PandoraPartyProject

SS詳細

愛敬づく黄泉津に響く

登場人物一覧

建葉・晴明(p3n000180)
中務卿
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力

 海洋王国で行われた夏祭りを終え、瑞神にお土産を渡したいと告げたメイメイを神威神楽で迎え入れたのは晴明であった。
「よく来てくれた」と笑いかける彼は何時もの通り些か疲れが滲んではいるが、此度の約束を楽しみにしてくれていたのだろう。
「瑞さまとのお目通りに、ご尽力、頂き、ありがとうございます……」
 のんびりとした調子で定型の挨拶を行うメイメイに晴明は首を振る。此度、瑞神にお土産を渡すという理由に乗っかったのは自分自身だ。
 彼女がお土産を、と手渡してくれる事を喜び自身からも思い出を何か分け与えられればと願った事が理由でもある。少し経ってみれば人を誘うなど慣れずに些か小っ恥ずかしい台詞を並べ立てた気もしてならないが――さて。
「瑞神へと面会するのだ。よければ茶屋に寄っても?」
「はい」
 こくりと頷いたメイメイに晴明は「メイメイ殿は何がお好きだろうか。甘い物はお嫌いではないか?」と伺うように問いかけてくれる。
 瑞神と、彼女に会うならば必ず付いてくる黄龍への供物(と書いて『おみやげ』と読むのである)を用意しようとしているのだろうか。黄龍曰く「吾はぐるめなのだ」との事だ。神威神楽の中の様々な茶屋を巡って彼の神霊の好ましい物を選んでいるのだろう。
「晴明様は、甘い物はお好き、です、か……?」
「俺か……そうだな、甘い物は嫌いでは無い。が、余り口にはせぬかな。主上や神霊に分けることが多く……。
 ああ、そうか。此度はメイメイ殿と二人だ。瑞神や黄龍には悪いが先にご相伴に預らせて頂いても?」
 悪戯を思いついたように笑った晴明にその様な表情もするのだとメイメイはぱちぱちと瞬いた。
 先の夏祭りのお礼だと自身を招いてくれた晴明に優しい方だなあとぽやぽやと考えていたメイメイは彼も仕事を離れれば幾分か少年のような表情をするのだと感じ入る。
「はい。お好きな物を、こっそり、食べましょう」
「そうだな。実はみたらし団子を食べてみたかったのだ。店先で作っている温かな餡を掛けてくれるのだが……
 遣いに出て購入するとどうしても冷めてしまう。これは『お遣いに出た』物だけの特権だろうと何時も思っていたのだが。メイメイ殿が一緒だと貴殿が一緒だったからと言う言い訳が立つな」
「まあ」
 言い訳なんて、ところころと笑ったメイメイに晴明は「子供過ぎる理由であっただろうか」と呟いた。どうやら、彼は此度のために仕事をある程度片付け、メイメイのエスコートをすると決めてきてくれたのだろう。気分が軽く見えるのはそうした様子から来るものか。
「失礼、何時も世話になっているな」
「ああ。中務の……あれ、晴明さん。そちらは?」
「こちらか。神使の――……いや、俺の友人だ。伴を連れてくるなど珍しいだろう?」
 店主をちら、と見遣る晴明は何か言いたげな視線だ。店主は可笑しいと笑って「お茶をごちそうするから飲んでいきなさい」とメイメイの方をぽんと叩いた。
「い、いいのでしょう、か」
 慌て、晴明を伺ったメイメイは店主からの特別なサービスに僅かな戸惑いを感じていた。きょろきょろと周囲を見回して困り眉を作った彼女に晴明はこっそりと耳打ちする。
「この店主は俺が幼い頃からよく知って居てくれるのだが、何分、友人という物を連れてくる機会も無かったのだ。
 ……獄人でありながら父も八扇の一枚であった故に、友など居たことも無かった。勝手に貴殿を自慢してしまい申し訳ない」
「あ! い、いえ……その、おともだち、と行って貰えて嬉しい、です」
 ほんわかとした笑みを浮かべたメイメイに晴明は「貴殿ならそう言ってもらえると思った」と晴明は微笑んだ。不器用な彼は獄人と呼ばれていた種族であった事からかなりの我慢や不自由を強いられてきたのだろう。そんな彼が悠々と市中で友人と茶屋に寄ると言うのがどれ程貴重なイベントであったのか。店主達の様子を見ればメイメイも感じ入る。
(……霞帝さま、は、偉い方、で。瑞さまたち、神霊さまは、神様で……。晴明さまは、ご友人と呼ぶ存在が、あまり、いらっしゃらなかったのです、ね)
 今まで彼が国に尽くしてきた忠義がそうしていたのだろう。神使との出会いがその在り方を良き方向に変えたと思えば、この国に訪れた事は間違いでは無かったのだと強く感じられる。
 運ばれてきたみたらし団子の甘い香りに晴明が「メイメイ殿、どうぞ」と笑えば少女は慌てたようにぱちりと瞬いた。どうやらメイメイが食べるのを待っているようである。
 お預けを喰らっている犬のような表情でじいっと待っている晴明に「先に食べても、良いですよ?」と笑えば、彼は困ったように頬を掻いた。
「……慣れて居なくて」
「ふふ、はい。それじゃあ、頂きましょう、か」


