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【幻想世界アーレイベルク】キドーの村生活体験記
登場人物一覧
●キドーとミヤコ
幻想世界アーレイベルク。
そこはライブノベルの世界の一つであり、境界案内人ミヤコの出身世界でもある。
どのような世界かと問われれば。
誰しもが想像するようなファンタジー世界である。しかも平和。
この世界に住んでいるのは人間族はもちろん、エルフ族にドワーフ族。獣人族に妖精族。
その他諸々。
そして
ーー……。
すっと武器を構えるミヤコ。眼前にいるのは一匹のゴブリン。
先程この世界は平和だ、とは言ったがそれでもトラブルが無いわけではない。
あったとしても自警団などが対応出来るレベルなのだ。
極稀に危険なドラゴンが現れて国の軍隊が出動したり、という事もなきしにもあらずなのだが……。
「待った待った!俺は敵じゃねえ!」
軽く目を見張るミヤコ。
この世界のゴブリンは畑を荒らしたり金品を強奪したりはするが、人語は基本的に解さない。
「アンタ、あれだろ。境界案内人のミヤコだろ?」
ーーそういう君は……
武器を下ろすミヤコ。
「ああ、そうだ。俺はキドー (p3p000244)。混沌じゃ盗賊やってる」
ーー……武器を向けて悪かったね。私はミヤコ。君の言う通り境界案内人だ。
一瞬やはり追い払うべきだろうかと考えるミヤコだったが、とりあえず自己紹介をする事にした。
何も起きないように自分が見ていればいい。
ーーそれで?なぜ君がここにいるんだ。案内した覚えはないんだが。
「ああ、それなら」
聞けば暇だったからライブノベルに行こうと思い立ち、中年の境界案内人を捕まえたらしい。
その案内人とは恐らくミヤコの仲間である海(カイ)だろう。
ーーなるほど。それならわたしの故郷を案内するけど、どうだい?
「いいのか?」
ーーもちろん。まあ、仕事を手伝ってくれると嬉しいんだけどね?
思わず顔をしかめる。
ーー暇なんだろう?あと……
首を傾げるキドー。
ーーただまあ……。アーレイベルクのゴブリンも厄介者だから、ね?
「問題ねえよ」
先程のミヤコの反応を見ればお察しである。
それに元々混沌世界ではみ出し者であるギドーからすればなんら問題はないのだろう、まったく気にした様子はない。
キドーを連れてミヤコは歩みを進めるのであった。
ーー……ちなみに君を案内したという案内人は?
「ああ、あいつなら帰った」
●リーシェ村で農作業
リーシェ村。
ここはミヤコの故郷である。
畑、牧場、養鶏場、学校に教会やら図書館。いずれも小規模ながら施設はそれなりに充実はしているようだ。
村自体ものどかで平和そうな場所だ。
平和そうなのだが、村にゴブリンが現れた為に騒然としていた。
ーー待って待って、彼は……
鍬やら鋤やらでキドーを追い払おうとする村人。必死に止めるミヤコ。
一悶着。そして
ーーああ、ごめんね?なんか散々な事言ってたけど……。
アーレイベルクのゴブリンは厄介者である以上、キドーと同一視してしまうのも致し方ないのかもしれない。
が、やはり別世界の住人に自分達の事情を持ち込みたくはない。
今回はミヤコがキドーを見張る事を条件に事なきを得たが、元より共に過ごすつもりだったので問題ない。
「それで、俺は何をすればいい」
ーー君には……そうだな。力仕事をやってもらおう。
ギドーが手渡されたのは鍬だった。という事は間違いなく
「……畑仕事か?自慢じゃねえが、そんなに力ねえぞ」
キドーのフィジカルは7。恐らく初期値である。
ーーぼやかないぼやかない。
大人しく畑を耕すキドー。
土を柔らかくし。邪魔な石はどかし。そして今度は手作業で種を植えていく。
見た目以上にハードな重労働である。農作業用の機械はないのだろうか。あったとしても金がなくて買えなさそうではあるか。
「ところでこれ、何の種だ?」
ーーそうだな、君達にわかりやすいものに例えるなら……そら豆やらアスパラガスやらだよ。
世界が違えばその世界に住む固有種も違ってくるのも自明の理である。
混沌世界にもそれらはあるが
ーー作業も終わったし、休憩したら次に行こうか。
「まだあるのか?」
げっそりするキドーであったが
ーーぼやかないぼやかない。
どうやらミヤコは聞き入れるつもりはないらしい。
●狩猟
畑仕事で手に入れた作物の一部は村の備蓄に。余った物は売り物として他所で売られる。
だが、それだけでは暮らしていけない。生活とは色々と金がかかるものである。
「それで、狩りか」
ーーうん。食べ物の確保もあるけど毛皮とか使えるからね。
それに生態系バランスを保っていないと後々困る事になる。
「それなら……ほれ、そこにいるぞ」
村の近くにある森の中。
キドーが指し示す方へ見やると木陰に隠れている鹿らしき獣。
ーーよく見つけられたね?
