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それでも生きて、
登場人物一覧
- 恋屍・愛無の関係者
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恋屍・愛無は夢を見る――。
彼の仮想空間での出来事を、胡蝶の夢と見るならば。
R.O.Oでの出来事は、ある意味でもう一つの現実であり。
真読・流雨が胡蝶であったならば。
恋屍・愛無とは、真読・流雨がみる夢かも知れぬ。
星喰いとは、ある意味で
恋屍・愛無は夢を見る。
真読・流雨は夢を見る。
その境界があいまいになった時に、目の前に一匹の怪物が居た。
これは夢である。あの決戦の時の、夢である。
愛無は/流雨は、それを知っている。
まるで昨日のことのように思い出す。まるで昨日のことのように演ぜられる。
だから目の前にそれに、愛無は/流雨は、あの時のように言った。
「星喰い……僕にはパラディーゾはいなかったが、もしいたとしたら、君がそうなのだろう。
そう、君は僕なのだ。他者の存在は全て餌でしかなく、他者の存在を必要としない存在。満たされぬ飢えのみで動く怪物。
この世界がイフの世界でもあるならば。バグが星喰いの姿を取ったのも意味があったのだろう」
君は僕の鏡像であった。或いは、元の世界で相対したあの時から。
元の世界のあの時は、邪魔者でしかなかった。
今は、明確な敵であった。
元の世界のあの時は、守るべきもののために戦ったわけではなかった。
今は、守るべきもののために戦っている。
「お前は変わらないのだな。正確には、お前は僕の知っている星食いではないのだろう。
だが、何の因果だろうな、世界に生まれたバグは『星喰い』の姿を取った。
僕たちのデータを得る過程で、にじみ出た怪物の姿を、『お前』はとった。」
あの時の決戦と同じように、身体が動く。これは再現だ。結果が変わるわけではない。世界が分かるわけではない。
ただ、もう一度演じることで、何かが――自分の中で何かが動き出すのだろう、と、愛無は/流雨は、思う。
跳躍する。デスカウントが齎してくれた力を思い出すように。空中で、星喰いと対面する。
酷くボロボロだった。
まるで泣きだしそうじゃないか。
愛無は/流雨は、思う。
でも、痛くて泣いているのでないのだろうね。
苦しくて、苦しくて。
飢えているから泣いているのだろうね。
知っているよ。それは呪いだ。
生命が生まれた時から植え付けられた呪いだ。
生きねばならぬ。食わねばならぬ。
生命に、生まれた理由も意味もない。
すなわち、生きる事。
血反吐を吐き、戦い、誰かを傷つけ、傷つけられて。愛し、愛され、裏切られて、踏みにじられて、苦しくても、辛くても、泣きたくても、泣けなくても――。
生き続ける事。
「最近思うのだよ。でもそれは、きっと尊い
あの時のように、身体が動く。ぶうん、と振るわれた巨大な腕を、愛無は/流雨は流れに身を任せるように気流に乗って回避した。ターン。体をひねって、全力で爪を叩きつけてやる。切り結ぶ、とはこのような感覚か。剣豪がそうするように、刃を打ち奮わせる。
「そんなにいいものではないか。僕らは怪物だ。喰らうだけの怪物。
でもな、星喰い。僕はあの時とは違うのだ」
愛無は/流雨は星喰いの身体に着地してみせた。あの時のトレース。知っている。すぐに、ボロボロの背中の角から、悲鳴みたいに雷を降らす。僕はそれをよけきれなかった。知っている。だから今も、その痛みが身体を駆け巡る。
何度も、夢の中で死を体験しながら、すぐさまにあの時のようにリスポーンして走る。
元の世界で相対した時は、確か対等なサイズだったと思う。いや、あの時も、これくらいサイズ差があったかな。ふわふわと思考が揺れるのは、夢の中だからか。
でも、君と相対した時のことは忘れていない。三日三晩、じゃれあったなぁ。最後に僕が君を喰らった。二度と食べたくない味だった。正直不味かったよ。
でも多分……違うのだ。
味ではなかったのだ。
あれは、萌芽だったのだ。
僕が変わるための萌芽。
いや、芽ですらなかった。
あの時、確かに、僕という土壌に、種が植え付けられたのだ。
あれは、君が食らった絶望の味だ。
君が食らい続けた、助けを求める人の希望、それが潰えた時の味だ。
今なら分かる。
混沌世界に来て、誰かと出会い。誰かと戦い。誰かの愛に触れて。
愛など無いと騙る僕が、変化という花を芽吹かせた今は。あの時の味の意味が。
「センチメンタルな感情だ。僕が、そんな風に思うなんて」
でも、心地よい。
「なぁ、星喰いよ。
様々な出会いが、僕を変えてくれたんだ。その出会いにはきっと、お前も含まれているんだ。皮肉だがね。
そして守りたいものも、多くできた。
この世界も。僕にとっては守りたいものの一つなのだ。星喰い。
もう一度、決着をつけよう。今ここで。
だが……僕はあの時より、ずっと強い。守るべきものを知ったのだから」
あの時のように言葉を紡ぐ。
戦いの結末は知っている。
多くの者たちが戦い、死力を尽くし。
自身もその一端を担って。
ようやく、怪物はその姿を消した。
その結末をなぞる。その戦いをなぞる。
強烈な熱線が、愛無の/流雨の身体を擦過する。近づいただけで焼けただれそうなそれを受けて、自分の身体が地に叩きつけられる。
「この世界に、お前の居場所が存在しないなら、お前を糧に僕は生きていこう。
生きるという事は、喰うという事で。喰うという事は殺すという事なのだから」
ゆっくりと立ち上がりながら、愛無は/流雨は、そう言った。
「――『守りたいモノは守る。狩りたいモノは狩る』
変わっていくモノ。変わらないモノ。それが変わらぬ僕の生き方なのだ」
言葉を紡ぐ。確認するように。伝えるように。言い聞かせるように。
刹那、目の前の星喰いの姿が、自分の姿に重なって見えた。
かつての自分。
喰らう事しか知らなかった自分。
今は違う。
決着をつけよう、星喰いよ/愛無よ。
乗り越えて行こう、お前を。
お前を糧にし、かつてのお前と共に生きよう。
自分なりのやり方で、命を繋ぎ、命を奪い、命を伝え、命を育もう。
それが――。
僕の生き方なのだから。
決着がどうなったかを知っている。
だからこれ以上、夢を見る必要はない――。
愛無は目覚める。夢から、現実へ。だが、夢の中の経験は、想いは、現実の心に、確かに楔を打ち込んだのかもしれない。
もう二度と、あの時の夢は見ないかもしれない。
自分は本当に、お前を喰らったのだから。
お前を糧にして、生きよう。
これからも誰かを、守って生きよう。
力及ばず、守れないことがあるかもしれない。
大切な誰かを、傷つけてしまうかもしれない。
生きることは、辛く、苦しく、餓えて、飢えて。
それでも、生きて、
命は巡るのだろう。まだ終わることのない旅路の途中に、愛無はいる。
その到着地がどこになるのかは、きっとその時にならなければわからない。
ただ、奪った命も、守った命も、次の命に必ずつなげて、生きていくのだと。それこそが、生きるという事なのだと――。
愛無は、そう思った。