PandoraPartyProject

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灯篭の灯に照らされて

登場人物一覧

八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
八重 慧の関係者
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 秋祭り、一年の豊作を祝い次の年の恵みを願う豊穣の催しに名を付けるなら、こう呼ぶのだろう。
 星々の代わりに漆黒の空を彩るは、広場を彩る無数の灯篭。極彩色の看板を抱えるいくつもの屋台を人々は眺め、通り過ぎていく。
 ゴトンと硬質ゴムと木がぶつかる重い音が鳴り、若い女性の興奮した声。
「やったっ、入った!」
 両手の平を合わせはしゃぐその女性、百華は珊瑚色の髪をしならせ喜びのポーズを取った。輪投げの板の周囲に散らばる幾つもの残骸とその手にいくつかまとめて握られている輪は彼女の長い『戦』の跡であろう。投げ輪を入れる、漢数字を振られた板の向こう側にある無数のぬいぐるみの一つが屋台の主である男の手によって、百華の元へと送られる。
「主さん、お上手っす」
 景品の大きなぬいぐるみを抱きかかえ喜ぶ百華に対し慧は目を細め、彼女を讃える様に拍手を送った。地元から敢えて遠くの地で豊穣の浴衣に身を纏い、感情を表情に乗せ発露する二人の姿は彼らを知る者からすれば少しの違和感を抱かせるかもしれない。
「けーちゃんのアドバイスのおかげだよ、ありがとね!」
「どういたしまして、また主さんが力任せになった時は言わせてもらうっすよ」
「あっ、言ったなー!」
 膨れて慧をぽかぽかと叩く百華の様子に気を取られた道行く人たちはこう思うだろう。仲の良い主従であると。
 それが精霊種と鬼人種の男女に対するこの国の常識であったし、実際問題慧は百華の護衛で来ているのだからその通りであるのだが、彼らのそれが敬意以上の関係からもたらされていると気付いたものはどれほどいるだろうか。
「それより主さんどうするっすか、まだ輪っかが残ってるっすよ、早く投げないと」
「あっ、そうだった」
 目を細めて慧から離れた百華は額に手を当て、棚にまだ飾られている小さなぬいぐるみ達を眺め苦悶の声をあげる。
「どうしようかな、このままやめてもいいけど、もう1個狙えって言われるとどの子も欲しくなる……!」
「流石の主さんも、全部は破産しちゃいますよ」
「可愛い物には逆らえないし! ねえけーちゃん、どうしよう?」
 どうやって選べばいいかな――主人のそんな悩みを解決するために、慧は幾秒か頭の中で言葉を選び練り上げた助言を百華の元へ。
「そうっすねー、主さんが一番他の人に取られたくないって思った物を狙いましょう」
 百華の目が大きく見開かれる。おろおろと動揺する百華の様子に思わず慧の頬が緩んでしまう。それはふと浮かんだ悪戯心から現れたものであった――主はこう言えば余計に悩むと、わかっていた。
「え、ええ、そんな事言われたら……えいっ!」
 だが、百華は慧の思っていたよりも早く意を決し、下手投げで輪を放り投げると、コトン。
「何すか、これ」
 頭が何かに引っ張られるような感覚、気づけば自らの角にぷらぷらとぶら下がる赤い輪。不可思議なものを見た慧の表情を眺め、百華は上機嫌そうに大きな声で。
「けーちゃんが言ったんだよ!」
「俺景品すか」
「そうそう、ちゃんと取ったよ。おじさんも良いよね?」
「はは、こんなの見せられちゃあな、輪っかごと持っていきな!」
 呆気に取られている間に勝手に事が進んでいくではないか。思わず慧は顔を地面に向けて首を振るしかなかった。なんとも恥ずかしい、してやられたとはこの事か。
「そんならちゃんと持ち帰ってくださいね、キャンセルは無しですよ」
 諦めた慧に対し百華は迷いなく両手で手首を握りしめ応える。困ったようにもう片方の手で首を擦る慧もお構いなく、彼女は大きな声で答えるのであった。
「もっちろん!」