「盗賊だからな」
隠そうとしているモノを見つけるのは盗賊として当然のスキルと言えるだろう。
それにしても……
「お前、手慣れてんな」
ミヤコもミヤコで自分で獲物を見つけ、弓矢で射抜き。
そして罠も仕掛けていく。
ーーまあ、この村じゃ子供の時から仕込まれるからね。
狩りそのものはある程度年齢を重ねてからにはなるが、獣や罠に関する知識や技術は早い段階で仕込まれるのだそうだ。
ーーうん、こんなもんかな。それじゃ帰ろうか。
「もういいのか?まだいけるが」
ーー狩りに来てるのは私達だけじゃないし、何より獲物が増えすぎても持って帰れないだろう?
そりゃそうだ。
各自仕留めた獲物を携え、帰路に就くのだった。
●それから
獲物を持って帰ってきたキドー達。
折角だからという理由で何故か獲物を解体する事になったキドー。
血抜きをし、獲物を洗い。内臓を取り出して冷やし。
そして解体に至るまでの作業を順次、やり方を教えてもらいながら解体するキドー。
血には慣れているのか、嫌な顔一つしない。
とはいえ、解体作業自体時間がとてもかかる。
全部終わった頃には既に夜中である。
「つ、疲れた……」
ーーあはは、お疲れ様。お腹が空いただろう?食事の用意ができているよ。
用意されていたのは今日狩って来た獲物を使った鍋物だった。
ご丁寧に酒の用意までされている。
ーー君、イケる口だろ?
「いいのか?」
ーーもちろんだ。今日は君を振り回してしまったからね。存分に飲んでくれたまえ。
村人もキドーと過ごすうちに彼に慣れたのであろう、気さくに話しかけてくる。
これからは呑兵衛達の夢の時間。彼らの1日はまだまだ終わらない。
おまけSS『『日常』に戻っていく者』
混沌世界。
境界図書館から帰ってきたキドーはアーレイベルクの事を思い返していた。
何の変哲もない普通の日常。
そりゃ生活を脅かすモンスターやらなんやらはいるだろう。
自分だってそのうちの1人だという自覚はある。
なんてったって盗賊なのだから。それにゴブリンが『そういう目』で見られている事も知っている。
混沌における奴らだってそうなのだから、他所の世界が違うとは言い切れない。
「悪くはなかったがな」
もしもっと別の人生を送っていたとしたら、ああいう生活も悪くはないのかもしれない。
首を軽く振る。
こんな『たられば』の話など自分らしくない。
だが、充実した1日ではあった。いい暇潰しにはなった。
「くっくっく」
新たな酒飲み仲間も見つけられて大満足である。
あの海(カイ)とかいうおっさんもきっとイケる口だろう。
次に何かしらの縁があればあの男を誘ってーーその時はミヤコも一緒に誘ってもいいだろうーー酒盛りというのもまた一興だろう。
そんな事を思いつつ彼は『仕事』の準備をするのだった。