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モブから見たオラボナ=ヒールド=テゴス
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回は絶対不沈の黒き影、オラボナ=ヒールド=テゴスさんについて密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はオラボナさんに詳しいという方にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●研究家・ジョージの話
今回はジョージ氏にお話を伺う。
穏やかな態度だが、どこか挙動が不自然である。
研究家と伺ったが、何を研究しているかは教えてはくれなかった。
──本日はよろしくお願いします。
「ああ、どうも。どうぞよろしく」
──さっそくですが、オラボナさんについて知っていることを教えてください。
「はい。あの方は見上げるほど大きいでしょう。つい先日も甘味処で、山盛りのお菓子を食べていらっしゃいました」
──甘味処ですか。少々意外ですね。甘いものがお好きなのは有名なお話ですが。
「そうでしょうか? あれだけの大きさを誇るのです。やはりエネルギーは普通のヒトより必要なのではないでしょうか。となると──自分で作ったり買うよりも、店に食べに行くほうが手軽ですからね」
──ははあ、なるほど。
「そしてあの方を語るには外せないのは、珈琲一割牛乳九割角砂糖十個蜂蜜多量。まるで呪文でしょう?」
──ニンニクヤサイマシマシみたいなものでしょうか。
「私はそっちのほうがよく分かりませんが……まあ、そんなものでしょう。あの方が好む珈琲のレシピと聞きます」
──もう珈琲と言うよりはほぼ牛乳でしょうけども。そのほか、何か知っていることを伺っても?
「後は……そう、ローレットの依頼だったのでしょうか。愚かなヒトが、あの方を殴りつけようとしているのを見ました。
しかし、どうですか。あの方は愉快そうに嗤いながら、其の者の顔面にケーキを擦り付けているではありませんか」
──ええ……ケーキを顔面に……。
「そして幾度となく攻撃を受けても、あの方は斃れない。『果ての絶壁』。そそり立つ黒の壁。ああ、素晴らしい」
──確かに体力自慢という噂は聞いたことがありますが……。
「体力自慢などと、あまりに矮小な言葉。あの方は『無窮にして無敵』。魔種が居ようと、この世界はあの方が居れば安泰です」
──無窮にして無敵……?
「いかにも。あの方が滅ぶことは絶対に無いでしょう。あの方が滅ぶときは世界すべての終わりなのです」
──はあ……なるほど?
「そしてあの方は時折、『何処か』を見て話していらっしゃる」
──『何処か』、ですか。
「まさにヒトを超越したもの。あれは──神か、悪魔か。いや、上位存在か?
私のような者にはあの方の言っていることはほとんど理解できませんが、そこがミステリアスで非常に魅力的です」
──確かに、オラボナさんの独特で難解な言い回しに、会話が難しいと感じる方もいらっしゃるようですね。
「そうですね。何を言っているかわからないから、怖い。そこがまた惹かれるのですけれども」
──怖いからこそ、ですか。
「ええ、ヒトはよく分からないものは忌避する傾向がありますが、私はそういうものを見ると、調べずにはいられない」
──まさに研究家らしいお言葉です。
「それと、見ているのです。見ている、そこのあなた。あの方を信じ、称えなさい。いいですか」
──はい?
「いいですか。あの方が居れば安心なんです。ふふ……」
──どこを見て、誰と喋っているんです?
不穏な気配を感じ取ったインタビュアーは、インタビューを打ち切ることにした。
──……はい、もう大丈夫です。インタビューは以上で終わりにしましょう。
「そうですか……では、私はこれで」
──はい。今回はありがとうございました。
●おわりに
結局、オラボナさんについては『何か』よく解らない──という結論を下すほかなかった。
甘いものが好き。倒れない。
それは人々のよく知る有名な事実であり──そう、いまさら取材して手に入れるほどの情報ではない、ということだ。
我々は必死に情報をかき集めてみたものの、結局ジョージ氏が話した以上の事はわからずじまいであった。
また、我々がインタビューしたジョージ氏も、精神的に『参ってしまっている』人だといううわさも聞いた。
そのジョージ氏も今現在行方を掴めない為、我々は彼の残したインタビュー文をそのまま書き起こす他無かった。
我々にとって、これは断腸の思いで出した結論である事を理解してほしい。