 頂きますと声を合わせれば、晴明は団子を口に運んで大きく頷いた。屹度、暖かな餡の掛かったみたらし団子は寒々しい冬にでも良く合うだろう。
「こうして貴殿……ああ、いや、君と団子を食べる事になるとは思っては居なかった。
 最初は海洋王国での祭典へ行くのは心配していたのだ。何分、我らは遠き外洋の小国だ。あの大陸には様々な列強も居るだろう。
 この存在を公にし、政の中枢を全て連れ出すのは抵抗があったのだが……あのイベントも悪くは無かったな」
「そう、ですか?」
「ああ。君と友人になれた」
 そこまで口にしてから、またも小っ恥ずかしい台詞を口にしたのだろうかと晴明は自問自答する。どうやら彼は先に思った言葉が口からするりと飛び出してしまう様子である。
 言われた側のメイメイはお友達だと思って貰えたことが嬉しいとふんわりと微笑んでいる。彼にも、彼女にも、言葉には深い意味など存在していない。友人と呼べる優しい関係性が嬉しいのだと団子を口に運びながら笑みを零すだけだ。
「そういえば、あの日、お面をくれただろう。天狗の仮面だ」
「はい。正体もばれずに、楽しんでもらえるかと、おもったので……」
 こくりと頷いたメイメイに晴明は「あの仮面なのだが」と言い淀んだ。どうやら、お面は神威神楽に持ち帰って直ぐに黄龍が瑞神にかぶせて遊んでいたらしいのだ。
 折角、瑞神にかもめのぬいぐるみをお土産に選んで貰ったと言うのに先に彼女に何らかの土産を渡してしまった事が申し訳ないとでも言いたいのだろうか。言い淀んでいる晴明にメイメイはぱちぱちと瞬いてからくすりと笑う。
「大丈夫、ですよ。瑞さまは、きっと、ぬいぐるみも喜んで、くれます、から……」
「ああ。それは保証しよう。彼女はどようなものだって喜ぶが特にふわふわとしたものは寝所に持ち込む事が多いようだ」
 ぬいぐるみやふわふわとしたブランケット。神使のお土産に丸まって眠る瑞神を想像してメイメイは「めえ」と呟いた。可愛らしい事この上ない。
 話している内に串が所在なさげに二本並んでいる。そろそろ行こうかと立ち上がった晴明はメイメイにそっと手を差し出した。
「さ、行こうか」
 その手に引かれ、瑞神達の元へとゆっくりと歩いて行く。どうやら歩調を合わせてくれている彼は友人との一時を心の底から楽しんでいるかのようだった。

 ――余談ではあるが、瑞神が「かもめ、とても可愛らしいですね。良い大きさです」とふわふわと楽しんでいる最中に黄龍より「友人か」と揶揄われ続ける晴明をメイメイは暫くの間眺めることになるのだった。

  • 愛敬づく黄泉津に響く完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2021年10月31日
  • ・メイメイ・ルー(p3p004460
    ・建葉・晴明(p3n000180

PAGETOPPAGEBOTTOM