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それでも生きて、

登場人物一覧

恋屍・愛無(p3p007296)
獏馬の夜妖憑き
恋屍・愛無の関係者
→ イラスト

 恋屍・愛無は夢を見る――。
 彼の仮想空間での出来事を、胡蝶の夢と見るならば。
 R.O.Oでの出来事は、ある意味でもう一つの現実であり。
 真読・流雨が胡蝶であったならば。
 恋屍・愛無とは、真読・流雨がみる夢かも知れぬ。

 げんじつと、きょこう。その両方に共通し、二人の前に立ちはだかったのが、あの『星喰い』であるならば。
 星喰いとは、ある意味で現実ゆめであったのかもしれぬ。
 恋屍・愛無は夢を見る。
 真読・流雨は夢を見る。
 その境界があいまいになった時に、目の前に一匹の怪物が居た。

 これは夢である。あの決戦の時の、夢である。
 愛無は/流雨は、それを知っている。
 まるで昨日のことのように思い出す。まるで昨日のことのように演ぜられる。
 だから目の前にそれに、愛無は/流雨は、あの時のように言った。
「星喰い……僕にはパラディーゾはいなかったが、もしいたとしたら、君がそうなのだろう。
 そう、君は僕なのだ。他者の存在は全て餌でしかなく、他者の存在を必要としない存在。満たされぬ飢えのみで動く怪物。
 この世界がイフの世界でもあるならば。バグが星喰いの姿を取ったのも意味があったのだろう」
 君は僕の鏡像であった。或いは、元の世界で相対したあの時から。
 元の世界のあの時は、邪魔者でしかなかった。
 今は、明確な敵であった。
 元の世界のあの時は、守るべきもののために戦ったわけではなかった。
 今は、守るべきもののために戦っている。
「お前は変わらないのだな。正確には、お前は僕の知っている星食いではないのだろう。
 だが、何の因果だろうな、世界に生まれたバグは『星喰い』の姿を取った。
 僕たちのデータを得る過程で、にじみ出た怪物の姿を、『お前』はとった。」
 あの時の決戦と同じように、身体が動く。これは再現だ。結果が変わるわけではない。世界が分かるわけではない。
 ただ、もう一度演じることで、何かが――自分の中で何かが動き出すのだろう、と、愛無は/流雨は、思う。
 跳躍する。デスカウントが齎してくれた力を思い出すように。空中で、星喰いと対面する。
 酷くボロボロだった。
 まるで泣きだしそうじゃないか。
 愛無は/流雨は、思う。
 でも、痛くて泣いているのでないのだろうね。
 苦しくて、苦しくて。
 飢えているから泣いているのだろうね。
 知っているよ。それは呪いだ。
 生命が生まれた時から植え付けられた呪いだ。
 生きねばならぬ。食わねばならぬ。
 生命に、生まれた理由も意味もない。
 根源オリジンたる本能プログラムがあるだけだ。
 すなわち、生きる事。
 血反吐を吐き、戦い、誰かを傷つけ、傷つけられて。愛し、愛され、裏切られて、踏みにじられて、苦しくても、辛くても、泣きたくても、泣けなくても――。
 生き続ける事。
「最近思うのだよ。でもそれは、きっと尊い 呪いねがいなのだ」
 あの時のように、身体が動く。ぶうん、と振るわれた巨大な腕を、愛無は/流雨は流れに身を任せるように気流に乗って回避した。ターン。体をひねって、全力で爪を叩きつけてやる。切り結ぶ、とはこのような感覚か。剣豪がそうするように、刃を打ち奮わせる。
「そんなにいいものではないか。僕らは怪物だ。喰らうだけの怪物。
 でもな、星喰い。僕はあの時とは違うのだ」
 愛無は/流雨は星喰いの身体に着地してみせた。あの時のトレース。知っている。すぐに、ボロボロの背中の角から、悲鳴みたいに雷を降らす。僕はそれをよけきれなかった。知っている。だから今も、その痛みが身体を駆け巡る。