「お腹、空いたね」
「大分長い間輪投げしてたっすからね」
 再び二人は人々の喧騒の中へと躍り出る、百華の後ろを、慧が彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。力強く握りしめ、それでいてか細い手で、引かれながら。
「じゃああっちにいかない? さっき通りすがりに見たんだけどネオ・フロンティア風のお祭りの出し物とかで――」
 ああ、こういう時に彼女は、良くこんな事を言っていたはずだ。

「付いてきて、けーちゃん!」
(なんすか、けーちゃんって――)
 ふと、頭の中を過ぎたその『返事』に、慧は思わず一人小さく噴き出してしまう。
 そういえば、初めて会った日もこうやって、半ば無理やり手を引かれ彼女の家へと行ったものだったか。あの日、名も無く泥に薄汚れた、吐き捨てるべき鬼人種の己の手首を、彼女は何も躊躇う事無く掴んだ。
『アレが無ければどうなっていたか』などは、考えない。彼女が自分を信じてくれている限り、彼女の与えてくれた居場所が、名前が、自分の全てだ。俺はこの名以外ではありえない。
 荒唐無稽と言われ様とも命続く限り、彼女の幸福につながる全てを満たすのだ――と

「けーちゃん?」
 強く腕を引かれ前の方を見ると、百華のきょとんとした顔。
「どうしたの? 他に見たい屋台あった?」
「いや――」
 地上の光に星がほとんど見えなくなった空を見上げ、慧はかみしめるように。
「俺は、幸運だなぁって思っただけですよ」
「……けーちゃんったら」
 灯篭の橙色の灯に照らされてか、百華の顔は暖かく。そっと俯くと、慧の後ろへと周り、ぎゅっと、布を掴む音。
「護衛される側が後ろにいたんじゃダメじゃないっすか」
 にやける慧の背に頭を乗せ、拗ねた声。
「レディーファーストって言うんでしょ、先に行ってよね」
「……へい」
 今度は自分が、主の手を握り閉める。いつからだろうか、自分がこうして主の手を握り歩みたいと思ったのは、彼女より力強い歩みで共に歩みたいと願ったのは。この思いは辞書に乗っているどの言葉でも言い表せそうで、同時に言い表せそうにもない。けれど、一つだけ今ここで言葉を出して締めくくるのだとしたら、それは『幸福』というものなのだろう。
「……あ、花火」
 百華の声に空を見上げると、風を切る火薬の音が響き、空に大輪の光の華が咲きほこる。一つ、二つ、三つ、たくさん。空に浮かぶそれを数えながら、二人はゆっくりと、長い夜を愉しみ尽くそうと誓うのであった。


 瞳を開ける。目の焦点が合い、歪んだ景色が形を取る。手には輪投げの輪、赤に塗られたそれは、少し色が落ちて所々が白く濁っている。
 ……随分と、鮮明な思い出の中に浸っていた様だ。瞼の裏には、今も思い出の日々が焼き付いている。
「そろそろ、また聖夜の時期」
 慧はひとり、手に残っていた暖かく細い手の感覚を思いだし、そっと拳を握りしめる。外に映る景色はどこまでも続く白銀、窓を眺め思い出す。あの雪の夜を、あの明るい夜を、あの人の事を。
「待ち遠しいっすね、主さん」
 慧は外を眺め、遠い異国の想い人の事を想う。今年も、来年も、その先ずっと、会えますように、と。

おまけSS『※後書き』

 お久しぶりです、お待たせしました。
 仲の良い二人の様子を想像しながら、仲睦まじく須らく末永く爆発すべしという思いと百華さんの方が力持ちだとそれはそれでいいなあという思いを込めて書きました、ご満足いただけたら幸いです。きっと慧さんの想いは口に出さずとも百華さんへ伝わっているでしょう、きっとそういうものだと思います。

 クリスマスピンナップSSボイス化ありがとうございました!
 色々とこっそり拝見させていただき興奮と感謝で悶えておりました。

 それではありがとうございました。
 またの機会がありましたらよろしくお願いします。

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