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SS詳細

Merry Meritorious Xmas !!!

登場人物一覧

オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
同一奇譚

 がなる、がなる、鐘と鈴と聖なる歌。酒精に酔い、空気に酔い、陽気な享楽に跳ねる者が其処彼処。つい先日までの混乱の余韻をまるで失敗作だと切り捨て力任せに塗りたくるような有様で、独特の彩りは緑に赤、金銀飾り立てれば目潰しの如く星々の灯までも殺していく。
 遥か遠い故郷を夢見て造り出された盲目の街の外ではシャイネンナハトなどと呼ばれる今宵の祭、本来は勉学に勤しむべき子等も収まるべきいえの中で温もりを愛でる頃合いか。或いは寒空の下、埋まらぬ隙間を晒して奥まで届く欲望あいを求めて彷徨うものか。果たしてどちらが良い子で悪い子か——この街においては『教師』というモノとして定義された『物語』であれば、そう、当然の思考実験である。
 無感情な機械の声から数えること数秒、追い詰められた獲物が未だ逃げ場を探すようにじりじりと扉の影から顔を出す。ひ、と引き攣れた息が漏れたのは先生と呼び損ねたか。予告無き訪問だ、致し方無い。泳ぐ視線の先、校舎へ置き忘れられた筈の未だ真新しい画材を差し出す手をまさか畏れはすまい?
 街灯で照らされて浮かび上がる黒の貌に血よりも濃く濡れた三日月が嗤う。
悪い子よいこに今一度告げよう。心往くまで悦びを噛み締めるが良い。愉しい家庭訪問の時間だ」
 親の不在を語る舌は滑りに滑り、滑稽に踊る様を見据えたまま脳髄の頁を捲る指は一向に止まらない。

 ——ひとつ。私は貴様の名前を知っている。

 歌え、清らかなる心を。

 ——ふたつ。私は貴様の顔を知らなかった。

 謳え、清らかなる夜に。

 ——みっつ。貴様は私のことを知っていた。

 己が無罪を騙る舌は縺れに縺れ、木の実も林檎もジンジャーブレッドでさえその甘さには敵うまい。
「さあ導き出される答えを疾く述べよ。見事正解した暁にはサンタ宜しくプレゼントをくれてやろう」
「ッ……そ、れは……俺が先生の授業に出たことがないからで、でもだって先生が先生は」
 謝罪を宣う舌は終ぞ得られず。哀れ、憐れ、雪を思わせる白き袋に満ち満ちたのは甘さが焦げ付く罪禍の灰のみ。振り下ろす前に最期の問いを。
「お祈りの言葉は知っているかね?」
 嗚呼。聖人でも救えぬ悪い子は、この慈悲深き匙で掬い上げてやろうとも——Nyahahahaha!!!




 聖なる、生なる、いや静なるかな。ほう、と漏れた満足げな吐息は何方のものだったか。今も街中で狂ったように繰り返される歌の数々を自ら披露してくれた彼の手から滑り落ちた筆の悲鳴を最期に音は途絶えた。
 赤。紅。緋。朱。丹。赭。幾重にも団欒を重ねた暖色の匂うリビングの壁紙をキャンバスに描かれたそれは冬季休暇の課題だ。大胆かつ鬼気迫る躍動感は観る者の胸を大いに震わせるであろうし、残る力全てを出し尽くして施されたサインすらも愛でるべき逸品だ。人目に触れる頃には乾いて色褪せていると思えば何とも口惜しいが、ご両親には真っ先に真っ直ぐに彼の成長を堪能してもらえるのは教師冥利に尽きる。どうかどうか一分一秒を惜しみ帰宅してくれるようにと願うばかりだ、と——
「はて」
 ——『教師』が『学校』を舞台にした『物語』であるならば、『我が家』で捌かれた『悪い子供』は一体ナニを招き入れたのだろう。降誕祭のその起源、聖ニコラウスと共に訪れるというならば『クネヒト・ループレヒト』、所謂『ブラックサンタ』か。聖人の如く染まった『物語』は女性の形をしているが、見る者知る者は誰も何も此処にひとつとて在りはしない。敢えてのミスリードも要らない。観測されぬ事象は膨大かつ明瞭な情報の行間に埋められたまま。綴る手の主のみぞ知り得るならば性別など些細な誤解なのだ。
「やれば出来ると信じていたとも。嗚呼、これなら単位プレゼントをやっても可笑しくは無い成果だ」
 カーテンレールを飾る豚の臓物ホイップクリームを整える。流動的な作品もまた良いが、最良の状態を維持するさながらキュレーターのように添えられた作者本人との対話を忘れない。ごろりと転がるあたまひとつ、最期の瞬間の熱量に黒々と燃える石炭めだまふたつ。絞り滓は腹を空かせた袋に詰めよう。
 そうして片付けを済ませた足が玄関で止まったのは、両親への手土産も持たずに来た無作法を顧みたが故。有り合わせで恐縮だが、寄せて集めた灰の山に靴を乗せて小枝を刺す。
「これにて家庭訪問は修了だ。良き休暇をメリークリスマス!」
 殴ることも、鞭打つことも、良い子の彼にはもう要らぬ世話となっただろう、と。




『ここで臨時ニュースです。たった今入った情報によりますと——』


  • Merry Meritorious Xmas !!!完了
  • NM名氷雀
  • 種別SS
  • 納品日2021年12月23日
  • ・オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569
    ※ おまけSS『おはようございます。12月25日、朝のニュースです。』付き

おまけSS『おはようございます。12月25日、朝のニュースです。』

 ——聖夜に凄惨な事件が起きてしまいました。
 現場となったのは閑静な住宅街に佇む一軒家。
 仕事を終えて帰宅した両親の110番により事態が発覚しました。

 その目に飛び込んだのは夥しい量の血痕。
 引き摺ったような跡が続いた先のリビングの壁には血文字で愛する息子の名前、そして部屋中に頭部をはじめとした彼の遺体の一部が散乱していたそうです。
 駆け付けた警察の聞き込みによれば悲鳴や争う物音を聞いた者はおらず、周囲住民を恐怖と混乱に陥れました。

 付近の防犯カメラに映っていたのは事件の直前、玄関先を覗き込む被害者のみ。
 他に訪問者らしき姿は無く、窓から侵入された形跡もないとのこと。

 先程、血痕は全て被害者のものであり、指紋や足跡などから名前も被害者自身が書いたと断定されました。
 一体どのような状況でそれが行われたのか、遺体の状態からは凶器の特定も困難であるとの情報も入ってきております。

 しかしながら、これだけの惨状を引き起こした犯人の痕跡が全く残っていないことや未だ見つからない胴体、現場に残された大量の灰など不可解な点も多く、厳戒態勢を敷いての捜査は早くも暗礁に乗り上げ——

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