 何度も、夢の中で死を体験しながら、すぐさまにあの時のようにリスポーンして走る。
 元の世界で相対した時は、確か対等なサイズだったと思う。いや、あの時も、これくらいサイズ差があったかな。ふわふわと思考が揺れるのは、夢の中だからか。
 でも、君と相対した時のことは忘れていない。三日三晩、じゃれあったなぁ。最後に僕が君を喰らった。二度と食べたくない味だった。正直不味かったよ。
 でも多分……違うのだ。
 味ではなかったのだ。
 あれは、萌芽だったのだ。
 僕が変わるための萌芽。
 いや、芽ですらなかった。
 あの時、確かに、僕という土壌に、種が植え付けられたのだ。
 あれは、君が食らった絶望の味だ。
 君が食らい続けた、助けを求める人の希望、それが潰えた時の味だ。
 今なら分かる。
 混沌世界に来て、誰かと出会い。誰かと戦い。誰かの愛に触れて。
 愛など無いと騙る僕が、変化という花を芽吹かせた今は。あの時の味の意味が。
「センチメンタルな感情だ。僕が、そんな風に思うなんて」
 でも、心地よい。
「なぁ、星喰いよ。
 様々な出会いが、僕を変えてくれたんだ。その出会いにはきっと、お前も含まれているんだ。皮肉だがね。
 そして守りたいものも、多くできた。
 この世界も。僕にとっては守りたいものの一つなのだ。星喰い。
 もう一度、決着をつけよう。今ここで。
 だが……僕はあの時より、ずっと強い。守るべきものを知ったのだから」
 あの時のように言葉を紡ぐ。
 戦いの結末は知っている。
 多くの者たちが戦い、死力を尽くし。
 自身もその一端を担って。
 ようやく、怪物はその姿を消した。
 その結末をなぞる。その戦いをなぞる。
 強烈な熱線が、愛無の/流雨の身体を擦過する。近づいただけで焼けただれそうなそれを受けて、自分の身体が地に叩きつけられる。
「この世界に、お前の居場所が存在しないなら、お前を糧に僕は生きていこう。
 生きるという事は、喰うという事で。喰うという事は殺すという事なのだから」
 ゆっくりと立ち上がりながら、愛無は/流雨は、そう言った。
「――『守りたいモノは守る。狩りたいモノは狩る』
 変わっていくモノ。変わらないモノ。それが変わらぬ僕の生き方なのだ」
 言葉を紡ぐ。確認するように。伝えるように。言い聞かせるように。
 刹那、目の前の星喰いの姿が、自分の姿に重なって見えた。
 かつての自分。
 喰らう事しか知らなかった自分。
 今は違う。
 決着をつけよう、星喰いよ/愛無よ。
 乗り越えて行こう、お前を。
 お前を糧にし、かつてのお前と共に生きよう。
 自分なりのやり方で、命を繋ぎ、命を奪い、命を伝え、命を育もう。
 それが――。
 僕の生き方なのだから。
 決着がどうなったかを知っている。
 だからこれ以上、夢を見る必要はない――。

 愛無は目覚める。夢から、現実へ。だが、夢の中の経験は、想いは、現実の心に、確かに楔を打ち込んだのかもしれない。
 もう二度と、あの時の夢は見ないかもしれない。
 自分は本当に、お前を喰らったのだから。
 お前を糧にして、生きよう。
 これからも誰かを、守って生きよう。
 力及ばず、守れないことがあるかもしれない。
 大切な誰かを、傷つけてしまうかもしれない。
 生きることは、辛く、苦しく、餓えて、飢えて。
 それでも、生きて、

 命は巡るのだろう。まだ終わることのない旅路の途中に、愛無はいる。
 その到着地がどこになるのかは、きっとその時にならなければわからない。
 ただ、奪った命も、守った命も、次の命に必ずつなげて、生きていくのだと。それこそが、生きるという事なのだと――。
 愛無は、そう思った。

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