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モブから見た御天道・タント
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回はきらめく我々の、御天道 タント様について密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はタント様に詳しいという三人の方にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●農民・クエスの話
最初にインタビューする方はこちら。
クエス・ドナ氏、22歳。
小柄なのに巨大なクワを振るうパワフルな女性だ。
──初めまして、よろしくお願いします。
「はい、よろしくお願いします」
──さっそくですが、タント様とはどのような出会いをされたのですか?
「ええ、あの子は善意で色んな人たちのお手伝いをしてるみたいでしてね。私のところにもそれで」
──なるほど。
「このクワで畑を耕して、って渡したら、ヒィヒィ言いながら手伝ってくれましたよ」
──え? そのクワですか?
「はい。どうしましたか?」
──ええ……?
彼女の持つクワは一般的な成人男性の体重より重いという。
「試しに持ってみます?」
──え、いや、ちょっとそれは。
「はい、どうぞ」
インタビュアーは渡されたクワを振るうどころか、持つことすら出来なかった。
タント様──意外と、いやかなり凄いのでは?
──ウワアアアァ! 腰がァアアア!!
「あらまあ」
──ウッ……あ、歩けない。
「仕方ないですね、これをどうぞ」
──これは……?
「私たちの村に伝わる薬ですよ。秘伝のものですから、普段は外部の人には渡さないんですけど……私のせいなので。
……そういえばタント様も、いつもは無償で手伝ってくれてたのだけど、ちょっと前にこれを欲しがっていたっけ」
──あ、ちょっとラクになりました。
「効き目は抜群ですよ。作り方や材料は教えられないですけどね……フフ」
──何か怖くなってきました。ヤバイ薬じゃないでしょうね……?
「あ、そういえばあの子が畑に種を撒いてくれたんですけどね、育ちがとても早いんです。太陽みたいな子だからかしらね……ウチの村に永住してほしいくらい」
──えっ、メッチャ話すり替えてくるじゃないですか。
「だってタント様についてのインタビューでしょ。あ、水やりの時間なので、私はこれで。おほほほ」
──ちょっと? ねえ、私大丈夫なんですかね? ちょっと??
●客寄せ・キウィの話
次はこの方。キウィ氏は伝説の客寄せと呼ばれている。フリーランスの客寄せだ。
閑古鳥が鳴くカフェに赴き、1時間で100人もの客を集めただとか。彼の伝説は輝かしい。
──そう、タント様が現れるまでは。
──こんにちは。今回はよろしくお願いします。
「ああ、よろしく」
──タント様との出会いをお伺いしても?
「出会いか。最初はな、俺が雇われた店の、ライバル店の客寄せがアイツだったんだ。報酬も貰わずに引き受けるなんて、甘ちゃんだなって思ったぜ」
──はい。
「そこで、客寄せバトルよ。圧倒的な俺の実力を見せつけてやろうと思ってな。可哀想だが、これも仕事だしな」
──客寄せバトル is 何。
「まあな、俺だって長年やってんだ、多少の自負はある」
──あっ、特に説明無いんですね。わかりました。
「そりゃあ俺は見た目麗しい外見じゃねえが、トークや宣伝力は負けねえ自信はあった。あったんだが──」
──まさか……。
「負けたよ。ほとんどの客をライバル店に取られた。まあ……もう分かってんだ、何で俺が負けたのか」
──人望か、知名度……でしょうか?
「まあそれもあるだろうが……インパクトだよ。どれだけ軽快なトークや確かな宣伝をしても、圧倒的な衝撃には勝てないんだ!」
──……詳しく、伺っても?
「ありゃチートだ! だって──物理的に光ってるんだぜ!
あんな夜に! ビッカビカ! デコから!! 光が!! くっそお、スゲエ存在感だった!!!」
ライトアップされたようなタント様の高笑いが容易に想像できた。
確かにタント様の存在感やインパクトは大きい。人が吸い寄せられるのも理解できる。
「ついでにたくさんの虫にたかられててギャアギャア騒いでたが、それもショーみたいな絶妙な『ツカミ』だった──完敗だったよ」
──なるほど……タント様らしいオチです。
「だがな、悪い気はしねえんだ。久しく忘れてたよ、この感覚。いつまでも追われる側だった俺が、あの日から挑戦者ってわけだ」
──ようやく、ライバルが出来たというわけですね。
「ああ……だからな、この前アイツに宣言して、焚き付けて来たんだよ。『俺が来るまで、他の誰かに負けるんじゃねえぞ!』ってな」
──タント様は、何と?
