履かせたかったし。
 零れる太もものチラリズムだけで有閑マダムが殺到し、この同人誌えほんは爆売れ間違いなしって寸法よ!
「頭巾よりもナレーターの心の方が黒いぞ、このおとぎ話」
 何はともあれお使いです。黒ずきんは仕方なく森の中へと入っていきます。すると物陰から音もなく、一匹の大きな犬が現れました。
「おい、お前。ここから先へ行かせる訳にはいかない。通りたくば俺を倒してから行け」
「イッヌミミーだ。森の奥まで行かなくても良くなったな」
「……待て、何だそのわきわきとした手つきは。というか少しは怖がれ、お前もしや正気ではないな!?」
「俺はしょうきだ。この上もなくおちついているぞ、師兄犬」
 真顔で答えるアーマデルに、犬はキャンキャン吠えながら後ずさりました。それでも黒ずきんの魔の手は迫り、そして――
「こんな奴と『糸』を紡いでたまるかーーー!!」
「どうした、そんな面白い声をあげて。そうか、これがふれっしゅな悲鳴というやつか……案外、悪くないな」


 森の中の花畑で、心地よい日差しを浴びながら黒ずきんはすぅすぅ寝息を立てています。
 傍らにはもふもふの犬。ひと騒ぎの後、犬は黒ずきんを放っておけず、イッヌミミー摘みを手伝いきってしまったのでした。
(成り行きでそのまま一緒に過ごす事になるとは。まぁ……ちょうど『後進』になる奴を探していたところだし、ついでだという事にするか)
 これもまた撚りあう運命。温もりを確かめる様に犬はその手を黒ずきんに伸ばし、優しく触れようと――
 シュカカカッ! スパーン!!
「そんなことって、ある……か…」
「あっ……『しまった』」

 めでたし、なのか……?

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