SS詳細
おやさいごろごろ初恋の味
登場人物一覧
●
貴方と作る、幸せの味。
お師匠さまに私、アイラ (p3p006523)が最初につくってもらったのがそれだった。
お師匠様にたすけられて、毛布にくるまれて怯えていたボクに無愛想に差し出されたソレはとてもとてもあたたかなポトフ。
ざっくり切られたキャベツがたくさん。ごろっとした人参、じゃがいも、そして甘い玉ねぎにヴルスト。
水とコンソメで煮込まれたそれは料理と言うには少しだけ簡単すぎるものではあるけれど。
それでも暖かくて、美味しくて。
ホクホクのじゃがいもがやさしくて、にんじんだってあまくて。
ボクは自然と涙がこぼれた。涙を流しながらひたすらにポトフを食べるボクをお師匠さまは優しくなでてくれた。
……思えば、その時ボクはお師匠さまに恋をしたのかもしれない。
だからポトフの味はんボクにとっての――。
キャベツは、丁寧に6センチ角きって。
根菜は味を楽しんでほしいから大きめに。
にんじん、だいこん、じゃがいも。
でもしっかりと味は染み込む程度の大きさ。実はそれは何度も作るうちに開発した最適解がある。ポトフの作り方を教えてくれた、お師匠様にだって企業秘密だけれども。
玉ねぎは軽くバターをひいたお鍋で透明になるまで炒める。そうすると香ばしさがスープに馴染んでぜっぴんとろとろの甘い玉ねぎになるのだ。
玉ねぎのはいったお鍋に水とコンソメを入れてお野菜をいれる。彩り用の黄色いパプリカはボクのオリジナル。
ブロッコリーもいれれば赤、緑、黄色でとっても美味しそうな見た目になる。料理に見た目は大事なのだ。
隠し味はすりおろした生姜。普通につくるよりもっともっと暖かくなれる。
お師匠様と、一緒に作っていたこのポトフはいつのまにかボクの、得意料理に、なったと思う。
初めて野菜をボクが切ったとき、お師匠様がちらちらみてきたのを覚えてる。ふふん、ボクは包丁さばきは、お師匠様より、上手くなったよ。
そうだ、もうひとつ。隠し味。
ボクは指先でハートを作って「おいしく、なぁれ。大好きが、ボクの、大好き、いっぱいとどきますように」と念じる。
……誰かに見られていたら恥ずかしい、けど、でも。これは大事な大事な、隠し味。
本でよんだ、愛情は最高のスパイス。
それを欠かす、なんて、とんでもない、お話なのだ。うん。
そういえば、お師匠様の使い魔に一度だけみられて、とっても恥ずかしい、思いをしたことを思い出した。
忘れて、っていったけれど……。
あれ? お師匠様と使い魔ってもしかして感覚が通じ合っているんじゃ……だとしたらもしかして、お師匠様はソレをしっていたかも?
うう、数年ぶりに気づくこの失態。お師匠様は笑ったのだろうか? そんな、素振りはみせなかったけど。
うう、恥ずかしい。
でも、へこたれない。だって、それでも、恥ずかしくても、愛情は最高のスパイス。
きっとあの言葉に間違いは、ないと、思う。
だって、お師匠様はいつだって、美味しい、と言ってくれていたのだから。うん。
ことことこと。
お鍋のなかで野菜が踊る。そうだ、ヴルストも忘れずにいれなきゃ。
ことことこと。
ボクはこの煮込んでいる時間がとっても大好きだ。
美味しい、っていって笑顔に、なってくれるんだろう、って考えてにこにこ、しちゃう。
それにお師匠様を好きになったきっかけ。それがポトフだから、ボクにとっての初恋の味はポトフになるのかな?
コンソメ風味の甘い野菜の味が初恋の味なんて、ロマンチック……からは遠いかもだけれども、でも。
ボクには、それでいい。うん、それがいい。
最後に黒胡椒をぴりっと効かせる。すこし辛めがあのひとの好みだから。
これでばっちりできあがり。ボクの特製ポトフの完成!
こんこんこん。
ノックの音。
誰のノックかはわかってる。大好きな大好きなあのヒト。
お師匠様意外に自分は好きになるひとなんてできるわけないと思っていたのに。
でも、するっとあのひとはボクの心にはいりこんできたのだ。
その変化が、暖かくて、くすぐったくて、すごく、幸せ。
だからボクはポトフをつくってお迎えする。
大好きな人に伝えたい味。
ボクの大好きが詰まった味。初恋の味だなんてあのひとにいっちゃうとすこし、嫉妬しちゃうかも、だから、それは内緒。
ボクの、ボクとお師匠様だけの秘密。
おかえり。ドアをあければ、あのひとがいる。
そういえる相手がいることが、幸せ。