「そうしたら……『あなた、誰ですの?』ってな……へへ、どうやら驕らずにイチからやり直せって事らしい。ますますアガるぜ!」
タント様にとって客寄せはお手伝いの一環であり、彼ほど熱心に取り組むものではないようである。
ライバルとして……いや、そもそも『伝説の客寄せ』として認識されていない彼の明日はどっちだ。
──そういえば、お二人は何のお店の客寄せをしていたんですか?
「ん……そういや、言い忘れてたな」
キウィ氏はインタビュアーに1枚のカードを手渡した。
描かれている気色悪い花のマスコットが、ニチャアと笑顔でインタビュアーを見ていた。
「花屋だよ。そーいやアイツ、無償で引き受けたって言ってたけど、お礼に何か貰ってたみたいだな。デカい花束抱えてたし」
──花屋の前でそんなバトル繰り広げてたんですか? てかキモいなこのカード!
「ハハハ、たとえそのキモいマスコットのキグルミを着てもなお、客を入れるのが俺の仕事だしな」
──この、この花のキグルミ着てたの!? ウソでしょ!? 絶対負けた理由これのせいじゃん!
「おっと、俺はまた次の仕事があるから、この辺で。んじゃな!」
──あ、はい。ありがとうございました。
●重傷患者・フレデリクの話
正直に申し上げると、我々は彼に話を伺うのは躊躇われた。
だが、彼自ら『あの子』の事を語らせてくれと頼んできたのだ。
天義の騎士、フレデリク・プレザルトン氏。
あの『天義の事件』にて、深い傷を負いながらも生還を果たした勇敢な騎士である。
彼は病室で寝たきり状態だったが、ゆっくりと身を起こして、インタビュアーに思いを語ってくれた。
──今回はよろしくお願いします。
「こんにちは。よろしく頼むよ」
──具合はいかがですか?
「不思議なことに、最近すごく調子がいいんだ。体が痛まない。あの子のお蔭かな」
──タント様ですね。
「うん。不思議な子だね。近くにいるだけで、そして声をかけてもらえるだけで、力をもらえるようだよ」
──タント様との出会いというのをお伺いしても?
「たまたまこの病院にやってくる事があってね。きっと復興支援活動の一環だったんじゃないかな。僕の病室に入るなり、高笑いしてね……
『このわたくしがやってきましたわよっ!!』──ってね」
──タント様らしいですね。
「……僕はね、あの戦いで内臓も体もボロボロになった。医者も延命が精々だって言うほどにね。
家族も、恋人も、友人も、皆死んだ。どうして自分が──そうも思った。でもね、あの子はそんな僕に、生きる事を諦めないでと手を握ってくれた」
──……。
「あの子が居なければ、僕はとっくに死んでいたと思う。あの子が、生きる勇気をくれた。
だから、動けない僕が出来て、何かを残せるとしたら──誰かに、あの子の事を話す事だけだったから」
──タント様が、あなたの生きる希望になったのですね。
「どうかあの子の事を、こう伝え広めてほしい。『タント様は、太陽のような存在だった』──ってね」
──はい、必ず。それが私どもの使命ですから。
コンコン、と控えめなノックが病室に響いた。
「おや……どうやら来客のようだ」
──長くなってしまってすみません。この辺りで切り上げましょうか。
「そうだね……本当はもう少し、あの子の事を話してあげたかったんだけど」
──いえ、では。今回はありがとうございました。
「さようなら、お元気で」
インタビュアーは不審に感じていた。
彼の家族や友人、恋人は、先の事件で全員喪ったと聞いている。
ならば一体、誰が彼のもとへ訪れるのか? その答えは、扉を開ければすぐに分かった。
病室を後にするインタビュアーに対し、きれいにお辞儀をしてみせた小さな影。
すれ違いざまに彼の病室に入っていったのは、大きな花束とあの薬を手に持ったタント様、その人だったからだ。
●おわりに
──インタビューを終えた3日後、フレデリク氏が退院したという報せが入った。
まるで奇跡だと、医者も驚いていたと聞いた。
彼をやさしく照らした『太陽』が、その奇跡を引き寄せたのではないか──と、我々は思う。
我々も確かに感じ取ったのだ。そう、タント様は──まさしく太陽のような存在だった、と。